大日本帝國軍の愛と友情の日々

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千尋に届く波の音・第捌話

 ―あれから、暢生が黙って病院を抜け出すことは一度もなかった。

 篭りがちだった心を解いて、病を治すことに前向きになり、言うまでもなく勉学に勤しむことも忘れず、どこかこれまでになかった、明るさを覗かせつつあるようにも見えた。

 これまで那智を、風変わりなひとりの上官、としか認識していなかった暢生だったが、例の病院脱走騒ぎを境に、見る目が変っていた。


 あの日―。

 那智は深川の自邸に居たのだが、血相を変えてやってきた加藤のはなしを聞き、暢生の病状を踏まえて、諸々の事態を想定したらしい。ただあの時、那智が暢生に対して言ったように、”将来を儚んでおっ死ぬようなタマ”として見ていなかったことだけは確かである。

 病身である暢生が、抜け出した先で不慮の事態に遭うかもしれない、ということを考えていたのだ。それを踏まえたうえで、休日だというのに軍服を纏って飛び出してきたのだと、後に鷲頭たちから聞かされた。

 騒ぎを大きくした粗忽者たちに一発ずつ拳固を呉れはしたが、那智は那智で、部下である暢生の身に万が一でも何かあったときには、潔く責任を取る積もりでいたのである。

 入院している暢生を、那智は肇敏の艦上にあって一日たりとも忘れたことはない。少尉任官を目前にしながら、艦から離れねばならぬことが、どんなに暢生を落ち込ませているかと、那智は我がことのように悔しがっていた。

 病院を抜け出したことを一切叱りつけなかったのは、このことがあったからであろう。

 那智にしてみれば、部下を持った者として当然のことをしただけなのだろうが、暢生はその配慮に対して何としても報いたい、とおもい、療養に励んだ。

 そうして、ふた月の後の明治十六年九月になって、暢生は病を完全に克服したのだった。

 宿舎に戻ってきた暢生を歓喜の輪で迎えたのは、同じく少尉に任官したばかりの同期生たちだった。かれらに揉みくちゃにされたあと、その輪から引っ張り出すのに鷲頭たちは相当苦労する羽目になったが、落ち着いた所でめいめいが酒肴を持ち寄って暢生の部屋へ集った。

 「後遺症もなしか、良かったな新見」

 「皆には心配をかけたね…、済まない」

 「那智中尉は、貴様が退院したときいたとき、何と言ったとおもう」

 「え…?」

 「おらァ、最初ッから治ると思ってたぜ、病は気からってェ言うだろうが。と、こうだ」

 加藤の言葉に、暢生は返答に詰まった。確かに暢生が病に罹ったときも、入院の為に艦を降りるときも、那智は何も言わなかった。病が治るか否か、というのに対しても那智はやはり、暢生の心持ちを信じていたのだろう。

 これが他の分隊なら、また話は違ったかもしれない。

 候補生の教育担当官である自身の責任が問われることを懼れたりして、候補生のことなどそっちのけになる分隊長も、中には居たであろう。那智も漏れなくその責を問われた筈であるのに、それらの片鱗を全く見せなかった。

 直属の部下だった第三分隊の候補生たちは、病に罹った暢生を含めた全員を、少尉に押し上げてくれた那智に、言うなれば惚れこんだ、ということになる。

 「また今度、配属が変わるらしいが…、那智中尉は一人、おれたちは五人だ。直属の部下になれるのは二人だぜ。誰があの人の所へ行っても、恨みっこなしだ」

 「ああ…」

 有元がそう言ったのには理由がある。少尉でも全員が全員、海へまた出てゆけるわけではなかったのだ。

 この頃の海軍にはまだ、作戦参謀を担う軍令部という組織が確立されておらず、明治十六年と言えば、海軍省内で軍令部の前身となる組織”軍事部”の立ち上げが進められているところであった。

 陸主海従、という言葉が当たり前のように使われているだけに、我が帝國に於いては常に陸軍に対し重きを置く傾向がある。海軍はそれほど重要視されていないのが現状であるが、それでも、四方を海に囲まれている国土を鑑みれば、その守りというのは軽視できぬものがある。

 その”軍事部”の設立に、参謀向きの将校を引き抜こうという動きがあるらしい。只でさえ少ない人員である海軍であるからして、少尉中尉からも選ばれる可能性が出ている。海へ遣られずに陸での任に着くことになりそうだということに、誰もが兢々としているらしかった。

 「馬鹿な…、作戦参謀だろうと、艦隊勤務だろうと、同じ海軍を担うことには変わりないだろう」

 苦々しく言う鷲頭に、暢生は尤もだという風に頷き返した。

 「兎に角、今度の異動で皆、離れることになるだろう。貴様たちの…武運を祈るぞ」

 有元の言葉に、暢生たちは杯をあけた。

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| 千尋に届く波の音 | 02:55 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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