大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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千尋に届く波の音・第肆話

 それから、那智の言葉どおり、比叡と金剛にて艦上訓練に励んでいた候補生たちは、それぞれ横浜の東海鎮守府に繋留されている練習艦、肇敏へ乗組むこととなった。まだ遠洋航海には出たことがない士官の卵たちは、ゆったりと風をはらむ白いマストを見上げて、それぞれに思いを巡らせる。

 二隻の新型艦に分乗していた九期生だったが、元々が生徒数の少ないクラスでもあり、全員が肇敏の艦上に立った。このことは暢生たちを喜ばせ、俄かに生き生きとし始めたのであるが、一方の教官である那智は日が経つに連れ、不機嫌そうな雰囲気が増していった。

 その気配は暢生だけでなく同じ分隊の誰もが感じていた。しかし、那智が極力それを抑えようとしているの察して、第三分隊の候補生たちは黙っていることにした。以前、くだらぬことに構うなと那智から叱咤されたことを、暢生から聞いたというのもある。

 「…なあ、どうして那智中尉はあんなに神経を尖らせているんだろう?金剛の連中が乗組んできてからもう、ずっとだぜ」

 とうとう半月が経った或る日、昼食後の休憩時間に有元が堪えかねたように口をひらいた。暢生、鷲頭、有元、三上、浅田、といった面々でひとかたまりになって、後甲板に円座をつくる。加藤と纐纈は他所の分隊へ顔を出しに行っていて居ない。

 「分隊長の性格からして、あれの原因がおれたちにないことは、まず間違いはない筈なんだ」

 有元が言うと、皆の視線が自然と暢生に集まる。何か知らないのかと問いたそうな眼差しを受けて、暢生はゆっくりと首を振った。遠洋航海に出る前であり、那智に言われたとおり暢生はそのようなことを考えるのは控えて、軍務に専念している。

 余裕が無いわけではなかったが、いざこうして実地訓練に臨むとなると、那智が苛立っている原因が何なのか、というようなことに思考を巡らせている時間は殆どなかった。

 「わからないよ…。それに、こんなことを話しているのを分隊長に聞かれたら、間違いなく鉄拳が飛んでくるぞ」

 もうやめよう、と言って暢生はそれきり口を噤んだ。

 「ん…?お、おい、誰かがこっちへ来るぞ」

 三上の声に皆は振り向くこともせず、咄嗟に立ち上がり、端正な姿勢をとった。中甲板から上がってきたらしい士官がひとり、ゆったりとした足取りで暢生たちの方へやってくる。その長身と中尉の袖章とを認め、かれが誰であるか暢生は思い出した。

 「きみたちが、九期生のクラスヘッドか」

 候補生たちの正確な挙手の礼に、きれいな答礼をしてから、中尉はにこりと微笑を浮かべる。那智と並んで大黒柱と言われ、同じ分隊長を務めている、城内顕範中尉であった。堂々とした体躯に見合う鷹揚な態度と、落ち着いた話し振り、それに何よりも惹きこまれるのは、嫌味のない微笑を浮かべる穏やかな面差しである。

 「なかなか、声を掛けられる機会がなくてね。本当はもっと早くきみたちと話をしたかったんだ」

 持って生まれたものなのか、どこか人を惹きつけるものを醸している、と暢生は肌で感じた。なるほど魅力のある人物というのは、こういう男のことを言うのかもしれないな、といつもの静かな眼差しを城内へ向けながら、感心していた。

 「九期生は随分と優秀な生徒ばかりで、成績も殆ど甲乙つけ難かったらしいね」

 「そんなことは…。九期のクラスヘッドは新見候補生であります」

 浅田の答えに、暢生はかっと頬に熱が上るのを感じた。窘める眼を浅田にちらりと向けてから、その言を正した。海軍兵学校の教官たちは試験の数値で”首席”の判断したに過ぎず、海軍の諸々の面での適正で言えば、鷲頭や有元の方が余程優れている。候補生になってから、暢生はそのことを痛感している。

 「いえ、クラスヘッドとは名ばかりです。それは…、それは机上の演習や、筆記試験に於いてのみの話です。実質は鷲頭候補生がクラスヘッドであると、私は思っております」

 水を向けたつもりはなかったが、鷲頭は暢生からそう言われて眉間を更に嶮しくしただけで、むっつりと黙りこくっている。ひとには得手不得手があるのだから、無いものを補いあって切磋琢磨してゆけば良いだけのことで、鷲頭にとってはこのクラスの誰がクラスヘッドだろうが、どうでも良いことであった。

 「ふむ…成る程。面白いねえ、きみたちは」

 と言いながら、城内の眼差しが先刻までの、慈眼を以って衆生をみるようなものではなく、暢生だけに注がれていた。穏やかで温かい、という印象は初めと変わらなかったが、暢生は一瞬怯んだ。

「色々あるだろうけれど、負けずに頑張るんだよ」

 励ますように、城内は暢生の肩に掌を置く。その掌が離れたと思いきや、するりと滑って指が頬へ触れた。暢生は表情こそ変えなかったものの、ぴくり、と体が震えて硬直するのを制することまでは、できなかった。しかしそれはほんの僅かな、数秒のことであった。

 城内は暢生から離れると、元のように大らかな笑顔を候補生たちへ向ける。暢生は詰めていた息をごくゆっくりと吐き、それから息を整えた。名状し難い緊張から解かれたのを、何だったのかと詮索する余裕はなかった。

 「おい城内!そこで何ィしてやがる」

 ぱん、と弾けるような小気味いい声が響いて、暢生たちは背中に鉄板でも突っ込まれたかのように、ぴしりと姿勢を正して固まった。浅草寺の仁王さまのような形相をしている那智を見ても、城内は動じない。

 「やあ、那智くん」

 「手前ェ…!近寄るなと、言っただろうが!」

 「そうだったかな?」

 「けッ!」

 無邪気に首を傾げる城内の前に立って、那智は荒々しく息を吐いた。それから、やや色をおさめて、暢生たちに顔を向ける。

 「…お前ェさんたちゃァ、中へ戻ってな」

 その声は普段と変わりなく、却って不気味である。暢生たちはふたりの分隊長を残して、そそくさと中甲板へ降りていった。士官室へ入ってからも、候補生たちは互いに目配せをしただけで、何も口に乗せなかった。

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| 千尋に届く波の音 | 17:59 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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