大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰肆拾漆話

後ろ髪をひかれる思いで、夜の香気から抜け出して、一睡もせずに湯だけをつかう。鷲頭と嵩利はまた海軍士官の身形を整えると、そぼ降る雨のなかを俥に揺られて陸軍参謀本部まで向かった。

薄暗く、霧の掛かったような朝は、まだ夢の続きに居るような錯覚さえおぼえた。しかしそんな夢想も、市ヶ谷に近づき、陸軍参謀本部が見えてくるにしたがって吹き散らされる。

朝の一時が過ぎれば、陸海の幕僚たちはもう何度目になるか、同じ会議室へ閉じこもった。

心の奥では、耳目を閉ざしたい衝動に駆られながらも、会議の席で端正な所作を崩さずにいる。そうした鷲頭父子のすがたを眼にして、痛々しく感じたのは多分、この座では加藤参議官だけであったであろう。

ことさらに表情を変えぬようつとめて、嵩利は黙々と書記に没頭していたし、鷲頭は海軍の装備、人員の被害を最小限に抑える、というその一点のみに意識を集中してい、陸海軍参謀に作戦の是非について質問を向けていた。

昨日までの進展のなさに比べたら、嘘のような会議の運び具合であった。

午前中で既に、陸海軍の基本的な部分では合意に至っていた。それというのも、出動している艦隊から緊迫した状況が伝えられたからで、前線の―と言うにはまだ曖昧な立ち位置ではあるが、那智司令長官の名で送られてきた電文によって、陸上の幕僚は尻を叩かれたかたちとなった。

―何してやがんでェ、確りしゃァがれ―

そんな那智の声が聞こえてきそうで、鷲頭たちは頭から冷水を掛けられたも同様だったが、同時に慰められもしたし、励まされもしたのだった。


「ああ、みなさんご苦労様でした。…お帰りなさい」

四日目にして会議を終えた鷲頭、加藤、嵩利の三人が海軍省の赤煉瓦へ戻ると、次官執務室で新見が待っていて、出迎える。

普段は湖面のように揺らがぬ怜悧な眼に、労わりの色を心底から滲ませているのを認め、鷲頭は親友の思いを受けて気を緩めた。漸くその面に苦悩の表情を浮かべ、息を吐く。

「やっと、終わったよ」

無造作にとった軍帽を机へ放り投げ、長椅子へ身を沈めると、すかさず嵩利の手が伸びて、日覆いの掛かった鷲頭の帽子がそこから取り上げられる。一分の隙もない身ごなしは、却って鋭く研ぎ澄まされた刀か何かのようで、折れそうな危うさと、張り詰めた厳しさとがあった。

「いいから。鷲頭副官―、きみも少しは休みなさい」

手に携えたそれを、帽子掛けへ持ってゆこうとするのを、新見がとどめた。言うだけでは諾かぬだろう、と加藤は腰を浮かせると黙って手を伸ばし、嵩利の腕を掴み取った。

「もう、始まっちまったからな。そう何時までも全身尖らせてちゃ、身が持たんぞ。いいか副官、明日からまた、確り次官を支えてくれなきゃ困る身なんだ。それを忘れるな」

「そんな、このくらいのことは何時もしていることです」

心外だというように答える嵩利に、上官たちの視線が集まった。どことなく飄々としたものを漂わせる、明るさと愛らしさを含むいつもの様子とは違っていることに、当の嵩利は気づいていない。

頭の回転が速く、気を配ることに関してずば抜けているだけに、艦隊勤務では乗組からまるで慈母のように慕われているが、やはり、赤煉瓦に於いてはその力は恵みとはならず、折々、撥ね返って自身を傷つけている。上官たちが嵩利を赤煉瓦へ残したがらなかった理由は、ここにある。

「無理しやがって。おれたちが分からんとでも思っているのか?」

「何を、仰っているのですか」

「きみは当分、次官の副官に専念なさい。大臣の傍には私がつきますから」

「―頼めるか、新見」

「ええ。人事もいまは落ち着いていますし」

「よし、決まりだ」

そんな応酬のあと加藤は頷くと、嵩利の前に立ちはだかるようにして、とん、と胸を強く突いた。たたらを踏んだところへ、嵩利の後ろへ立った鷲頭の腕が伸びて受け止める。

「おい春美、お前もだぞ。もうあとは大臣にまかせて、今後議会へ出て行っても居るだけで上向いてろ。苛立つだけ損だぞ」

盟友たちが抱く思いは同じだった。いつか立て直す時期が来る、と。

作戦が決まったいま、艦艇の配備から作戦行動に伴う補給に至るまで、海軍省が確りと背負わねばならない。明日からこなさねばならぬ軍務はこの部屋に、堆く積まれるのだ。

「どうせなら次官秘書官を大臣につけましょう。では…明日から、全てお二人でこなすんですよ。いいですね」

「そいつはいい。未決済の書類を溜め込んでも、おれは手伝いには来ないからな」

「待て、勝手をするな。新見、加藤、今は戦時だぞ。そんな悠長なことを言っている場合か」

「海軍士官はスマートであれ、だろうが。今のお前たちは、まるで孤島に取り残されたような顔をしているぜ。ここを何処だと思っているんだ、まして、おれたちも居るっていうのに」

すこしは頼れ、と二人の友から眼で訴えられ、さすがに鷲頭も黙った。思い返してみれば、次官に就いてからというもの、誰の手も借りずに―伴侶でもある頼れる副官を除いて―ここまで海相の下で働いてきた。

軍務に妥協のない鷲頭の姿勢を知っている加藤たちからみても、今回の次官就任から始まったその務めぶりは、切羽詰った姿としかうつらなかったのだ。
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| 綿津見の波の色は・141―150話 | 01:01 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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