大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第弐拾肆話

 程よく暖房が効いていた個室から飛び出すと、廊下で途端に寒さに襲われる。

 病み上がりの身に外套なしでは、さすがにつらい。階段を軽快におりて、階下へ降りると局長室へ取りにゆく。部屋には誰もいない。洋服箪笥から外套を引っ張り出して袖をとおし、帽子掛けから軍帽をとると珍しくきちんと被る。

 『杉閣下…!』

 最低でも五、六人の声が、惟之の名を呼んだ。振り返って見れば、開きっ放しにしておいた扉の向こうで、部下の将校らが鈴なりになってこちらを見ている。

 「もう、お起きになられても―」

 「君たち。この三日…よう踏ん張ってくれたのう。あとはおれに任せてくれんか、なっ」

 さり気なくことばを遮り、つかつかと彼らの前へ歩み寄ると、にっこりと微笑みかけ、右へくびを傾げる。童顔際立つ惟之の笑顔であったが、部下たちは気圧されて一斉に後退り、道をあけた。

 「では、議会へ行ってくるぞ」

 愛嬌のある、丈のちいさい上官が、この時ばかりは違って見えた。後姿を見送りながら、誰かがひと言呟く。

 「龍に噛みつかれるかと思った…」

 惟之の怒りは、自身と議会の連中に向いていた。体調を崩したとはいえ、のうのうと寝転がっていた自身の能天気さには、殊に腹が立っていた。第一局の連中は夜を徹して、この問題を解決せんと躍起になっていただろう。愛すべき部下たちの筆頭、恩田と副官の顔が涙の滲んだ目に浮かぶ。

 「あんならァ…、馬鹿者ばっかりじゃ」

 いつものように歩いてゆく時間もおしい。一刻も早く乗り込みたいが、間の悪いことに、所用で車の類はすべて出払っている。門前で逡巡していると、本部の横手から馬の嘶きがきこえた。

 「おい、騎兵将校か伝令使が来ちょるのか?」

 衛兵の詰所へ顔を出して訊くとすかさず、騎兵科の松沢少将がいらっしゃっております、と答えが返ってくる。帳簿を見れば、どうやら川上少将を訪問しているらしく、電話の受話器を引っ掴むと呼び出した。

 「川上さん、松沢さん来ちょるかな。ちとこれから急ぎで出かけるけぇ、馬ァ拝借さしてもらうちゅうといてくれませんかのう」

 「もう体はよろしいのですか、杉サン」

 「あァ、何てことはありません。あとで直にお礼に伺いますけぇ、待っちょって下さい」

 話を終えると、すたすたと厩舎へ歩いてゆき、ひとの手も借りずにさっさと馬を牽いてくる。馬はすらりとした栗毛で、よく目立つ。惟之は短躯の身を立てずに、前へ屈めて手綱を取ると馬と一体になって、あとも見ずに駆け出していった。その姿を、本部から飛び出してきた恩田と和胤とが、見送った。

 「こうなったら、閣下にまかせるしかない。しばらくしたらお迎えにゆこう」

 議会に乗り込んだ惟之は、猛然たる大風のごとく、議員諸氏を叱り飛ばした。彼らの言い分をきけば、国防は軍人が専ら担うべきであり、国会や議員には一切関与する必要はない。予算は次の半期まで苦しいから出せない、という。

 「貴公らは、敵艦隊が東京湾まで乗り込んで、尚且つ三十三糎の砲弾が頭上で炸裂せんと、この危機がわからんようですな」

 これには惟之も呆れ果てて、再度あたまから、懇々と説いた。国家がなくなれば政治も議会もない、国防は軍人のみが成し得るものではない、と言っているところへ、参謀総長の大城と、陸軍大臣の尾木と、海軍大臣の小峯とが、揃って顔を出した。

 当然ながら、両者とも議会の弱腰に腹をたてていた。杉くん、大いに言ってやりなさい。などと尾木が珍しく援護してくれる。

 「いやぁ、杉くん。過労で安静にしておると聞いていたが、川上くんから電話が掛かってきて驚いたよ」

 「これだけ頭数を揃えて睨んでやっと効くとは、議会も相当ですな」

 気味が悪いほど上機嫌で言って、尾木は惟之の肩を何度も労わるように叩きさえする。海軍大臣の小峯もほっとした表情を隠さないでいる。あの後、三時間に及ぶ議論を交わし、元老議員を筆頭にして、議会に約束を取り付けられたのだから、無理もない。

 「杉閣下…!」

 お歴々に囲まれて歩いていると、議事堂の長い廊下に明瞭な声が響いた。廊下は広くて長いから、聞こえてきたのが前からか後ろからかわからない。だが、声の主が誰かはわかる。

 先ほど議会で見せた、堂々とした振る舞いはどこへやら。その声を聞くと俄かに首を縮めて、きょろきょろと辺りを見回す。まるで悪戯を見咎められたこどものようである。

 「松沢さんに馬を拝借しちょりますけぇ、お先に失礼します」

 これもまた珍しく、お歴々のまえで挙手の礼を素早く正確にとると、廊下を小走りで駆けてゆく。その何ともいえぬ軽妙な後姿を、尾木たちは微笑ましく見守る。

 灯りを落としたものにしている議事堂の、暗さに慣れた目には、開いた出口の扉から射してくる外の白光が目に眩しい。駆け足を緩めて、軍帽の庇を少し下げる。

 「はい、大役…ご苦労様でした、閣下」

 「お…、ぉ…?」

 馬の鞍のうえに脱いで放ってきた外套を、肩から掛けられる。庇の陰から恐る恐る見上げると、他の誰でもない、副官だった。

 「アー、あのなぁ…。これには訳があって…」

 病み上がりの身を気遣って、副官は何も言わずに惟之を抱き上げる。嫌でも三日前を思い出し、からだを縮めて腕に収まる。

 「それは、帰ってからお話しましょう。みんなでお帰りを待っていますから」

 惟之はそれを聞き、途中で思わず耳を両手で覆った。和胤は何か勘違いをしている様子の上官を、目を丸くして見つめた。ふたりで、馬の背に揺られて参謀本部まで戻る。第一局の部屋に入っても、惟之は借りてきた猫のようにおとなしくしていた。
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