大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰肆拾壱話

午前中の会議を終えるころには、軍服のしたのシャツも襦袢も袴下も、付襟も汗まみれで、嵩利は借りている部屋へ一度、着替えに戻った。

十五畳ほどの広さの会議室に、陸海の主要人物が加わって顔を合わせ、激論を交わしていれば、只でさえ残暑の折であり、秋雨の蒸し暑さのなかであり、熱気は嫌でも篭るわけである。

午後も、会議は大した進展もないままで、あっと言う間に陽が落ちる。

懇意にしている者同士、険悪な空気にならずに済んでいる。ただそれだけが救いであった。心中で弱音を吐きつつ、夕食前に暫しの休憩がてら再度着替えに戻り、軍袴をつけてシャツまで羽織ったところで、ひとつ大きく息を吐く。

やおら寝台へ身を投げるようにして寝転がった。議論が殆ど進まないでいる状況を思い返すだけで、頭が痛くなってくる。

机上の書類綴りに眼を向けるだけで、書記官をこなし切った疲労がどっと押し寄せる。このまま眠ってしまいそうであったが、それは当然許されないことで、天井を見上げているうちに、扉を敲く音がきこえた。返事もせぬうちに扉が開いて鷲頭の顔が覗き、嵩利は慌てて跳ね起きた。

「…いつになったら夕食の席におりてくるのかね?」

「わ…っ、ごめんなさい」

まともに軍装も纏っていない副官の姿を眼にして、鷲頭は呆れたような表情で部屋に入ると後ろ手に扉を閉めた。椅子の背にかけてある上衣をとりあげ、寝台をおりながらシャツの釦をとめている嵩利の肩へ着せ掛ける。

「食後の会談を終えたら、帰るぞ」

「ええ、できればそうして頂きたいです」

「何があろうと連れ帰る、と言っただろう」

重要な議題だというのは百も承知であるが、埒のあかない会議の為に、これ以上嵩利を缶詰にさせる気は毛頭ない。鷲頭はきっぱりと言って、背後から嵩利の両肩を励ますように叩く。有言したことは必ず実行する鷲頭のことばに安堵をおぼえて、ふ、と肩の力を抜く。

きちんと着替えを済ませて振り向くと、鷲頭の掌が頬を包んだ。褐色の肌に隠れて今まで気づかれなかった隈の浮いた目許を、怖い眼つきで覗きこまれて、たじたじとなりながら瞼を伏せた。

行き場のない苛立ちを発散させていながら、何かを言いかけた唇を結んでしまう鷲頭は、嵩利から身を離して扉へ向かった。あくまでも上官の態度を崩そうとしないでいるその背を追って、嵩利も部屋を出る。

テーブルへついてみれば、和やかな席であったが、会議の話はどうしても続いてしまったし、陸海軍首脳の、探り合うような会話に終始した席にいて、鷲頭は一層の不愉快を感じながら淡々と食事を済ませていった。

「鷲頭くん、ちょっと」

と、軍令部先任参謀の有賀大佐に呼ばれて、嵩利が食堂から出てゆくのを眼で追ったが、今すぐにでもその襟を掴んで引きずり戻したい、と言いたげなものを含ませて、鷲頭は眉間を嶮しくした。

「春美、その…今夜だがな…」

その隣に座っている加藤が、宥めるように鷲頭の肩へ掌を置いて、言い難そうに言葉を紡ぐ。鷲頭は加藤の言わんとすることを酌んで、黙って頷いた。幾ら纏まらなかったとは言え、会議の書記官を務めた嵩利が、このまま易々と退れる筈はない。厳しい表情のまま、席を立つ。

「―入るぞ」

嵩利の居る部屋へ迷わず足を向け、自邸にいるときと変わらぬ口調で言って、鷲頭は返事もきかずに扉を開く。

「すみません、春美さん…。今夜も帰れなくなりました」

扉の閉まる音をきいても、嵩利は机に向かったまま、鷲頭へ振り向こうとしない。書面へ丹念に万年筆を走らせているその姿は、近づき難いものを漂わせていたが、鷲頭は構わず背後から腕を伸ばした。筆を取り上げるわけにはゆかず、両手で嵩利の視界を覆って塞ぐ。

「何を頼まれたか予想はつくが…、今日は帰るんだ。支度しなさい」

「それはできません。これは、大事な務めなんです」

「海軍次官としての私が、帰宅せよと言ってもか?」

「そうです。…ぼくはこの会議で一切の書記を任されています。ここに及んで、記録に齟齬があってはそれこそ、明日も議論が進まなくなります。ですから、今日も帰りません」

両眼の視界を塞いだ手はぴくりとも動かない。しかし鷲頭の手を無碍に振り払うことはせず、宥めるように撫でながら掴み取る。鷲頭を振り仰ぐ嵩利はにこりともしていない。ふたりの時間を得るためには、今日を犠牲にして、明日こそ確実に進展させるのだという気持ちなのだろう。

「そこまで言うのなら、私も帰らんぞ」

「何ですって?」

「ここへ泊まる。差し支えなければ、記録の整理も手伝うぞ」

「幾ら春美さんでも…諾けません。それにこれは、次官のなさる務めではありません。ぼく一人で充分です。次官には、決議の次第で海相と軍令部長との間にたって頂かねばなりません。ですから今の内に少しでも―」

「心を穏やかに保てとでも言うのか?…きみが居ないあの家で、どのようにしたら心身が休まるというのだ」

「―同盟国の英国を援助するという名目であっても、今は戦時なんです。那智長官や橘田艦長は、いつ独逸海軍の襲撃があるか分からない海へ出ているんですよ。ぼくたちは陸に居るというのに、何ですか。あと一日くらい我慢してください」

目隠しは解いたものの、触れたくて、離れたくなくて、背後から回しかけた腕を解こうとしない。聞き分けのないこどものように拗ねて、不貞腐れた口調も隠さない鷲頭に嵩利は呆れながらも、諭すように叱った。

「我慢ならん、と何度言わせる」

「ぼくだって…」

言いかけた嵩利の唇を掠めとる。深く交わらせることはせず、啄ばむようなくちづけを一度だけ。押さえ込んでいるものを感じさせるには、充分すぎる行為である。

嵩利がいま手をつけている軍務に対して、鷲頭がそれを軽視しているだとか、この戦時に緊迫感を持っていない、ということではないのは良く分かっている。ただ、三度も約束を反故にされたことがやるせなく、嵩利を詰ることで甘い罪悪感を刻みつけたいだけなのだ。
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| 綿津見の波の色は・141―150話 | 12:47 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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