大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


web拍手 by FC2

| スポンサー広告 | --:-- | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

  綿津見の波の色は・第佰参拾壱話

橘田が打ち明けてくれた話はたぶん、鷲頭はとうに聞いているに違いなかった。それで、嵩利へ再び自身の副官に就いてくれと、いつ切り出そうか、頭の片隅で考えを巡らせているだろうことも、容易に推測できた。

もう軍務に関しては庇わないでくれと言ったことを、鷲頭は承知している。以前のように落ち着かぬ心境に陥ることはなかった。寧ろ、橘田の励ましに千人力を得た心持ちで、嵩利は日常へと還ってゆく。

精鋭の大尉、少佐たちを育て、巣立つのを見送るという、変わらぬ平穏な箱庭のなかにある鷲頭と嵩利が、激震の走る海軍を目撃することになったのは、大正三年の正月も明けたばかりのころだった。

シーメンス事件の発覚である。

海軍の不祥事は、昨年の陸軍に続いた形となり、国民が軍部へ向けるまなざしは益々冷たいものとなった。総理大臣の城内はその矢面に立ち、海軍内の良識派と共に、徹底的に弾劾する姿勢を見せ、ついには海軍から内部告発を引き出すことに成功した。

連日、新聞に海軍腐敗の文字が躍り、海軍艦隊拡張の財源となる税をめぐって民衆は怒りを募らせる。不祥事を働いたのであるから、国民の怒りは尤もである。城内は淡々と真相の解明につとめたが、内閣弾劾決議を否決させるなどして、議会がその足を引っ張った。

何度も暗礁に乗り上げかけながらも究明を続けたが、三ヶ月の後に海軍に於いて責任を追及し得たのは僅か三名であった。海軍予算は大幅に削減され、事態の収拾を見ぬままに、予算案不成立で内閣は三月を以って解散となった。それは同時に、城内の抱いていた”極秘計画”が不完全燃焼に終わることを意味してもいた。

時の海相であった小峰は、後任に予備役海軍大将、成瀬を指名すると職を辞した。

嵐の真っ只中に放り込まれるかたちとなり、この上もない逆境に立たされるという、いわば汚れ役を畢生の職として引き受けた成瀬は、海軍次官に鷲頭を指名する。

汚職について、城内が総理の座にいる間に徹底的に追及できなかったことは痛恨事であったが、海軍は国民へ与えた不信を払拭するために、その姿勢を正すという、ある意味では好機とも言える大きな転換期を迎えた。

元勲たちとの世代交代とでも言えばよいだろうか。これは大分以前から小峰、藤原、城内、成瀬の間で論じられていた構造改革であり、成瀬は躊躇わずに握った舵を大きく切った。

かつての明治海軍に於いて成された、人員整理とは全く性質の違うそれは、あらゆる方面からの批判を生み、海相及び次官へぶつけられることになるだろう。その避けられぬ軋轢の中へ、鷲頭と嵩利は飛び込む胆を決めていた。このとき既に、ふたりに迷いは一切なかった。


―大正三年、三月末。

鷲頭と嵩利には海軍大学校校長、教官という職から、海軍省出仕という辞令が出た。ほんの束の間の―或いは最後の休息ともいえる時間が、鷲頭邸に流れている。

ひともとの桜の樹が庭で花を綻ばせている。それを、ふたりは前庭の縁側に並んで腰掛ながら、飽かず眺めていた。

「橘田くんは、この事件が起こることを予測…というよりも確信していたようだな。だから、海へ出る前にそれとなく、きみがその時になって動揺しないように気遣って告げたんだろう」

伊達に英国に長年居たわけではなかった。駐在武官として、かれは実に多くの人の流れを見つめてきていたのだ。今事件に於ける海軍の内部告発も、もしかしたら橘田だったのかもしれない。

「そうですね、きっと…。でも、ぼくには春美さんがいますから…。だから、何があっても大丈夫ですよ。多分、これからも、ずっと」

そう言いながら途中で照れて、しまいのほうは小声であった。片腕をあげて頭を掻く仕草をしながら立ち上がる。沓脱ぎ石に揃えた下駄を突っかけて、ひょいと庭へおりた。嵩利は那智から贈ってもらった、大柄な縞の入った黄八丈を着流しにしている。黒っぽい帯が小粋を飾ってい、陽灼けした精悍な肌色にとても良く似合っていた。

「多分とは、聞き捨てならんな」

鷲頭も同じく黄八丈だが、淡く色合いの繊細な堅縞で、落ち着いたものを着ている。鷲頭は伴侶の身動きをじっとみつめていた。東屋のなかから縁台を持ち出してきて、桜の樹を中心にして幾らか距離をとって、花を見上げつつ、きっちりコンパスで測ったように半円を描きながら歩いている。

砲術の計算式がそこに浮かび上がりそうな、几帳面な測定を眼にして、鷲頭は笑みを禁じ得なかった。やがて納得がいったのか、やっと縁台を設えると、嵩利は鷲頭を振り返って笑顔をみせる。そこで花見をしようというのだろう。

庭へおりて伴侶の近くへゆき、鷲頭は手を伸ばした。指を絡めて軽く握りながらそっと引けば、嵩利は逆らわずにふわりと傍へ寄り添う。

「今日は酒にするか」

「ええ。たまには、いいですね」

もうこのような時間が、いつ取れるかわからない。鷲頭の飲酒について普段口煩い嵩利が、いちにもなく頷いた。笑顔は屈託なく、悲観や不安のかけらもない。ここに居る限りは、あらゆる憂いをいっとき傍らに置いて、好きなだけお互い甘えるということを家訓にしている。
→【2話】 →目次へ戻る

web拍手 by FC2

| 綿津見の波の色は・131―140話 | 21:46 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

こんばんわ。

縁台をかついだまま、すっごい真剣な眼差しで花を見上げつつ足元を見て丸く歩く嵩利くん、激カワですwww
それを見てる鷲頭さんの背中がまた「萌え~」なわけで。
この、覗き見してる感覚がいつも堪らんです。開き直っててください。

怖ろしい渦中へ手を携えていく覚悟ができるというのもまた幸せなことです。このひとときを大切にするというのは素敵な家訓ですね。…文字にして残せませんが♪

| misia2009 | 2010/11/07 01:09 | URL |

コメント返信です

の、覗き見ですか!

その発想はなかったです。お言葉に甘えて、このままの拙さで行かせて貰います(笑

軍務でも私事でも、何があってもずっと一緒です。

嵐を乗り越えていく力を存分に蓄えられる、自宅があるって素晴らしい。

| 緒方 順 | 2010/11/07 22:31 | URL |















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://landofrisingsun.blog66.fc2.com/tb.php/276-daa66654

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。