大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰参拾話

耳をすませば座敷のほうから時折、有元と三上の朗らかな笑い声が僅かに聞こえてくる。いつもは静かな邸内も、今日はそちこちで人の気配があって、嵩利は何とはなしに片瀬の生家を思い出していた。

自室に居ながら、ふたりの飲みっぷりを思い返して、笑みを浮かべた。そうして文机に向かって書籍をひらいている。休暇が明ければ、また海軍大学校の教壇に立つ身である。少しでも何か思いつくと、行動を起こさずにいられない。

教材の種を探して頁を繰っている横顔は知性に澄んだもので、幾刻前に芸妓に扮していたとはとても思えなかった。几帳面に資料を書き出して、紙面を万年筆の滑る音だけがしている。

「鷲頭くん、橘田だが、ちょっといいかな」

「あ、はい」

遠慮がちに問う声がして、嵩利は顔をあげた。返事をしつつ、部屋の隅に飛んでいって座布団を掴んだところで、そろりと襖を開けて顔を覗かせた橘田が、まだ酔いの抜け切らぬ様子で、おかしそうに笑っている。

「いいよいいよ、そんな気を遣わなくて。―ああ、勉強していたのかい」

「いえ、一寸思いついたことがあったので、書き留めていたところです」

室内へ招じ入れると、橘田は上座には座らず、ちょこんと文机の傍に座して胡坐をかいた。嵩利はしかたなく、かれの前とも隣ともつかぬ場所へ端座する。

「―そうか、英国に居たときと変わらないねぇ。あの時は随分きみに助けて貰ったな」

感心したように言ってから、橘田は嵩利の顔をまじまじと見詰めた。

「…鷲頭くん、今日はありがとう。とても楽しかったよ。城内閣下の悪戯には吃驚させられるけれど、あれならまた演って欲しいくらいだ」

「もう、橘田艦長まで…」

照れを隠さず膨れ面をみせる嵩利をみて、春千代の艶姿を思い出したのか、橘田は笑みながら、ウンウンと何度も頷いて、ふっと表情を改めた。

「私たちはこれから海へ出てゆくけれども、お父上ときみと、新見くんが陸に居るから、安心しているんだよ。しっかり陸で、海軍の舵を握っていてくれる友がいるからね」

含みのある言葉にきこえて、嵩利は訝しさを隠さずに眉を顰めた。

「小峰大臣と私は、遠縁にあたるんだ。だから…、大佐ごときが知りえないことも、色々と耳に入ってくる。来年…いや、今年の冬に、お父上と一緒にきみは海軍省へ戻るよ。そうなっているんだ」

その言葉に、嵩利は驚きを隠せなかった。

歳も階級も下の嵩利に、橘田がわざわざ秘密を打ち明ける必要はない筈だが、橘田は嵩利に信頼と友情を寄せている。そのことがあって、隠しておきたくなかったのだと告白され、嵩利は胸が熱くなった。

何かと独走しがちな軍部の手綱を、ここできっちり握らねば、ますます国民の不満は募り、その存在意義を失うだろう、と小峰は思っているらしい。それに、小峰は鷲頭がかつて提出したあの論文のことも、忘れていないのだという。

「きっとね、もう一度立て直せる時期が来る筈だよ」

それまで辛抱して、何かの跳梁跋扈する赤煉瓦で頑張ってくれ、と橘田は嵩利を励ました。鷲頭を支えて、一緒に先へ進めるのは嵩利しかいないのだ、と。

「本当はきみを、あんな謀略の渦巻く所へなんか遣りたくない、って皆思っているんだがね。きみは…何があってもへこたれない男だから、つい頼りにしちゃうんだ」

「ぼくは、そんな大した男じゃありません。ただ…ずっと一緒に、同じところを見ていたいだけなんです」

「むっつり黙りこんで、酷く頑固なところまで似なければいいよ、それで」

酔いの抜けない橘田が、欠伸をしつつ冗談を言う。顔を見合わせて思わず、くすっと笑った。

大分眠たげな様子でいる橘田を支えて、床を延べてある客間まで連れてゆこうと部屋を出ると、向かいに見える鷲頭の私室にも、誰か訪ねて来ているようだった。襖が半ば開いていて、明かりが漏れている。

―知らないところで、色々なことが動いているんだな―

軍務については、嵩利は常に器を空っぽにして―私心を盛らないという意味で―向き合っている。だから、鷲頭をはじめとする上官や盟友たちを信じて、進むほかない。嵩利の胸中からそれでも、一抹の不安が拭えないでいる。しかしこの不安は、今、ここにいる者全てが等しく抱いているものと同じだった。

「おやすみなさい、橘田さん」

「ありがとう、鷲頭くん。…あまり、気張り過ぎないようにね」

「はい」

先刻の資料作りを含め、これから先のことを案じてのことだろう。嵩利は頷いて、にこりと笑みを返して自室へ戻っていったが、その極上の笑顔は橘田の脳裏に、一夜の美妓を髣髴とさせた。そうして暫し、かれをまごつかせたことを、嵩利は知る由もない。
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| 綿津見の波の色は・121―130話 | 21:53 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

今夜の夢は

橘田さんのシンプルに人の良い様子に心温まりました。彼の今夜の夢は豪華でしょうね♪

立て直せる時期…「現状は崩壊である」と認識しながら出ていく人たちのやるせなさを思うと改めて切ないです。
そんな状況のなかで、嵩利の心は折れなくて、美しいですね。

| misia2009 | 2010/11/03 20:08 | URL |

コメント返信です

橘田はたぶん、敵に回すとものすごく怖いです。信頼されててよかったね嵩利。

嵩利の心が折れないのは、何より鷲頭が居るからであります。言わずもがな?

歴史を知っている身からすれば、このあとに来るワシントン軍縮~海軍の休日までが、彼らの輝かしい安息日であったに過ぎず、その後は…。ううっ、切ない!

| 緒方 順 | 2010/11/03 22:09 | URL |















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