大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰弐拾壱話

百戦錬磨の海の名将、と那智は少なくとも海軍内部ではそう評されている。

明治四十四年と、大正元年から、本年まで二年の間、艦隊司令長官を務めた海軍大将が、次へ着く座はそう多くない。多くない上に、殆どが責任と名誉ともに比例する座ばかりである。しかし、通常であれば艦を去るはずの那智が、艦隊編成名簿から除かれる気配は一向になかった。

「さて、残るは―」

軍令部首脳を含んで、海軍省の面々が会議室へ集っていた。空席のまま置かれていた第一艦隊第一戦隊司令長官の座を、誰もが注視している。

「ううむ。ここは、那智大将に出ていただくべきでしょうな」

欧州の雲行きを常に覗っている政府から、有り体に言えば潮ッ気のつよい将官を立てろ、という要請が来ている。いつ戦時状態に入ってもいいようにと、そういう姿勢でいるのだ、政府は。戦に起つ将兵を将棋の盤上で動かす駒程にしか思っていない。

軍人は戦う為に存在している。戦をやれと言われればやる他ない。とは言え、国の存亡を賭けたそれに背を押されるのではなく、政局に利用されるとは。国益と称して侵略の機会を窺う大義なき戦に、誰が喜んで身を投じるというのか―。

「新見局長、他に推薦できる提督が居られるのであれば、是非とも、忌憚のないご意見をお聞かせ願いたいのですが」

軍令部第一部長の阿部少将が、眉間を嶮しく寄せている新見を気遣うように、水を向けてくる。かれへ顔を向けたときには、もう表情は和らげて、いつもの穏やかな面持ちになっている。

「―いえ、やはり、その案が最善かと」

きっぱりと言い切ってみせたが、これは本心だった。那智の同期、もしくはやや後輩にあたる将官で、第一艦隊の長官を務め上げられる人物は、他にいない。

「では、参謀長以下の推薦に移りましょうか」

「第一戦隊旗艦は、摂津。以降、戦艦は河内、薩摩、安芸と続きまして、それぞれの司令官と致しましては―」

準備した資料を読み上げてゆく声が、およそ自分のものとは思えなかった。別の自分が、帝國海軍軍人である人事局長、新見暢生中将を見ているような、妙な感覚だった。然しながら、軍務は一切疎かにはできぬ。

不満や何かを思考から切り離し、淡々としながら軍務をこなすも、内心では葛藤と軋轢に苛まれている。そんなものを抱きながら表面、いっこうに波立たぬ湖水の面を保っていた。新見の心のうちに潜む苦悩に気づく者は、この海軍省の中には一人もいない。

今朝まで漂っていた、甘い幸せな予感を掴みなおそうにも、双肩に圧し掛かる人員編成の責務がその隙すらゆるさず、退庁の時刻が酷く待ち遠しかった。時折懐中時計を引っぱり出すのも面倒で、遂には蓋を開けたまま執務机の脇へ置いて、軍務を執った。

会議のあとに課せられた人員編成という重責をこなしていて、益々憂鬱になった。これが為に東亜との協調への道が閉ざされつつあるというのを、嫌でも意識させられたからだ。

明日に回してもよさそうなものには一切手をつけずに、定刻となるなり、新見は人事局長執務室から煙のようにして姿を消した。真鍮の取っ手を掴んで押し開け、階段を降りてゆく。

廊下にも一階の広間にも人影は疎らだったから、新見は脇目もふらず、といった足取りで迷わずそこを突っ切っていく。その途中で、眼の端に白い影が動いたような気がして、顔だけをそちらへ向けた。

「よ、お疲れさん」

柱の向こうに、第二種軍装に身を固めた那智が立っていた。身形の割りに随分と気軽な姿勢で、ひょいと片手を挙げて寄越す。新見はその場で立ち尽くした。咄嗟に言葉の出てこない唇は半ば開いたままで、多分、随分と間抜けな表情をしているに違いなかった。

「家に居たってあんまり退屈だからよ、小峰御大ン所ィ行って、もてなしを受けてきたところさ。それにしても…、ん?おい、どうしたィ?」

ぴたん、とほんの軽く頬を打たれて、新見はハッとする。ちいさく頭を振ったあとに苦笑を漏らし、声をひそめて囁いた。

「あ―、いえ…。帰りましょう、早く…」

「おゥ」

つくづくと新見の顔を眺め、那智はにやっと笑ったあと何事もなかったかのように、歩き出した。ふたり並んで赤煉瓦の門を出たが、暫く歩くうちに新見は歩を緩めて二、三歩間を空けて進んだ。那智の後ろを歩きながら、夕色の陽に染まるその背を見つめる。

自分を迎えに来た訳ではないとわかっていても、それでも新見は嬉しかった。
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| 綿津見の波の色は・121―130話 | 00:25 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

幸せであります…

こればっかりですいません^^;

や、堪能させて頂きました。夜の熱いこと。明けた朝も素敵。出勤前にヘロヘロの新見さんがいかに那智さんに惚れてるか分かろうという。鷲頭さんが見たらどんな顔www 
しかもこの世界情勢で艦隊編成じたいは辛いお仕事なのですよね…第一艦隊……また離れ離れウルウル
わざわざ数歩遅れて見る、夕陽に染まる二種軍装の白い背の美しさと哀しさが堪りません(泣

あ、パインの件はあれでよかったと思います。差し出口、失礼いたしました。ぐっと堪えた二人にこちらも胸が詰まりましたもの。やはり大将たちは大人です。

私事ですが、さいきん大東亜戦争関係の本を読んでいて、米内や井上の名があると、妙な親近感が湧きます…^^;

| misia2009 | 2010/10/22 12:25 | URL |

呟きを楽しみにしております☆

 第1艦隊司令長官、那智大将。
 しかるべくしての着任、実力も人望も彼に勝るものは無しとのお偉いさんたちの判断なのでしょうね。彼の実力は嫌というほど知っていても、愛しい人を前線に配さねばならない新見局長の胸中、いかばかりか。

 もーう!何もかも分かった上で新見を迎えにきた那智さんとかいじらしくて仕方が無いじゃない!!!
 さっくり南洋へいって、さっくり帰ってきてください!もうむしろ、城内さん、火中に栗拾いに行くのはやめようよー!!今は外よりも中に敵がいっぱいだよー!!(><)

| kanayano | 2010/10/22 19:38 | URL |

コメント返信です

このふたりの話は自重しようと思っていましたが、やっぱり書いてしまいました。

那智の背は、もしかしたら、二度と見られないかもしれない、という気持ちが働いた故の行動です。いくら軍務と割り切っていても、戦線へ送るに等しい編成へ、愛する者を投じてしまったことはたぶん、新見の心に棘のようにして刺さったまま、いつまでも残るんだと思います。

って書きましたが、那智の死亡フラグじゃありませんので。

正直、わたしが海軍を好きになったきっかけというのが、米内、山本、井上の三人です。あの時代にあんな考えを持っていた将官が居たんだと、物凄く驚きましたし、とても嬉しかったのです。軍部の全てが右傾化していたのではなかったことは、ある意味で救われた気持ちになりました。

もちろん、陸軍にも戦争に反対していた将官が居ることは知っています。でも、海軍というものの性質を知るにつけ、どうしてもその魅力(軍艦から軍服に至るまで)には逆らえませんでした。

海軍善玉説とよく言いますが、わたしは海軍にもそれなりに非があると思っていますので、そういう面では陸海軍対等に見ています。…って、思いっきり、わき道逸脱してますね。

| 緒方 順 | 2010/10/22 20:50 | URL |

コメント返信です

新見はもう、一生消えない後悔を背負った気持ちでいます、いま。

そして物凄く凹んでいます。どしーん。

戦線に送り出すも同然の配置に那智を遣ったとはいえ、それがどういう結果をもたらすか、まったく分かっていませんからね。いや、でも第一艦隊は、黄海方面哨戒および通商保護です。

戦死はしませんから、ご安心を(ネタバレ…?)

幾ら城内が内閣総理大臣でも、独裁国家ではないですから、かれひとりの力ではもう、この流れを抑えきれないのです。新見が嶮しい顔で思っていた”政府”のなかに城内は入っていません。寧ろ城内はデモクラシーに大きく揺れる世論に対し、宥め役の顔として立っている感が強いです。

ほんと、外より内に敵が多いときに、世界大戦参戦なんて、ねえ…。

| 緒方 順 | 2010/10/22 21:14 | URL |















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