大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰拾陸話

始発に揺られて横須賀から帝都へ向かいながら、那智は車窓から射す暁光に目を細めた。まだ夏の名残をもった、陽の熱と眩しさ。陸でこんな風に朝日を見たのは、新見に見送られて帝都を発った日以来である。

それを真逆になぞるようにして、新見が新橋の駅頭で迎えに出ているのを見たとき、思わず口許に笑みが浮かんだ。但し、私的な出迎えではなく、新見の他に幾人も士官は居たし、市民も詰めかけて警備と報道に囲まれながらのものであった。それでも、那智の眼は真っ先に新見の姿を捉えていた。

端然とした立ち姿で、正しく敬礼をしている。右手を軍帽の庇にあて、惚れ惚れするような綺麗な所作でいるのを、那智は駅に降り立ったときから、じっと見つめていた。人の列を縫って、迎えの士官たちの前を通り過ぎながら、勿論、那智もかれらに対して答礼をしていたが、いつもの、飄々としたそれであった。

すれ違うときに、まなざしすら交わさなかったけれども、その胸中を温める想いに、もし色やかたちや重さがあるとすれば、ふたりが抱いているものは全く同じであると言ってよかった。迎えの車に乗り込む那智の後ろ姿をちらっと視界に入れて、新見はあるかなきかの笑みを浮かべる。

―赤煉瓦の会議室で行われた首脳会議は滞りなく進行していったが、新見は斜向かいに腰を落ち着けている那智へ、時折窘めるような鋭い視線を送ることを忘れなかった。長官や参謀長が述べるそれぞれの意見に対し、那智はあからさまに表情を変えた。

いざとなったら、手持ちの少ない貴重な艦艇の殆どを、本国から出してでも英国に協力するべきだと、ある参謀長が述べたときなどは、小鼻に皺を寄せてそっぽを向いていた。新見はその、反吐をはきたいと言わんばかりの表情を見て、那智の心中を余りあるほど察することができたが、ここは公の場である。

那智の抱く考えが既に、極少数の意見、という部類に組み込まれているのを、この場に於いて嫌でも思い知らされている。しかし、こどものように拗ねた態度をしても、良いことはひとつもない。頭で理解していても、それでも表情に出る。

―なァんで、おいらがこんな茶番に付き合わなけりゃァならねェんだ―

と、他人事のようにして会議室に座っている。日清日露の大戦に参加したときとは、まるで心持ちが違う。いまこうしていても、自分が誇りある帝國の海軍士官である、という熱い気持ちなど、微塵も湧いてこない。

鷲頭が悟ったように、那智もまた一種の諦観めいたものを抱いて、世をながめているが、鷲頭と決定的に違うのは、その姿勢に前向きなものが全く含まれていないことだ。

―しゃんとなさい、長官―

ほそい縁の丸眼鏡の奥から、ぴしゃりと叩くような厳しい視線を向けられても、一向に態度を変えずにいる。寧ろ面白がるように、そうして顔を向けてくる新見へ、不謹慎な色の浮いた流し目を送り返す。こんなことをすれば、当然あとで滝のような叱言が降りそそいでくる。全てわかっている上でやっている。

艦隊指令長官としての那智の意見は、参謀長に任せていた。予想通り、所詮焼け石に水といった反応しか返ってこなかったが、そんなことはどうでもよかった。早くこの場から立ち去りたい、それしか頭になかった那智は会議が終わるやいなや、あっという間に姿をくらませた。

これから引き続いて、艦隊の編纂に携わらねばならない人事局長には、当然その後を追うことなど許されなかった。端然とした姿勢を崩さぬまま椅子に座っていたが、去り際にみせた那智の表情に、膝のうえでぐっと両手を握り締めて、こみ上げる気持ちを抑えた。

痛いだの辛いだのと、およそ女々しいと思しきことは絶対口にしない那智が、はっきりと表情にそれらに似た色を浮かべていたのだ。先刻まで、きっと叱りつけてやると固く決めていた意志が、脆くも崩れ去る。明鏡止水、と謳われている軍務に対する姿勢を、新見はこのあとも維持してはいたが、心はなかばここにない。那智を追って、焦燥に駆られながらぐるぐると駆け巡っている。

そのころ那智は、赤坂の家へ寄って軍服を脱ぎ捨て、紗の単に夏袴をつけるなり、ぶらりと出て行く。いまは内閣総理大臣の身でいるというのにも頓着せず、何の前触れもなしに、城内の私邸を訪ねていった。かれの邸は同じ赤坂の地にある。

「やあ、よく来たネ」

と、悄然とした様子の那智を気遣いもせず、城内は邸へ招き入れた。ちょうど国会での閣議が終わって帰宅したところなのだという。居間や客間ではなく、自室と続きの私的な空間に通され、茶菓ではなく酒肴を出される。

遠慮なく手酌で昼間酒を始めると、精神的な疲れが蓄積している影響か、さして飲まぬうちに酔いがまわってくる。

「よゥ…城内、お前ェさん、御名御璽を頂いてる身だろォ。何とかならねェのかィ」

「ぼくが内閣総理大臣だからって、何でもできると思われちゃ困るなァ。…那智くん、これはねェ…もう、お上にだって覆せないほどの流れなんだヨ」

淡々とした口調で言ってのける城内の顔は、いつもと変わらぬ温顔であった。しかし、その眼は冷静に那智を見据えている。しゃきしゃきと切れるような態度でいるのが、見る影もないというのに、那智を励まそうともしない。普段遣り込められている仕返しともとれたが、そうではなかった。

「まったく…海軍大将がこれじゃ、我が国の護りは先が思いやられるネ。情けないなァ。鷲頭くんたちは従容としつつも強かに、確り自分の務めを果たしているっていうのに」

私事となると途端にだらしのなさを露呈する男だが、城内は公の立場でいるとき、一度もそれを疎かにしたことはない。那智は一昨日からこっち、公私などお構いなしに癇癪玉を炸裂させている。頬にさっと愧じらいの熱が上った。

「いつまでそんな様子でいる気だい。新見くんに愛想尽かされても知らないヨ」

「う、煩ェやい。大きな世話だィ」

弱みを臆面もなく晒してしまったことを那智は幾らか後悔しながら、心中で舌打ちをする。しかし、いざとなると富嶽のように動じぬこの男を、頼りとしているのは紛れもない事実である。

悟りの境地に立った僧のような胆と、一種透徹とした眼を持って立ちはだかると、いかな友人だろうと何だろうと、不甲斐ない者に対しては、こうして容赦なく打ち据えてくる。そういう、禅坊主のような親友に喝を入れて貰いに来たのだ。ここに来た理由はそれ以外の何物でもない。

「分かってらァ…、そンなこたァ」

「ま、そうだろうネ。気が済むまで飲んでいっていいけど、チャンと帰るんだヨ」

と、城内が言ったあと、その言葉に甘えることにした。夕刻ちかくになって赤煉瓦を退いてきた新見が、軍装も解かぬままで息を切らせて訪ねてきたが、もうその時分には、那智は酒に負けて酔いつぶれてい、城内の居室で寝入っていた。

畳のうえで丸くなって、くうくうと寝息をたてている那智を眼にするなり、新見は城内へあたまを下げた。

「ご迷惑をお掛けしました」

「いいンだ。これからも、那智くんを宜しく頼むヨ」

そう言っていつもの温顔で返してくれる城内が、新見にはありがたかった。ぴくりとも動かない那智を背に負って、新見は城内邸をあとにする。

そんなふたりの姿を見送りながら、城内はふっと哀しみの色を眼に浮かべる。だが、それは刹那のことだった。瞬く間に、穏やかな大海のように揺らがなくなった。
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| 綿津見の波の色は・111―120話 | 15:14 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

やっぱりケータイですが

連日の更新、お疲れさまです!

最後の城内総理の視線が気になりました。なんか、二人の行く末を暗示しているような…。那智さんのやり切れない気持ちもすごく伝わってきましたが、首相んとこで愚痴るなんてさすがスケールのデカい男は違いますね(笑)

お持ち帰り新見さん。さて、しばしの別れの前の名残の一夜、かしら…?\(^o^)/

| kanayano | 2010/10/19 18:56 | URL |

コメント返信です

おうふ。

お早いお越し!まっことありがとうございます!

城内の視線は、なんと言うかふたり、というよりも海軍の行く末を薄々察しているような、それです。

佰拾漆話先ほどUPしましたが、やっぱりこう書いていると、那智・新見編も書きたくなってしまいます。

| 緒方 順 | 2010/10/19 19:14 | URL |

いいですねえ。

ツーと甘えりゃカーと打つ。通じている男同士、素敵ですね。

自室へ通して酒を飲まして、好きに不貞腐れさせたところで、お説教。懐深い、城内閣下。
彼の前でならまた恥じた顔もさらせる那智閣下。

安全な大学で若い者と付き合っている鷲頭さんが未来を見る気持ちになれるのは幸せなことで、いざ開戦となれば(部下を)捨て駒にされる前線の将は辛いのですよね…

それにしても軍装で突っ走ってきてオンブして帰る新見さん、読んでいて嬉しすぎます♪

| misia2009 | 2010/10/19 21:37 | URL |

コメント返信です

何だかんだ言って、城内が一番頼りにされている気がします。

まー、モデルが米内光政ですから(どーんと構えて動じないところだけですが)

>安全な大学で若い者と付き合っている鷲頭さんが未来を見る気持ちになれるのは幸せなことで、いざ開戦となれば(部下を)捨て駒にされる前線の将は辛いのですよね

↑実際、陸勤務と海勤務とで、戦争を見る目が全く変わってくるそうですからね。ただ鷲頭は、その部下を捨て駒にさせないための頭脳を育てるのに、日々研鑽していまする。とだけ弁護しておきまする。

| 緒方 順 | 2010/10/19 22:11 | URL |















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