大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰拾弐話

ちりちりと小火鉢で炭が熾きている音と、紙面に万年筆をはしらせる音とが、室内で響いている。書籍の頁を繰る微かな擦れる音が時折混じるくらいで、嵩利は試験問題を練ることに没頭していた。

型どおりの、記憶に頼って答えを導くという形式でない、身につけた器量の程度を試せるような、柔軟な思考を引き出せる方法をとりたかった。試行錯誤して、問題が出来上がる頃には、もう夜の十時を回っている。

「嵩利、ちょっと、いいか」

廊下で微かに床板の軋む音がきこえた。間髪置かずに襖のそとで誰何の声がきこえる。やっぱり訪ねてきたな、と嵩利は苦笑を漏らしながらも、入室をゆるした。瞼を閉じながら、ちいさく息を吐く。午睡を取ったとはいえ、気力はこのために蓄えたに過ぎなかったことを、このからだが訴えている。

それでも、鷲頭を敷居のそとへ立たせたまま無碍に追い返してしまうのは、できかねた。軍務は成し遂げたのだから、話をする程度ならばとおもったのである。革鞄に出来あがったそれらを仕舞いこむと机を離れ、上座へ座布団を延べて、席を整える。それから小火鉢を間に置いて、対面に自身の席をつくる。万端整えて、冷え切った指さきを揉みながら、襖をそっと開けて、どうぞ、と促す。

夕刻はあんな風に鷲頭へ冷たい態度をとったが、嵩利とて甘美な暗闇へとけこみたいという気持ちは抱いている。例えば、褥に入ってねむるまで抱き合って睦言を囁きあうとか、甘く擽るような愛撫を交えて、唇をかさねるとか。

その程度の触れあいであれば、毎晩だって構わない。ひとたび嵩利に触れれば、からだの奥底まで貪り喰わねば治まらぬという、その旺盛な性欲に、繊細な目盛りを備えてくれさえすれば、とつくづく思う。

「春美さん…?」

廊下に立つ鷲頭は、予想に反して深刻な表情をしていた。何か考えに耽ったあとらしく、無口なかれには珍しく、物言いたげな眼を嵩利へ向けている。

「どうにも我慢ならんのでな、只の愚痴でしかないのだが、頼むから聞いてくれ」

と、夕刻に見せた好色なまなざしが、まるで一変している。やりきれぬといった憤りを発散させている鷲頭は、敷居を跨ぐなり、不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「安心しろ、今夜はきみを襲いはせぬ」

つよく、ぐっと手を引かれて嵩利はたじろいだ。有無を言わさず下座に延べた座布団へ座らされる。鷲頭はやおら、その傍でごろりと横になると、ぞんざいに頭を嵩利のひざへ預けてきた。鷲頭の振る舞いに、ただただ眸を丸くするばかりだ。

「―今日の午後にあった講演の与太話を、きみにしてやろうかと思っていたが、それどころではなくなった。あれはいかん、実に怪しからん」

「艦隊増設のことですか」

「ああ。陸軍は師団増設で、今年ひと悶着を起こしただろう。国と国民を守るべき軍部が、その守るべきものたちに糾弾され始めては、この先きっと立ち行かなくなる時が来る」

我が帝國の国力というのは、悲しいかな、必ずしも高いと胸を張っては言えない。いま、日本人が続々と外国へ移民として出ていっているのは、ひとえに貧しさからである。

盟友のひとり、杉参謀総長の考えでは、陸軍は満洲から軍政を退かせぬ考えで徹すという。

満洲の地から白人列強国の勢力を排斥し、その後に支那へこれを還し、支那の国力を取り戻すのを助けつつ、日本もその期に国力をつける。そうして共存共栄の道を探ることこそが、東亜の、有色人種の真の独立へ繋がる、と。

日露戦争後、明らかに欧米列強は日本―黄色人種―を警戒している。”黄禍論”そのようなものが広がっているというこの現状。利用できるときは利用し、用済みになった途端、眼の色を変えて敵視する。欧米列強が、まだ大日本帝國を対等な国家と認めていない証拠である。

わが日本は、もう既に自我を持ち、同じ国民が血を流した後に掴み取った維新の波濤を越えて、独立国としての舵を切っている。日清日露の大戦を乗り越え、これからは強かな諸外国と対等に渡り合える国として、起ってゆかねばならぬ位置に、世界のその立場に立つべくして立ってしまっている。

「とかく軍拡ばかりを叫ぶ前に、諸外国へ呼びかけてこれを抑えるということを、何故しないのか」

上を見ればきりがない。今も尚貧しさを抱えた国が、どうやって増設される師団を養い、次々建造されるだろう軍艦を走らせるつもりなのか。どこかで列強国の協定を作る機会を持たねば、我が国家の経済破綻は免れない。

結果、”平和的統治”をしている台湾や満洲を”不当に搾取”することになるのは目に見えている。そうなれば、東亜は混沌に陥り、我が帝國も後に退き返せぬ道への旗手となってしまう。

「私は、こういったことに軍部と軍人が振り回されるのは、我慢ならんのだ」

海軍大学校での日々は、まるで箱庭の如く在る。

佳き海軍を体現していもし、あの場所は実に清々しい、純粋な海軍の意志が宿っている。鷲頭は築地に居て、自身が若返ってゆくような気持ちに浸れた。それは何故かと言えば、一切、こういった余計な憂慮より解き放たれているからである。

「…春美さん…」

「杉参謀総長は、沢庵の重しなどと言って笑っておられたがな…。陸軍はもう、あのひとたちの手だけでは抑えられん。…と、私は感じている」

どきん、と胸が嫌な跳ね方をして、やにわに体から、すっと血の気が引くのを感じた。嵩利は、こんな風に鷲頭が烈しく論じるのを聞いたことがなかったし、それも、その悉くが的を射ている気がするだけに、別の意味でぞっとした。

軍務局長の職に在るとき、婉曲に婉曲に、あくまでも”軍政”の立場から艦隊増設を抑えに抑えていたが、それも後任にかわった途端、陰ながらの苦労は朝霧のように消されてしまった。

軍人、政治にかかわるべからず。

絶対に枉げない鷲頭の信条のひとつとしてこの文言が入っている。たとえどんな事態に陥っても、鷲頭は”海軍軍人”であることを捨てない。軍人として、国を守ることを捨てない。だから政治にかかわることは絶対にしない。

だがその機会がなくとも、政治を知らなくてもよいということではない。知ってなお関わらず。軍務局長である間ずっと、砂を噛むようなおもいをしていたに違いない。その鷲頭が、海軍大学校校長へ補されて、佳き海軍の姿をみたというのは、こういった経緯から考えると、必ずしも微笑ましいと言えぬ話である。

「―いいか、この話は…只の、愚痴だ。…きみの前だから零すのだぞ」

そう言って、まるで五体を捻り切られる苦痛に耐えるかのような表情をしている。悔しさと苛立ちと、歯痒さとが混ざった嶮しい眉間。話し終え、身を離そうとするのを制し、鷲頭の頭を胸に抱きながら、掌で労わるように何遍もその髪と額と、頬とを撫でた。

「今夜は、このまま一緒に居ますよ。…昨晩のようには受け止めて差し上げられませんが、これでも少しは、慰めになるでしょう?」

慈母の如き嵩利の囁きと慰撫に、鷲頭は安心したように体を預けた。そうしながら、ゆっくりと息を吐いたあと、不意に、くっくっと笑った。

「やさしいな、きみは。だが…一度引いた線を堅持せず、そうやって譲歩すると、つけ入る隙を生むことにもなる。攻め入られてからでは、遅いのだぞ」

剣呑な台詞をさらりと口にする鷲頭を、嵩利は変わらず、寛やかな笑顔で見つめ返す。

「今夜はその心配がないから、こうしているんですよ。春美さん言ったでしょう、今夜は襲わない、って」

不正に条約を破ったりしませんよね、という嵩利へ、言葉も返せない。一緒に潜りこんだ褥で抱きあうことはしたものの、唇を一度ゆるしてもらうのに、鷲頭は大層な苦労をする羽目になった。
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| 綿津見の波の色は・111―120話 | 20:16 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

悲痛。

鷲頭校長の「痛み」を感じました。
外交不在でしかも、軍全体が自らの存在意義というモノを再定義しようとする時代。軍拡は必然の流れのようで、でも世界はそんな日本を制限条約で牽制する。日本の軍人が焦ったのもまた必然なのかもなと思います。
平和教育の元に育った私はやはり、鷲頭さんの強調主義を支持したくなりますが、当時の空気に触れていたらどうなのかなぁ。軍人でなければあまり真剣に考えずに、戦争は自分には関係ないともっともらしく世界の情勢を述べながら、適当な軍拡論を述べていそう(笑)

うちの将校さんたちはあまり政治を語りません。なぜって、作者が知識がないからです(爆)緒方さんの文章で多分に勉強させていただきました~!

今夜は嵩利がそばにいてくれるので愛しい息子の温もりを感じながらいい夢が見れると良いですね。校長☆


ケータイから失礼しました~

| kanayano | 2010/10/15 22:17 | URL |

コメント返信です

当時の空気。

まさにそこです。

いつの時代であっても、時流と世論というものが、国の全てを動かしてしまうと言っても過言ではないと想います。

大東亜戦争当時も、”良心はやましき沈黙を保っていた”というほど、数少ない良識派は時勢には逆らえなかったのです。

鷲頭たちは、ずっと少数派のままで、でもきっとワシントン条約あたりでは奮闘するかもしれません。ですが、世界の流れの中にある大日本帝國をみると、やはり、史実を覆すような展開にはもってゆけないな、と切なくなりながら、今回書きました。

って、ホント最近、わたしBL書いてるのか何なのかわからなくなってきちゃってます。

| 緒方 順 | 2010/10/15 22:41 | URL |

敬服いたします

恥ずかしながら、私も勉強させて頂きました。そしてやはり鷲頭さんの憂慮は時流に竿さすことにもならないのだろうと苦々しく思われます。

男性作家には「もしも大和が無事だったら」みたいなパラレルものが時々あって人気もあり、読んでも楽しいですが…この「逆らえない」切ない感覚は、女性ならではかもしれません。

人は仕事もし、恋もするのですから。こんなふうに仕事の辛さが恋の妙薬にもなり、恋の安らぎが仕事の励みにもなるのですから。
男性は「戦記もの」「歴史もの」「恋愛もの」と分類することが好きですが、脳梁が太く左右脳の情報交換が活発な女性は、事象を総合的に解釈する知力を有すると常々思っております。
海軍士官の生活の裏も表も書ききる、素晴らしい作品と存じます。
ご縁を頂けて幸せです。

で…ただひとたびの口づけのために何をどう言って掻き口説いたものやら、校長…www

| misia2009 | 2010/10/18 09:57 | URL |

コメント返信です

切なくて、時々書く手が止まって憂鬱になります。

でも、架空戦記のような展開には持っていきたくないのです。

今はなき帝國陸海軍に対する自分の想いというのが、こうした一種の切なさから始まっているからです。

軍人とは戦ってナンボの稼業です。と言ったら身も蓋もないですが、国と国民の為にあり、その本質は純粋な”守りたい”気持ちから来ている、大和男子の集団なんです。もっと言えば、侍の末裔なんです。

世界で絶賛された武士道を持っていた時代に、大日本帝國の護り手だった彼らの生き様を考えると、やはり世界の時流をひっくり返す展開より、最後まで諦めずに、どこまでも精一杯立ち向かってゆく健気な姿を書きたくあります。

当時の人たちはそれらの精一杯の努力が徒労に終わるなんて、考えなかったでしょうし。そのようにした結果が積もり積もって、今のわたしたちが在るわけですから。

| 緒方 順 | 2010/10/18 20:10 | URL |















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