大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰参話

二度の、それも漠然としたものではなく、肌に感じるほどの悪夢に翻弄されたことを、触れなくともよいものなら、もう触れたくないというのが心の奥底にある。だが、やはりどこかで、今こそ手を取り合って、ふたりで乗り越えねばならない壁であるというのを認めている。

それを今まで直視していなかったのは鷲頭のほうで、嵩利は確りと壁へ顔を向けて眼を背けていない。気持ちの面で言えば、鷲頭を庇うようにして立ちはだかっているのも同然で、自身を情けなくおもったのも、それを感じ取ったからである。

―午後の軍務は、各部署からあがってきた案件を処置することで追われ、定刻ちかくには、机のまえへ立ったまま書類へ判をポンポンと捺している、といった鷲頭局長の仕事ぶりに、隣室から覗いた嵩利は眼をまるくした。

「局長、捺すだけならお手伝いしましょうか」

まさか鷲頭に限って盲判で通しているわけではあるまい。そうおもって間仕切りの向こうから声を掛ける。まるで探照燈の照準を合わせるかのように、きっかりとこちらへ顔を向けつつ、手にしている判を書類へ正しくついている。捺しすぎてその姿勢さえ固まってしまっているかのようであった。

「もう終わるところだ。きみは明日の業務に差障りがないよう、執務室を整えておきなさい」

「は、はい」

もっともな指示をされ、嵩利は慌てて秘書官執務室へ引っ込む。職務は果たしているものの、片付け切れないものを空いた机へ置いたままにしてある。これはさすがにまずい。ひと目みただけで鷲頭から叱言が飛んできそうである。

積んでおいた諸々の山から、底の浅い幾つかの木箱を重箱のようにして、三つ四つ積み、あらかた整頓を済ませる。ふと、隣室から聞こえていた機械仕掛けのような判を捺す音が止んでいるのに気づく。

ちらりと時計を見上げれば、定刻を幾らか過ぎている。手が止まった途端に漂うあまりの静けさに、不意に寂しさが訪れる。もしかして鷲頭は先に退庁してしまったのではないかと考えが過ぎった。

続きの間だけに、ぽっかりと切り取られた空間があるのみで、こちらの部屋と鷲頭が居る部屋は繋がっている。といっても部屋の出入りにはきちんと別に扉があるから、局長室を横切らずともよいつくりになっている。

間仕切りはあるが衝立のようなものでしかなく、立ち上がっていれば姿は丸見えである。午後の茶を嗜むときくらい、ほんの少しでも顔を見せてくれるかとおもったが、それもなく、結局鷲頭は一度も、あちら側からこの部屋を覗くことはなかった。

みるみる陽が暮れて暗くなってゆき、そして、ひやりとした空気が漂ってゆく室内で、ひとり机の前でぼんやりとしながら、閉じた木箱の表へ手を置いたかっこうで、窓に眼を向ける。そこにうつる顔は自分でも驚くほど沈んでいた。

「どうした、帰るぞ」

ふっ、と背後へ浮かんだ影が窓硝子にうつったのにも気づかず、耳元で囁いた低い声に、ぴくりと肩を震わせた。うしろからそっと外套を着せ掛けてくる手つきと、そうして包むようにして抱きしめてくる腕と、背にあたる体のぬくもりとに、言い知れぬものを感じた。

小刻みに震えている嵩利のからだを、鷲頭は軽々と横抱きにする。局長室へそのまま連れてゆかれ、長椅子へ座らされて、その隣へ腰をおろしながら肩を抱き寄せてくる。

「前にも言った筈だ…、私の前では無理をするなと」

髪を撫でながら怒ったような口ぶりで言うが、思い直したように、すぐに頭を振る。ややあって、鷲頭はふたたび口を開いた。

「…嵩利、よく耐えてきたな。きみが英国でどんな思いをしたか、わかっている積もりだったが、私は逃げているだけだった。敢えて触れずに、そうしておけるものならと。逃げずに立ち向かって、私を守ってくれていたきみを、労わりもせずにな」

男らしく、愛する鷲頭の為に立ち回った凛々しさが眩しく、それに応えられないことが後ろめたかった。何かと理由をつけて休暇中の大半を無駄にしてしまったのは、ひとえに、このことがあったからである。嵩利に触れられなかったのも、同様だった。

「ありがとう、嵩利」

一度こうして具えた男らしさは、これからも輝き続けるに違いなかったが、それとこれとはまったく別の話である。鷲頭を心から慰められるのは嵩利しか居らず、逆もまた然り。それを怠って、一方的に甘えて寄り掛かっているのでは、伴侶に値せず、その資格などない。

「いいんです、もう…。その言葉だけでぼくは…。ね、春美さん、もっと強く抱いてください」

「ああ…勿論だ」

逞しい鷲頭の腕にぐっと抱きすくめられ、嵩利はふるふるっと身震いをしながら、ああ、と心地よく寛いだときのような安堵の声をあげた。胸のつかえと、隅々まで張り詰めていたものがみるみるうちに溶け、消えてゆく。
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| 綿津見の波の色は・101―110話 | 01:05 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

ごめんねの

一言が言えない男らしさ。いいですね♪

さびしがってる嵩利くん、可愛かったです~

| misia2009 | 2010/10/08 11:09 | URL |

コメント返信です

亭主関白?なので「すまなかった」とか滅多に言えない鷲頭です。

言えないだけでずっと気に病んでいるという、不便な性格。

でももうその頑固さも、二人きりのときは軟化するときがあるかもしれません。

| 緒方 順 | 2010/10/09 19:51 | URL |















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