大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰弐話

あの春に嵩利は、軍務局長先任副官へ就くはずだった。それを鷲頭のひと押しで海へ遣ったことについて、もう悔やんでいない。ただ、自らの手で泡沫の夢と消した、在ったはずの時間がこうして突如として現れ、続きの隣室に嵩利が居るというのは、何だか妙にこそばゆい。

純粋に軍務の面から言えば、異動になった秘書官の後任がやって来ただけである。

しかも以前、ひと月とはいえ先任副官を務めているのだから、心配の種など欠片もない。贔屓目でみなくとも、逸材が配置されたのだから、いつものように黙って職務に励めばよいのである。わかっていても、やはり落ち着かぬものは落ち着かない。

長い長い間、過ぎてはやってくる嵐に揉まれて、軍務に就いていても鷲頭は赤煉瓦のなかで、心安らかでいるというわけにはいかなかった。

唯一の救いは、前任の秘書官に守本がついていてくれたことだ。磐手のころから同じ乗組であるうえ、嵩利とも親しく友情を深めている守本は、気難しい鷲頭を陰ながらよく支えてくれていた。

そのうち周囲の盟友たちにも助けられ、漸く落ち着きを取り戻して、職務は相変わらずの重さのままだが、鷲頭は嶮しい道を踏破した人のように、ここに来て漸く安堵の息をつくところまでこぎつけていた。

自然、海溝の如き眉間もやわらぐ。判をついていた手を止めて耳を傾ければ、隣室で嵩利が立ち働く音が聞こえてくる。こんなに穏やかな中で過すのは、横須賀鎮守府の参謀長であったとき以来だろうか。

「局長、書類が紛れていましたので、第二課へ差し戻しに行って参ります」

その隣室から、ひょこっと嵩利が顔を出す。颯爽としながらもどこか飄々としたものを漂わせた身ごなしを見るだけで、心が軽やかに透くようにして綻ぶ。

「何、またか…。これでもう五度目だな。差し戻しはせんでよい、提出した士官が誰かわかっている。直ぐここへ来るように伝えてきてくれ」

「柏原部長を…ですか?」

「そうだ。…慌て者で困る、よくあれで大佐に進級できたものだ」

頭痛の種だと言わんばかりの、うんざりしたような口調で言い、首を振って椅子へ腰をおろす。嵩利は、鷲頭がこの軍務局長室にいて、課長だろうが部長だろうが、お構いなしにここへ来させて、きつい説教を垂れていることを知らない。

一応、三度までは目を瞑っているのだが、鷲頭も小姑のような叱言を垂れたくて垂れているのではない。さすがに度が過ぎるとコツンとやらねば、局長として示しがつかないのである。

ふたたび黒檀の執務机へ向かって、決済の判を取り上げた鷲頭は、机を挟んだ向こう側にまだ嵩利が立っているのを認めて、じろりと睨めつける。怖い眼つきに萎縮もせず、伝令を果たしに直ぐに身を翻しもせず、嵩利は何かこみ上げるのを堪えるような表情で鷲頭をみつめ返してきた。その眼は深い慈しみを帯びている。

嵐に揉まれたのは鷲頭だけではなく、嵩利も同様である。

苦しく辛い思いをしているのを、嵩利はいつからか鷲頭の前で微塵もみせなくなっていた。思い返せば、背負って隠しているそれらの苦労を、鷲頭は面と向かって労わってやったことが一度もない。だのに嵩利は、こうして安んじて軍務に就いている鷲頭を認めて、惜し気もなく心から安堵のいろを浮かべて寄越す。

「…何をぼんやりしている、早く伝えに行って来給え」

いかに嵩利へ甘え切っているかつくづくと思い知らされ、そんな伴侶を素直に労わってやることのできない自身が情けなくなってくる。だが今は軍務中である。こもごもが絡まった心を押し込めて、厳しくぴしゃりとやった。

二人きりで暮らせる、青山の静穏な自宅があるからといっても、また褥で遮二無二鷲頭を求めて、そうして得る甘い蜜を乾しても、嵩利の心はまだ癒しきれていない筈だ。

容のよい背が、静かに閉まる扉の向こうへ消えるのを見届けて、鷲頭は天井を見上げて深く息を吐いた。
→【14話】 →目次へ戻る

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| 綿津見の波の色は・101―110話 | 22:01 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

悩みは深く

想いも深く。

それにしても那智長官、かっこいいですねえ。
帝都は庭かぁ。
新見さんと隠れ家でどんだけスゴイことになってるのか、是非次回作にて詳細に報告せられんことを。

| misia2009 | 2010/10/08 11:04 | URL |

コメント返信です

那智と新見ですが、せっかくなので若い頃を書こうかなと、思っています。

城内が練習艦のマストに吊るされそうになったあたりとかも、実は新見が絡んでたりしたら面白いかなと。

平行して書き出せればいいのですが、細かい設定がまだできていませんので、気長にお待ちいただきたくあります。

| 緒方 順 | 2010/10/09 19:48 | URL |















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