大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


web拍手 by FC2

| スポンサー広告 | --:-- | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

  変わらぬ青空のしたで・第拾玖話

 ふたりの部下と惟之は卓をはさんで睨みあっている。と、言っても惟之の表情は平時とかわりない。特に悪びれた様子もなく、かと言ってふざけた様子もなく、一時も逸らさず、まっすぐふたりを見ている。

 「―逃げも隠れもせん。煮るなり焼くなり、好きにせい」

 開き直っているのとは、かなり違う。苦言や忠告を、滅多なことでは口にしない川上からのひと言で、惟之はいつもの悪戯のつもりでしたことが、さすがに今回は反省に値するものであると気づき、恥じいっていたからだ。

 「ええ覚悟じゃ」

 恩田は隣の和胤へ、黒い板紙に綴った草案のうえに、何故外したのか、金色の参謀飾緒を載せて託す。恩田は肩を怒らせてのしのしと、虎のような歩みで卓をまわりこんだ。腕を伸ばすと、いきなり上官の胸倉を掴んで立たせる。別段、惟之は微塵も抵抗しない。

 「山口ィ、惟之の飾緒も預かっちょれ」

 恩田は釦に掛けてある参謀飾緒を外し、肩の留め具を外し、吊っていたそれを卓の上へ置いた。惟之のまなざしが物語っていることを察し、恩田はとっさにそれを汲んだ。だから、曲がりなりにも権威の象徴である飾緒をつけたまま、“やいとをすえる”のだけは勘弁してやろうという意味であった。

 恩田はどっかりと長椅子に腰をおろし、上官の腕を掴んで引き寄せ、その膝の上にうつ伏させてしまう。

 「これで済むんじゃけぇ、有り難いと思え」

 いまは階級も何もない。惟之と恩田は同郷の、しかも同じ町内でそだった。帝國陸軍少将・杉惟之、としてではなく、瓢気た悪戯坊主の惟之を諌める、ただそれだけだ。いまの所それができるのは、部内のどこを見回しても、恩田ひとりしかいない。

 さっ、と恩田の左手が振り上げられ、小気味良い音が部屋に響く。容赦なく尻を張り飛ばされたが、惟之は観念を翻すことをせず、胆を決めた以上甘んじて受けた。

 しかし、羞恥と痛みは如何ともし難い。やがて、尻叩きが三十回を越えたころから、長椅子の腕凭れをきつく握りしめる手が痺れ、震えてきた。

 羞恥と共に情けなくもなり、痛みと相まって涙が滲んでくる。打たれるたびに強張らせていた体も、痛みに耐えられなくなってくる。体をぐったりと恩田の膝に預け、身も心も意気消沈という有様になった。

 五十回を数えたとき、恩田は漸く手を止めた。当初は百回、何があっても張り飛ばす積もりでいたが、膝のうえにうつ伏して、しおらしくしている惟之のちいさな背が、見る見るうちに萎んでいく。

 悪戯好きの栗鼠は、仕舞いまでひと声も上げなかった代わりに、しょげ切った姿を隠さなかった。段々と膝にかかる重さが増し、恩田の胸は痛んだ。

 「このくらいにしといちゃるけぇ、こげなこたー二度としんさんな」

 これで、重要な会議前に消息不明になった件は不問にする。

 これが他所で起きた事なら、軍法会議とまではいかないが、陸軍大臣や参謀総長にこっ酷く叱られ、一年や二年の進級制限を課せられてもおかしくない。それほどのことであるのに、川上のひと言をきくまで惟之の中から、その意識が抜け落ちていた。

 「おぬしらに甘えちょったのう、おれァ…」

 ちいさな声でぽつりと呟き、仰向けになろうと惟之は身じろいで大儀そうに寝返りを打ち、途中で見かねた恩田が抱き起こして、膝のうえに座らせてしまう。

 当然ながら、尻がひりひりとして痛む。が、何も言わない。されるがまま、ちんまりと膝のうえにおさまっている。“やいとをすえられた”あとだけに、痛覚に苛まれた体に、いつもの俊敏さは容易に戻ってこない。

 恩田も和胤も、芯から反省の色をみせる上官をいじらしくおもった。これが有事に関わらない、普段のことであれば、微笑ましい悪戯で済む。

 実際、惟之の多少行き過ぎた悪戯好きも、参謀本部では重要な要素なのだ。ともすると普段でさえ、他所との軋轢で険悪な空気になりがちな参謀本部において、ねずみ花火のようにポッと弾ける惟之の罪のない悪戯は、一種の緩和剤になっている。

 殊に第一局の雰囲気が良いのも、惟之の直轄だからこそ成り立っていると言ってもいい。

 「ああ、この栗鼠は。…そげな顔を…」

 丸くつるりとした顔立ち、すっきりした鼻筋とよく動く二重の目。鼻下と顎先に髭を蓄えているとはいえ、総じて童顔なだけに、眉をさげ、涙が滲んだ黒目がちな丸い眼を、憂色で一杯にして見つめられては、本来痛まなくてもよい胸が痛む始末だ。恩田は顰め面をすることで、その痛みを紛らわした。

 和胤は、上官の参謀飾緒を手に、かれの前へ身をかがめた。恩田は既に自分で飾緒を吊り終えている。

 「のー、山口…」

 痛まなくてもよい胸が痛む眼差しを、そのまま副官へ向け、かれの名を呼んだきり言葉がでてこない。和胤はそっと手を伸ばすと、上官の肩に飾緒を吊り、丁寧に指先で一番目の釦に引っ掛け、胸に提げた。

 「なんでしょう、閣下」

 恩田の凄まじい尻叩きを目撃したあとだけに、和胤の中にはもう、上官に対する鬱憤は微塵も残っていない。

 惟之は一度顔を俯かせ、吊ってもらった飾緒を見つめてから、再度顔をあげた。

 「あんつくもん。そがーに不安になるんじゃったら、初めからしんさんな」

 呆れた口調で恩田にそう言われ、こつん、と後ろから頭を小突かれてもまだ、惟之は副官に掛けることばが出てこない。その間に、和胤は恩田の目配せもあって、上官が何を言いたがっているかに、思い当たっていた。
   
 「…あの握りめし、美味かったけぇ。また食わせてくれんか」

 漸く言ったことばが、それであった。

 恩田は何だ?というふうに太い眉を片方、器用に上げていたが、和胤はそのことばの真意を読み取っていた。和胤の甲斐甲斐しさに対する礼と、それを無碍にした反省と、更にはこの先も副官として留任してほしい旨とが、言葉と表情にこもっていた。
→【8話】 →目次へ戻る

web拍手 by FC2

| 変わらぬ青空のしたで・11―20話 | 18:28 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://landofrisingsun.blog66.fc2.com/tb.php/24-d3faee3f

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。