大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第玖拾肆話

秋も深まり、朝靄に含む緑の匂いが幾分褪せた気がする。曙の頃に漂うその香を吸い込むと、眠気が吹き飛ぶようだった。高い青空を見上げつつ、井戸端で洗顔その他の、朝の日課を済ませて、部屋へ戻る。

朝食などは海軍省で厄介になっているため、早々に軍服を纏い、登庁の支度を済ませる。それから居間で新聞を読んでいたが、登庁間際に、かなり躊躇ったつま先を嵩利の部屋へ向けた。

足音を忍ばせて廊下を歩み、そっと襖を引き開ける。

なかを覗くと、枕元に置かれている小振りのランプが、点いたままになっているのが先ず眼にとまる。その光の輪の中には鷲頭が文を認めた和紙や便箋が、あらかた広げられたままになっていた。

横臥した寝姿を見れば、ふとんから覗いた指先に触れている紙片があり、それには見覚えのある裏書が記してある。嵩利から英国滞在中に催促され、散々渋った挙げ句に送った鷲頭の写真であった。

昨晩、あれから一度もこの部屋を訪れなかった。寂しさを抱いたまま眠ったのだろう。心なしか、寝顔にもその名残が浮いているように見える。

いじらしい伴侶の姿に、心が甘く震えないかと言えば、嘘になる。しかし、それにも増して心中が益々、重く塞がれるのもまた事実であった。

万事無事に済んだのだから、いつまでも気に病む必要はないのである。と、頭で理解していても、心持ちだけはどうにもならず、秋にふさわしい爽やかな晴れの日だというのに、海溝ほどの皺を眉間に刻んだ、厳冬さながらの渋面で、鷲頭は青山の新居を後にした。


「おゥ、お早うさん。随分と湿気た面ァしてるじゃねェか。何だィ、親子喧嘩でもしたかィ」

赤煉瓦の食堂へゆくと、人気のない一角に、まるで我が家のようにして寛いでいる那智がいた。上陸休暇の筈だが、何故かこの早朝に居る。鷲頭はむしろそのことよりも、ずけずけと言ってのけた言葉に反応を示し、重々しくため息を吐いた。

「喧嘩なぞはしちょりません。いつまでも意気地のない…私がいけんのです」

「軍務に、私情を持ち込まねェ。そいつを枉げた結果が、ああだったことかィ」

これまで一切を相談に乗ってもらっているだけに、何もかも察している那智に対して、沈痛な面持ちで頷いて見せた。

いっそ嵩利に、恨み言の一つでもぶつけられていれば、と思った。それでどうなるものでもないのだが、慢心して高を括っていた自身のせいで、嵩利を危険な場所へ立たせたことが、どうしても許せないでいる。

「なるほどなァ。そンじゃ、気が済むまで手前ェ自身を責めりゃァいいさ。その間に、あいつァまた、海へ戻っちまうだろうがな。今度、いつ帰ってくるか分からねェ軍艦稼業にな」

煮え切らない鷲頭へ、那智は意地の悪い言葉をかける。この生真面目な男には、これくらい言ってやらねば、効き目がないからだ。なかば面白がるように笑ませた口許を、珈琲の注がれたカップを取り上げて隠す。

「睦まじくしねェで寂しい思いをさせてみろ。あんな別嬪がフラフラッとしたら、城内の馬鹿あたりがしれッと手ェ出すに決まってらァ。かく言うおいらも、ホンのぽっちり慰めるくらい、しちまうかもしれねェな」

「そ、それは…」

「あーァ、まったくよゥ。三角定規は引いた線より外に出たことがねェと来たもンだ。おい、鷲頭。いくらおいらでも、そこまで面倒は見ねェぞ。手前ェでなんとかしろィ」

明らかに狼狽をみせる鷲頭は、齢に似合わず、外見に似合わず、初心な青年そのものであった。口では突き放したことを言っているが、那智はそんな鷲頭を、決して見放したりしない。このままふたりを放っておけば、どこかで城内が何食わぬ顔でひょっこり間に入って、つるりと悪さを働くだろうというのは目に見えている。

信念を枉げたことは、確かにしこりが残るだろう。だが過ぎてしまったいま、それも良い方向へ決着しているのだから、もう構えるほどの矜持ではない筈だ。

それよりも今後をどうするか、前向きに考えて歩みをそちらへ進めるべきである。折角構えた新居も、嵩利への愛情も、宙吊りになったままというのは、情けないにも程がある。

「あいつァ、お前ェさんに守られていることを、ひしひしと肌で感じていたぜ。英国に居る間、お前ェさんが呉れた時間を一分たりとも無駄にできねェ、そう言って敵前だろうが何だろうが、臆する素振りを見せなかった」

まったく、見違えるほど男らしくなったもンだ。と、ぽつりと零した那智の言葉に、突如として熱い想いが鷲頭の胸に込み上げた。それまで抱いていたものが全て打ち砕かれていった。嵩利と向き合えぬ本当の理由、それは自身の矜持でも、後悔でも、嫌悪でもなかった。

昨晩みせた、厳しさと精悍さを具えた嵩利の表情を思い返し、胸がざわついた。
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| 綿津見の波の色は・91―100話 | 22:00 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

厳冬の海溝をまえに

みごと舵を取ってくださる那智さま、素敵w

| misia2009 | 2010/09/30 14:08 | URL |

コメント返信です

那智にとって鷲頭はさしづめ、世話の焼ける弟分、というところでしょうか。

| 緒方 順 | 2010/10/04 20:55 | URL |















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