大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第捌拾玖話

 「山科くん、ちょっとここへお出で」

 机へ向かっていた山科は、襖の向こうから呼ばれて面をあげた。

 「はい、…少々お待ちください」

 心身ともに漱がれてゆくような気持ちを抱けるようになったのは、最近のことで、鷲頭に会った日以降、山科は帝都にある城内の邸へ身を置いていた。そのはじめは、明らかに監視が目的であったその滞在の意義が、慌しい夏が過ぎて、漸く涼しくなるに連れて変わっていった。

 どこにも二心がないこと、提供した情報の悉くが正確であったこと、何より山科自身が深く慙愧の念に沈みきっていることが、城内の心に届いたからである。

 ある日、城内から改めて乞われ、自身の意志で滞在している、という風になり、自分の家のようにして、というまでにはいかなくとも、山科にとってこの場所は以前と違い、徐々に穏やかに過ごせるところとなった。

 「もう、何してるの。折角いい中秋の月が出ているっていうのに、きみが来ないンで隠れちゃったヨ。あれ、…ぼく今日は何もお願いしてなかったよネ?」

 すッと静かに襖がひらき、黒っぽい和装に袴をつけた城内が部屋へ入ってきて、ややそわそわと落ち着かなさそうにしながら、文机の前に端座している山科のうしろへ立って屈みこんだ。柳葉のようにすらりとした手指に握られた万年筆を、悪戯をするこどものような仕草で取り上げてしまうと、袂へ放り込んだ。

 「根をつめるな、思いつめるな。ぼくとそう約束しなかったっけ」

 それを返してもらおうとはしなかったけれども、ほんの少し苦悩を眉間にうかべて、城内へ向きなおる。普段と変わらぬ温顔だが、山科は初めて対峙したときからかれにずっと恐れを抱いている。

 「少しでもお役に立てればと…。やはり私にはそれしか、道はありませんから」

 「ふゥん…、じゃ、上官命令だ、と言ったら諾いてくれるのかな」

 鷲頭邸を訪ねたあの日。

 電話を受けて城内はすぐにやってきて、いきなり鷲頭を叱咤した。宿敵の腹心であった男をそう易々と信用するわけにはいかない、きみは甘すぎる、と城内は厳しく指摘したのだった。

 勿論その場に山科は居たが、城内はまるで居ても居ない者のように山科を扱い、聞かれようが聞かれまいが、構わぬといった態度だった。当然鷲頭は困惑し、それでも城内の言葉には頷かずに山科を庇った。

 その時に城内がみせた針のような視線に、山科は戦慄すらおぼえた。あれから、三月しか経っていないのだ。城内が心からゆるしてくれたかどうか。怖くて、確かめようなどとは、到底思えない。

 「城内大将、何故ここまで私を気遣ってくださるのですか」

 「野暮なこと訊くねェ。そりゃ、きみが良い子だからだヨ」

 ぼくは嘘なんか言わないヨ、と囁いて、初めて城内は山科に触れた。

 厚い掌を、ぽんと頭にのせて、幼子にするようにしてゆっくりと髪を撫でたのだ。それが只の触れ方でないことはわかる。慰撫といっていいその行為を、山科は殆ど表情を崩さないまま受けていたが、心で固まっていたものが砕ける音を、確かにきいた。

 「鷲頭くんの眼に適う男が、悪い子の筈はないンだ。あの時は、ぼくもついカッとなっちゃって、随分ひどいことを言ってしまったけれど…。ネ、未だ、あれを気にしているのなら、許してくれるかい?」

 双眸から熱いものが頬を伝って落ちていく。涙を流したのは、いつが最後だっただろうか。

 他人事のようにそれを思ったとき、不意に胸がぎゅうっと締め付けられて苦しくなった。本来持っている山科の心が、もとの場所に還ろうとしている、その道が漸く開かれた瞬間だった。
→【7章・1話】 →目次へ戻る

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| 綿津見の波の色は・81―90話 | 20:33 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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