大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第捌拾陸話

 帰国したがっている先任武官を労わるように、嵩利が補佐役にまわることで大使の要求はひとまず落ち着きをみせたが、宿舎から毎日大使館へ通いはじめて、武官の内情がなかなか苦しいことをすぐに感じた。

 国産化が成功し、英国から軍艦を購入しなくなったとはいえ、艦政本部からの要請で英国は、造船に携わる士官を留学に受け入れている。駐在武官は艦政本部から派遣されている纐纈少将の補佐としても、奔走せねばならない状況であった。

 「纐纈少将が、きみの辞令が明確でないというから、私ァてっきり新しい有能な士官を交代に出してくれたのだと思ってね。しかし本国へ打電したら、那智司令長官の副官であるから、遣るわけにはいかんと、にべもなく断られてしまった」

 「日本へ帰朝するまでには、必ず交代の士官が来ますよ」

 余り顔色の良くない橘田中佐が、休んでいた隣室から申し訳なさそうな表情をしながら執務室へ現れて、嵩利へ言った。如何にもここへ残ってほしいと言いたげな様子に、またしても気持ちは揺らぐ。

 宿舎へ帰ってから、何度那智へ居残ることを願い出たかわからない。しかし、どうにも那智が頑として頷かないのだから、嵩利にはこれ以上はどうすることもできない。ただ、時間の許す限りは橘田の補佐に専念する他ない。

 毎日、大体こんな会話をしていると、午後をまわったあたりに纐纈が武官たちの詰めているこの執務室を訪ねて来る。英国に来て更に洗練されたと言ってもいい、生まれ持った雅やかさを、鼻につかぬ程度に漂わせている。その振る舞いは鮮やかであった。

 しかも大使館へは、希少な書籍などの資料を惜しげもなく寄贈しているとか、留学している士官の面倒をこと濃やかにみているとか、耳を裏返せるのであればそうするのだが、幾ら嵩利がそのくらい注意深く耳を傾けてみても、聞こえてくる纐纈の評価はけして悪いものではない。

 二週間はそうして忙しい日々を送っていたが、翌週のある日、嵩利は夕方に執務室を退く前に纐纈の執務室へ立ち寄った。周囲の話では、纐纈は艦政本部造船顧問官という肩書きでいるそうだが、多忙な割には巧く時間を使って、優雅な英国での生活を享受しているようで、こんなに器用に立ち回る武官もいるのかと、嵩利は感心しきりであった。

 「―ああ、これは。わざわざすまないね、鷲頭副官」

 纐纈宛に、昼に届いた大事らしい封書を届けるのをすっかり失念しており、それを届けに来たのだが、纐纈は遅れたことを別に咎めもせず、訪ねてきた嵩利を微笑とともに部屋へ招き入れた。客人にでもするかのように、自身の向かいに設えた椅子を勧められ、恐縮しつつ腰をおろした。

 何しろ、人員が少ないなかで日本の海軍は運営されているわけだから、留学に伴ってこういった皺寄せが駐在武官に圧し掛かるのは仕方のないことで、纐纈は同じ大使館の中に執務室を置いているし、武官たちがその職務に追われていることを理解している。ゆえにそれ程目くじらを立てないでいるのだろう。と、嵩利は推測をたてた。

 無愛想ではないが、あまり余計な口を利かない物静かな紳士で通っているし、かれが醸す雰囲気には高貴なにおいがあって、嵩利にとってはどことなく近寄りがたかった。今こうして向きあって座っていても、落ち着かない。


 黒目勝ちの澄んだ丸い眸をひざの上に向けたまま、やや多く瞬かせている嵩利を認めて、纐纈はほんの僅か口許を緩めた。恰も気を遣うようにして席を離れ、ゆったりと嵩利の後ろへ回り込む。蔵書のならぶ書棚で壁のように囲われているそこへ立ち、玩ぶようにして書籍の背表紙を撫でながら、椅子へ掛けているその後ろ姿をみつめた。

 ―ふん、とんだ宝石が転がり込んできたものだ―

 均整のとれた容姿を舐めるようにして眺め、纐纈は内心で吐き捨てた。

 軍服から覗く嵩利のしなやかな首すじへ眼を遣ったとき、纐纈の心中に不意に凶暴な意思が湧きあがった。それは殺意に近い。まったく純粋に、まっすぐ愛されてきた穢れのない結晶を見せつけられたも同然で、それを粉々に砕いてしまいたくなった。

 この無防備な小鳥をここで縊り殺して、跡形もなく存在を消せるのなら、今すぐそうしたかった。そうでなければいつかの、鷲頭の寵愛を享けた士官のように、この手へ堕として穢し尽くすか。

 ―勧めた紅茶へひとつ、何か薬を盛ってさえいれば造作もないことだったが、な―

 だが、嵩利のうしろには那智が立っている。そんな真似はけしてできないのだ。今ここに居るはずのない男が見えてでもいるように、纐纈は頬を引き攣らせて、嵩利の華奢な肩を睨めつけた。
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| 綿津見の波の色は・81―90話 | 22:04 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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