大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第漆拾捌話

 藤原たちが居る場所にも箏の音は届いていて、気づけば皆聴き入っている。艦上では滅多に聴けぬ音色だけに、物思うような顔つきでいる者もある。

 「冬の曲、か。…いやァ、鷲頭くんの箏は相変わらず、いい響きだネ。弾いているのは、ずっと大事にしていた、あの箏かい?」

 「うむ、かれはここを出てゆくとき、私に呉れると言ったんだが、あれはやはり、そういう訳にはいかないよ」

 「若くして亡くなられた、母君の形見だろう、確か」

 城内と藤原と那智が、顔を寄せ合って囁くように会話を交わしている。鷲頭が嵩利を連れて行き、しみじみと箏を爪弾いて聴かせるについて、格別の想いがあることを、加藤は三人の会話から感じ取っていた。

 「まったく、しみじみさせやがって。―オイ、鷲頭!奥でもったいぶって弾いてねェで、ここで一曲つきあえ。おらァ尺八を演るぞ」

 と、奥の間から戻ってきた鷲頭を認め、那智が静まった座の雰囲気を払拭するかのように、明るい声をあげて、誘った。

 「ええ、構いませんよ。那智さんと合奏するのも、随分と久しぶりですね」

 俄かに座がどよめいて、拍手が起こる。ふたりの演奏が見事だったのは言うまでもなく、六段の調のあと、千鳥の曲も熱望され、那智が即興で尺八を披露して歓声を沸かせた。

 終始和やかなまま、祝賀会が終わって、また軍務に励む日々へ戻ったわけだが、鷲頭の身辺はお世辞にも、穏やかとは言えないものになってきていた。言うまでもなく、例の論文の影響である。

 特に軍令部の反発が強く、酷いときには脅しめいた電話が、横須賀鎮守府へ掛かってくる始末で、受付や要所の秘書官などは、まるで毎日が篭城戦のようだと、ぼやいている。

 当人はたとえ槍が降ってきたとしても、泰然と構えて受け止める気でいるらしく、いつもと変わらない様子である。変わらないというよりもむしろ、ずっと溜め込んできたものを表にだしたことで、吹っ切れたように表情がまるで違う。

 嵩利は相変わらず参謀長の副官でいる。城内と鷲頭という堅牢な守りに囲まれて、安穏と過ごしている。ここからならば洋上勤務へ変わるのも、造作ないとおもうのだが、異動の辞令は何時まで経っても飛んでこない。

 鷲頭へのおさまらぬ追撃が、段々と少数へ減じてゆくのを感じつつ、嵩利を含めた秘書官副官、上役を支えている者たちの口からは冗談も飛び出すようになってきた。

 これまで辛抱強く耐えてきたわけだが、ただ黙っていたのではない。 軍務の次いで、というのは只の名目であり、鎮守府を訪ねてくる中堅の参謀など、明らかに軍縮に反対する連中に激励されてきた、といった風で息巻いている士官を、片っ端から論破して追い返してきた。 もっとも、始めから一枚岩でそうしていたのではない。

 この横須賀鎮守府にも鷲頭の姿勢に反発する者は大勢いた。しかし、普段は恐ろしく無口な参謀長が、その信念のこもった論を訥々と語るにつれ、かれらも次第に考えを改めていったのだ。


 年があけ、いつの間にか冬が過ぎ、春の人事が発令される時期がふたたび巡って来た。

 鷲頭は帝都への異動が決まった。海軍省軍務局長である。

 これが何事もない状況なれば、まごうことない栄誉職で喜ばしいのだが、今の鷲頭が置いている立場からすれば、まさしく敵陣に乗り込むようなもので、海相の小峯と一戦交えて来い、と言わんばかりのそれである。

 人事を執ったのは、新しく局長に就いた新見だった。以前の兵学校教頭、次いで教育本部長という実績が買われ、人材を選るについて委せられると、前局長の三上から太鼓判を捺されたらしい。 あの秀麗な眉を引き締めながら、託すようにして書き上げたのだろう。鷲頭は届いた辞令に目を通しながら、新見の細面を思い浮かべる。

 周囲がどうおもっているにせよ、鷲頭自身は至って平静であり、泰然自若とした姿勢は変わっていない。それに引き換え、落ち着かぬのは嵩利のほうである。横須賀を、鷲頭の傍を離れる日が近づくに連れて、切なさはいや増してい、沈んだ顔つきになることが増えているのを、あたまの片隅で情けなくおもっている。

 ふたたび海へ戻ることは掛け値なしに嬉しい。だが、いまは鷲頭のことで思考が埋め尽くされている。ただ愛しいひとの傍に居たいという、我が儘から来るこどもじみた考えではない。 軍務局長として海軍省へ行けば、対立する派閥との数々の衝突は避けられまい。それらの矢面にたつ立場となるかれの副官として、支えになりたかった。

 起居している家で朝早くに目が覚めると、そわそわとして落ち着かない。例えそれが、鷲頭と褥を共にして迎えた、甘く温かな朝まだきであっても、変わらなかった。

 こういうとき、嵩利は愛しいひとの温もりに目も呉れず、床を抜け出して行水のようにして湯に浸かり、さっさと家を出てきてしまう。宵の秘め事には酔って浸れても、その甘い名残まで無邪気に楽しむ気持ちには到底なれなかった。軍服を着て、鎮守府の裏庭を散歩していると、幾分気が紛れる。

 しかし今日は、庭を囲む桜花を見渡しながら、まるでこの世の楽園へ別れを告げるような心境でいる。 ため息が自然と漏れた。鷲頭にこんな表情をみせたら、睨まれるのは目に見えている。咲き誇る桜花の微妙な濃淡が、風に揺れて彩りを変えるのを見つめながら、嵩利は苦笑を浮かべた。

 とりとめもなく歩んでいるのを止め、低く張り出した石柱へ腰かけた。脚をゆらゆらさせながら、短く剪った柔らかな髪から、朝につかった湯の香が仄かに漂っているのを、鼻先でとらえる。何とも言えぬ憂いを湛えた眼差しを、桜花で綾織られた隙から覗く青空へ向けた。

 そのように、未だ誰も居ない時刻の鎮守府に居て、そこはかとない艶を含んだ横顔を晒している嵩利を、鷲頭はそっと窺っていた。ちょうど死角になる、柱に挟まれた瀟洒なつくりの滑らかな白い石柵に肘をつきつつ、眼を細めて見つめている。すぐそこにある、ほんのいく段かの階を降りれば寵児の傍へゆくことは易い。しかし、そうはせずに柱へ凭れるようにしている。

 惜し気もなく色香を醸しているのには、恐らく気付いていないだろう。嵩利の無防備さを、怪しからんと一喝したくもあり、時が許すまで陰からそっと眺めていたくもある。 辺りに漂う淑やかな花の香は、まだ醒めたような冷ややかな朝の空気と一緒に鼻腔を擽って、抑えている葛藤を揺らがせて止まず、鷲頭は眉間を一層險しくさせた。
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| 綿津見の波の色は・71―80話 | 20:33 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

NoTitle

いつも思うのですが・・・
これ、分類はBLなんでしょうか。すごく格調高い文章、正確な背景描写、いつ読んでも緒方さんの技術の高さに感動してしまいます。
感動と言えば鷲頭さんとうとう軍務局長ですか!
そんな軍務局長殿が息子を物陰からこっそり見ている姿にほっこりとしました・・・☆

| kanayano | 2010/09/16 00:27 | URL |

気づくと勝手に

BLじゃなくて、MLのような気がしてきました今日この頃です。あまりにもおっさん率が高いので、そろそろ修正しようかと思います。

たぶん文章のくせは、司馬さんとか、火野さんとかの影響です。話の流れを考えていると、あとはなんだか鷲頭たちが筆をうごかしてくれているような感じです。年表とか、軍人なので階級とか職務とか、その辺はちゃんと書きたいと気をつけてはいます。

| 緒方 順 | 2010/09/18 18:24 | URL | ≫ EDIT















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