大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


web拍手 by FC2

| スポンサー広告 | --:-- | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

  綿津見の波の色は・第漆拾伍話

 ホールに集っている、五十名はくだらない招待客のあいだを、藤原は大将の礼装すがたで丁寧に挨拶をしてまわっている。そのあいだに、鷲頭たちは勝手知ったる他人の家、と、中庭に面した静かな和室へあがりこむ。

 大勢から離れたそこへ、わざわざ訪ねてくる者が幾人もいる。そういった面々は大抵が同じ軍縮派の仲間か、もしくは賛同者で、続きの間までいつの間にか人で賑わっている。

 そこへ、遅れてきた加藤がひょっこりと現れて、うしろから陸軍の将官が顔を出した。このころ陸軍は濃紺縅の軍服から制式が変更されてい、カーキ色のものになっている。陸軍は通常礼装も軍服に勲章を吊った姿である。

 黒いフロックコート型礼装の海軍士官、その他文官、財界人なども概ね似たような色合いの洋装だけに、妙に浮いて見える。

 「いやいや、えらく遅れてしもうた。加藤さんには済まんことをしたわい。…それにしても久しぶりじゃなァ、皆元気にしちょったか」

 あかるい声を張り上げたのは、陸軍参謀総長の杉中将で、小柄なかれの後ろには、山口中佐と、陸軍大臣の川上中将が壁のようにして立っている。席を勧められ、三人は城内のとなりに座すと、たちまち、駆けつけ三杯、とばかりに祝いの枡に酒がなみなみと注がれ、運ばれてくる。

 「オイ、和胤。これは飲んでもええな?」

 「ええ、遅れてきた非礼がありますから…。自分も頂きます」

 杉はその三杯を、如何にも旨そうに飲み干した。どうやら暫く控えていた酒であったらしく、かれにとって罰には該当しないようだった。杉は枡を置くと、二重瞼のまるい瞳をくるくるさせて、身を乗り出した。

 「きいたぞ、海軍は軍縮の論戦についてとうとう火蓋を切ったそうじゃな。陸軍は頭が固い連中が多くて、なかなか巧く進まんよ。で、あれァ誰が書いたんじゃ?よう書けちょる。長船みとーな豪い切れ味じゃ」

 問いを受けて加藤が手を挙げた。

 「鷲頭です。あの物言い、わんさと敵を作ることになるのは火を見るより明らかなんですが、この男は信念を枉げるということをしませんので」

 論戦の火蓋を切って落としたのは、正しく鷲頭の作成した論文なのだが、これが如何にも鷲頭らしいもので、簡潔で厳しく―つまり、身も蓋もなく―現状の国力や軍備についての事実が認められている。世界で認められつつある我が日本海軍、と誇りに持ち始めている者の鼻っ柱をへし折るような内容である。

 「ほーゥ、おぬしか。相変わらず利かん顔しようるのう。おぬしほど冷静で胆の据わった男がおるようなら、海軍は安心してよさそうじゃな。しかし、あれだけの量を、よう書いたもんじゃ。水も漏らさぬちゅう言葉がぴったりじゃが」

 その言葉に、集った者たちは頷きあう。言われてみれば、横須賀鎮守府の参謀長という激務にありながら、海軍大臣へ論文を叩きつけたわけで。その意志と根性がどこから来ているのかと、しげしげと見つめる視線が鷲頭へ集まった。

 鷲頭としては、ひとりの海軍士官として当然の行為をしたまでであって、そのようなことで感心され、こうして注目されるのは心外だった。それに、鷲頭ひとりの力であの論文を仕上げたのではないのだ。陰で支えてくれる者がいるからこそ、成し得たことだ。

 「何も、私ひとりで成したことではありません。城内長官が時々片目を瞑ってくださらねば、もっと延びていました。それに―」

 いつもの、素っ気ない物言いで始まり、ふッと鷲頭の言葉が途切れる。嵩利はその隣に居て、珍しく言い澱んだのを、顔を向けて窺う。眉間に寄るもどかしげな皺、逡巡に彷徨う眼。しかしその眼は、嵩利の澄んだ双眸に留まると、忽ち凛として定まった。

 鷲頭のその沈黙は僅かであった。伸ばした手で嵩利の首根っこあたりをぐっと掴む、粗雑な仕草をしつつ、

 「ここで白状しますが、これに殆ど煩瑣な事項を任せておりました。参謀長失格です。これが居らねば、あれだけのものはまず、提出できなかったでしょう」

 つとめて表情を変えぬようにして言う鷲頭と、まるで猫の仔のように扱われて、ほんの少し困ったような表情でいる嵩利とを見、皆の口許にあたたかな微笑が浮かんだ。その様子は、愚息を褒める父親そのものであったからだ。

 ふたりの深層の絆までは知らずとも、嵩利が鷲頭の養子へ行ったことを、この場に居る者で知らぬ者はない。

 「えッ、何だって?参謀長、きみそんな狡いことをしていたのかい?ぼくを騙すなんて、酷いなあ。…ああ、だからあのとき頼みを蹴ったんだネ」

 城内にもその事実は初耳であった。かれ自身が鷲頭に論文を勧めただけに、軍務について少々の遅延は眼を瞑っていたのだ。それがまさか、副官である嵩利に任されていた部分が大であったとは…。

 滅多に変わらない温顔だが、忽ち厳しい顔つきになる。きゅっと目尻と眉とが吊りあがり、唇がへの字に曲がって、暫し鷲頭を睨めつけた。だがその表情とは裏腹に、城内はちっとも腹を立ててはいない。

 「きみたち父子はけしからんネ。このまま傍にくっつけとくと何をしでかすかわからない。長官を出し抜くとは実にけしからん、罰として副官は、ぼくンところで再教育」

 何のことはない。よい口実が出来たとばかりに、鷲頭から嵩利を取り上げてしまう魂胆なのだ。二人で一体になっている、その割り込めぬ間に入れる機会など、そうそうない。
→【26話】 →目次へ戻る

web拍手 by FC2

| 綿津見の波の色は・71―80話 | 20:10 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://landofrisingsun.blog66.fc2.com/tb.php/212-0fef5706

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。