大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第陸拾話

 いざ、赤煉瓦の海軍省へ、つとめに出てみたはいいが、三週間後の週末には、目を回して倒れるのではないか、というほどの有様になっていた。

 別に、陸での務めを甘く見ていたわけではない。艦隊勤務と、海原で鍛えてきたという自信が多少はあったのだが、それすらも霞んで消える。

 それというのも、軍務局長の有元少将が大層な切れ者で、嵩利の器量のよさを見抜くなり、切れ間なしに仕事を寄越すためで、さすがの嵩利も、表に疲れを出さずに乗り切ってみせるのは困難であった。

 とにかく今夜は、守本のおかげで増えた同期の友人たちからの、せっかくの誘いも泣く泣く断って、官舎の自室へ引っ込んでしまう。食事の後、風呂に浸かれば、あとはもう泥のような眠りが待っていた。


 今日は本来、半ドンの土曜日だが、余りの激務に、萎んだ向日葵のようになっている嵩利を見かねて、局長がほぼ休みのような扱いにしてくれたのだった。その措置は、何よりも嬉しかった。

 口実になる任務は仰せつかっており、朝のうちに帝都を出て、横須賀へ行くことになっている。局長から、横須賀鎮守府長官宛てにひとつ、書類を預かっているから、それを届けるのだ。

 あれから、鷲頭のいる官邸へ手紙はともかく、電話のひとつも掛けていなかった。私的なことで官舎の電話を使うことに、気が引けてしまったのだ。今日ならば訪ねていっても、鷲頭は迎えてくれるはずである。

 新橋駅で列車を待つ間、それと意識せず夏の白軍服の襟もとへ手をやって、ほんの僅か憂鬱になる。数週間のあいだに痩せた証拠を、そこに見つけてしまったからだ。

 立襟に少し隙間が出来、身につけたものが何となくからだにしっくりとこない。一旦意識しはじめると、今度は落ち着かなくなると同時に、情けなくもなる。

軍務について弱音を吐くことは、鷲頭の前では許されない。だからその代わりに、憚らずに甘えたい。いつか送った手紙には、“便箋の中に居る春美さんの方が良い、と言ってしまう日が来ます”などと、拗ねて書き散らしたこともあったが、嵩利にそのような日は永遠に訪れはしない。

 横須賀線に揺られて半刻、潮の香が車内に届き始めると、漸く気分が和んでくる。三笠を降りてから、未だひと月も経っていないのに、横須賀の軍港がやけに懐かしく感じられ、停泊している艦艇を目にすると、条件反射のようにからだが震えてしまう。

 ―やっぱり、海はいいなぁ。

 鎮守府庁舎へ入り、応対に出てきた副官の中尉へ、有元局長から預かった封書を預ける。嵩利が仰せつかった仕事は、たったこれだけであった。

 いまは職務中であるから、長官である城内にも、参謀長である鷲頭にも、一寸挨拶をしにゆく、などという真似はしない。用が無くなれば、すぐに立ち去る。

 時計はもう十一時をまわっていたから、参謀長の官邸で待たせてもらおう、と足を向ける。途中、工廠や造船所から響く槌音と、独特の匂いと喧騒とに包まれるが、それを越せばもう、静かな官邸の立ち並ぶ区画である。

 鷲頭が起居している場所は、和洋折衷になったような、不思議な雰囲気の官邸で、立派なものだった。そこへ入ってゆくと、明らかに只の家政婦ではない、品のある妙齢の婦人が応対に現れる。このことについては、鷲頭から手紙で事情は聞いていたから、驚きはしなかった。

 それは婦人も同じようで、嵩利が名を告げると、それだけで居間へ通された。邸のなかはしんとしており、その独特の空気の重みだけで、ここに鷲頭の存在を感じ取れるような気がした。

 そのうち、奥からもうひとり中年の婦人が現れて、紅茶を淹れてもてなしてくれる。彼女もまた、上品で控えめな印象を受けた。その婦人は嵩利へ申し訳なさそうな表情を向けて、口を開いた。

 「せっかく訪ねて来てくださったのに、何と言ったらいいのかしら。今日は何でも、城内長官とご相談がおありとのことで、他所へお泊りになられるそうでございますよ」

 これにはさすがに驚き、また落胆も隠せなかった。悲しみに落ち込みはしたが、それはつかの間のことで、失礼にならぬよう、柔らかな笑顔を向けて礼を述べる。

 「そうでしたか、今日は局長から預かり物がありまして、そのついでに寄ってみたのです。他のことより、参謀長が元気にしておられるのでしたら、それで結構です」

 「公務から一旦、こちらへお戻りになられるかもしれませんから、もう少しお待ちになってはいかがかしら」

 「そう…ですね。いえ、でも今日は忙しいでしょうし、また日を改めて参ります。ぼくは土曜日も、暢気に休暇ですが、参謀長は休日もないようですからね」

 こうなれば、帝都へとんぼ返りする以外に、道は無い。鎌倉の生家へゆくにも時間はないし、軍服を着たまま休日に外出するわけにはいかない。官邸を早々に辞して、白亜の鎮守府庁舎を横目に見つつ、いっそ訪ねて行ってしまおうかと衝動も湧いたが、あくまでも抑えた。

 切なくおもいながら、振り切るような足取りで駅へ向かい、その途中であの家のことを、ふと思い出す。半年前に三笠へ異動になったとき、短い休暇の最後に鷲頭と一緒に訪れた隠れ家だった。

 ―そうだ、帝都へ戻るなら、あの家に泊まっていこう。
→【11話】 →目次へ戻る

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| 綿津見の波の色は・51―60話 | 23:16 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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