大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第伍拾捌話

 艦隊勤務のできごとを、土産話のようにして守本に聞かせ、それに持たされた餞別についても、嵩利はちょっとした話まで覚えていて、それはそれで愉しかったけれども、語り終えたあとも、やはりどことなく気分は晴れなかった。憂鬱なものを抱えていたくもないと、どちらからともなく、外へゆこう、ということになる。

 「三年ぶりの陸なんだから、宮城の周りだけでも、すこし散歩しようぜ」

 考えても仕方がない、と言いたげな表情で守本は言って、自室へ一旦引き上げていった。ふたりとも和服に袴をつけた姿で、官舎を出る。陽射しは思いのほか強く、熱を持った風の匂いに、嵩利は幾分気持ちが和らぐのを感じた。

 少し足を伸ばして、建設中の帝国劇場を見に行き、靖国神社へ参拝をし、その境内にある茶店でひと休みするころには、昼を過ぎていた。

 「すこしは気が紛れたか?」

 「うん、充分さ…」

 確かに官舎に居たときとは、笑みの柔らかさがまるで違う。守本はそれを認めて、漸く肩の力を抜く。虎屋の羊羹のお返しでもないが、今夜は上野の精養軒か鳥鍋にでも連れて行って、旨い料理を食わせる積もりでいた。

 もと来た道を戻りしな、三宅坂を通りがかったとき、洋装の役人風の男たちが庁舎から出て来、慌しく車へ乗り込み、走り去っていくのを見た。それに霞ヶ関まで出てみれば、夏の白軍服でいる海軍士官の姿が、やけに目立つ。慌しく海軍省と軍令部に出入りして、傍目にも只事でない様子は見て取れた。

 「どうしたんだ、いつもこんな様子じゃないんだろう?きみは海軍省へ戻った方がいいんじゃないのか?」

 「うろたえるなよ、何かあれば官舎へ連絡がある筈だ。それに、おれが浅田次官から仰せつかっているのは、貴様と居ることだ。庁舎へ戻りはしない」

 焦りを隠せずにいる嵩利を宥めながら、浅田が外出する際、軍服を脱いでゆけと言ったのは、このためだったかと思い当たる。何も見なかったことにして、官舎へ戻ったが、何の連絡も届いていなかった。

 「な、慌てることはなかっただろう。第一、貴様の異動は明日からだ。ここに居ても何だか、くさくさするだけだし、折角だから今晩は上野へ行こう。洋食か料亭か、貴様が好きな方を選んでくれ」

 精悍な守本の顔に浮かんだ微笑を目にして、嵩利は今度こそ憂いのない笑顔を向けてみせた。それに、どうにもならぬことで鬱々と塞ぎこむのは、嵩利の性には合わない。

 気持ちを切り替えたあとは、未だ解いていない荷へ手をつけることにして、それらを整頓している嵩利の傍で、守本は本を拝借して読んでいる。すべて鷲頭から送られてきたもので、堅苦しいものばかりでなく、柔らかいものもあり、例えば仏蘭西の浪漫派文学集といった書籍もあった。

 「余程、貴様は大事にされているんだなあ。最も、それ位目を掛けていなければ、養子に迎えたりはせんか」

 「確かに大事にして頂いているけど、ぼくは参謀長を貶めないようにする事で、精一杯だよ」

 「そうか。そういう飾らないところが、貴様の良い所だ」

 窓の外から時折、車などの通る物音がする以外は、静かな官舎だったが、幾人かの気ぜわしげな足音が廊下に響くのを聞き取って、ふたりは顔を見合わせた。その音は嵩利たちの居る部屋の、幾らか手前で落ち着いたものになる。

 やがてそれらは扉の前で止まり、椅子から腰を浮かせかけた嵩利を、守本が小声で制する。そのまま座っていろ、と目で示しながら、敲かれた扉へ歩み寄る。

 「はい」

 「うん…、あなたは誰ですか?ここは鷲頭少佐の部屋ではないのですか。鷲頭少佐は何処です?」

 「私は、軍務局長秘書官の守本です。訳あって今日はここに居ります。失礼ですがあなたは…?」

 動じずに応答する守本の問いに、扉の向こうに居る人物は沈黙する。僅かに逡巡するような気配を感じ取るが、武術に秀でた守本の肌は、未だ危機を察知していない。

 「ああ、守本少佐でしたか。不躾な真似をして済みません。私は教育本部長の新見です」

 「新見本部長…?」

 「大丈夫、新見少将なら参謀長の親友だから」

 名を呟く守本の肩を、ぽんと叩いて嵩利はそっと耳打ちする。貴様がそう言うならば、とそれでも背に庇うようにしてから、守本はそっと扉を開く。

 「鷲頭少佐、無事で何よりです。それに、守本少佐が護衛に付いていてくれていたとは、思いもしませんでした」

 普段はあまり表情を変えぬ細面に、心底からの安堵を浮かべて、新見がそこに立っていた。両隣には、嵩利と守本ともに友人である同期の佐官がいる。

 「守られてばかりで、お恥ずかしい限りです」

 「おいっ、鷲頭―」

 「守本くん、いいんですよ。そうそう…、鷲頭少佐。あなたは明日から、軍務局長先任副官です。通常通り海軍省へ出仕してください」

 「はい」

 上官に対しているとは到底思えぬ、のんびりとした口調で、嵩利は新見の問いに答える。守本は慌てて遮ろうとするが、新見は頓着せずに笑顔のままでいる。
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| 綿津見の波の色は・51―60話 | 23:26 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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