大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第拾肆話

 「ならば、閣下は今すぐ睡眠と、そのあと食事を摂ってくださらねばなりません。あとの作戦会議に支障をきたします。自分は副官として、閣下の身を案ずることも責務と思われますから、何があろうとも、これだけはして頂きたくあります」

 すかさず、和胤は明瞭な口調で言いわたす。

 副官としての責務である、という意識を表に出してこそいたが、その実、このように戦時中でなくとも、己が身を顧みずに砕身して、働くことを平然とこなしている上官の身を本気で案じている。

 戦場とはいかなるものなのか、実はまだよく知らない。明治に勃発した二度の大戦。確かに和胤は戦地へ行った。あちらで従軍はしたが、卵から孵ったばかりのような新品の参謀であったから、補佐の補佐として後方の本部でほんの一握りの軍務をこなしたに過ぎない。

 例えば、副官として前に仕えていた川上少将のような軍司令官のもとで、前線に立って数々の作戦をうち立てる如き、精鋭の参謀任務には、少なくとも就いていない。

 そのような器が自分にあるかと問われれば、それは返答に窮する。そうなりたいとおもっても、なれる者となれぬ者とがいる。和胤は、後ろを向くのが大嫌いであるから、精一杯足掻いている。

 ―おれも、いつかは―

 そのおもいは、常にある。そのためには、この上官のもとで多くのことを学ばねばならない。いま和胤に出来るのは、己が身を顧みない上官を労わることだ。



 副官のことばに、首のうしろがますますむず痒くなる。

 軍人のくせに、なまぬるいことを言いやがって、という気持ちもあるが、それとは全く別のものが八割がた占めている。そのせいで、何事も当意即妙に答えるのに、どこかいつもの調子ではない。普段は面白半分に、張らなくてよい意地を徹してみたりするのだが、いまは違う。

 「な、なァにが責務じゃ。戦地に居ったらそんな悠長なことは言っちゃおれんぞ」

 そう反論してはみたが、この状況を切り抜けられる自信がなくなってきた。何しろ、正午まで第一局室の長椅子にでも丸くなりながら、作戦に従事する部下達を督励しつつ、軽く睡眠をとる腹づもりでいたからだ。

 このあとに仕事の予定などは最初からない。

 つまりこれ以上、言い逃れができる要素は手許に残っていない。それに督励といっても、部下達には全幅の信頼を置いているから、作戦会議に自身が首をつっこむわけではない。居ても、のんびり終わるのを待つだけである。

 「これから第一局室で、おぬしらの督励に専念するに決まっちょろうが。具体的に立案できんことには、議会を説得しにもゆけんっちゃ」

 相変わらず毛布にくるまって、椅子のうえで膝を抱えるような格好でいる蓑虫は、わざとしかつめらしい顔でそこまで言う。言って、ちょうど漏れる欠伸を噛み殺した。我ながらだらしのない体になったものだ、と内心でぼやく。

 あとで裏庭の井戸の釣瓶をひと汲みして、頭から浴びれば、目も覚めるだろう。と、のんきに考えもする。ねむらないと言った手前、手っ取り早く睡魔を追い払う手段を講じるべきであり、そうするよりほかない。しかし、毛布から離れがたいほど、早暁のいまは冷え込んでいる。

 互いのことばが途切れ、ふと副官を見上げれば、何か思うように眉根を寄せている。それをちらりと上目に見て、居心地の悪さを隠すように再び机上の地図へ手を伸ばす。耳から鉛筆をとりあげて、浮かんだ最後の案を余白へ書き記して置き、再び毛布に手を引っ込める。

 そうしながら、妙な意地を張っているのを呆れて見ている、もう一人のじぶんがいたりする。

 「てこでも動かないおつもりでありますか、閣下。それならば、閣下を万全な体調で送り出さねばならないという、副官の責務を強引にでも行使するしかありませんね。自分なりに閣下をお守りしますと、昨夜言いましたから」

 副官は説得するのを諦めたかわりに、まるで良妻の鑑のような宣言を、淀みなくしてのける。気恥ずかしさが頂点に達したとき、副官はそんな惟之のおもいを他所に、毛布に手をかけて、きっちりと惟之のからだを包みなおしにかかった。それからおもむろに、椅子の前に屈みこむ。惟之が訝しくおもった次の瞬間―。

 軽々と抱きあげられて、さすがに慌てた。

 しかも毛布で包まれて身動きがとれないという情けない有様で、顔を朱に染めて声をあげる。

 「なんじゃ、おいっ、おろせ。なんちゅう扱いをしようる、おろさんか」

 ここで、貴様、上官を何と心得るか、などということばを出せば少しは状況も変わったかもしれないが、如何せん、将官だから偉ぶるというような性格ではないし、惟之にはそういった類の、くだらない階級意識の持ち合わせがない。

 副官は柳に風、といった様子で―あるいは、こどもじみた意地を張る、惟之のお守りに閉口したか―おろせということばに従う様子は微塵もない。黙々と廊下を過ぎ、階段をのぼってゆく。夜が明けたばかりで、もちろん参謀本部には誰もいない。目撃されることはないが、そうでなくともこれは珍事である。

 おとなしく、副官に抱き上げられたまま―この状況では、そうせざるを得ないのだが―我ながら馬鹿なことをしたものだと、内心で笑う。なにごとも、ひとの好意は素直に受け取る性質であるのに、一体何をしちょるか。とじぶんでじぶんを叱り飛ばしさえする。

 白状してしまえば妙な意地を張り徹さずに済み、ほっとしているが、そんな心情を微塵も出さず、むくれた顔をして郷里ことばで文句を呟く。和胤はその文句の意味を、余さず理解していたが、敢えて聞こえぬふりを通した。

 やがてされるがままに、個室へ運ばれ、副官の為すがまま、惟之は寝台に身を預けた。横たえた身にのしかかる疲労感と睡魔は予想以上だった。これでは井戸の水浴び程度では、到底払いきれるものではない。

 いままでの副官―というよりもまわりにいる部下―の誰が、このような類の気遣いを、こうも堂々と見せたことがあっただろうか。枕もとに置かれた風呂敷包みを、眠たげな視界におさめながらふと、そんな感慨に耽る。

 「自分が起こしに来るまで、しっかり睡眠をとってください。それと、食事もです。もし、逃げ出していたりしたら、いくら相手が閣下とはいえ、許せることと許せないことがあります。その点は自分にも考えがありますから、覚えておいてください」

 しかし、最後に言ったこの副官のことばに、ようやく引っ込んだ意地が、また顔を出す。このあと対峙する大城の熊坊と、尾木の狐爺の顔が、惟之の悪戯心を押しとどめたが、とどまらない。

 「そりゃァ、脱走しろちゅうことだな。後はどうなるかは兎も角、してみる価値はありそうじゃな」

 副官の生真面目極まりない顔に向かって切り返すと、にやりと不敵な笑みを毛布の中から返しておく。警戒していることを隠しもせず、施錠までして出てゆく副官の足音が遠ざかると、惟之は鼻を鳴らした。

 「あれで済んだ積もりか、甘いのう。中から開けられるちゅうに。さーて…ひと眠りしたら、川上さんとこに隠れるとするか」

 この広い参謀本部の中でかくれんぼ、のつもりである。もしも、自身の居場所を副官に探し当てられたら、さすがに今後は、かれのこそばゆい甲斐甲斐しさも、素直に受け取る努力をしなければならないだろう、と心のなかで覚悟を決める。

 欠伸をし終える間に、深いねむりに引き込まれていった。

 分割して睡眠をとらねばならない状況など慣れっこだから、始業時間の頃には、本部のあちこちからうまれる雑多な音を目覚まし代わりにして、惟之は起きだした。枕もとの風呂敷包みをもって、造作もなく個室の施錠を外すと、風のように姿をくらました。
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| 変わらぬ青空のしたで・11―20話 | 20:46 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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