大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第拾参話

 俥に揺られて、永田町の参謀本部へ戻ってゆくその道すがら。夕方、帰りしなに届いた電文が一言一句違わず、鮮やかに脳裏に浮かびあがってくる。

 先の戦いで獲た正当な戦利の証、すなわち海むこうの国にある一角の占領地―満州。その防備が甘いという。

 何とかしたいのは山々だが、悲しいかな予算がない。こればかりは陸軍卿である尾木の禿頭を叩いても、打ち出の小槌のようにどこからか、金が沸いて出てくるというわけにはゆかない。

 あとは知恵である。

 夜風に吹かれて酔いは次第に醒め、透明になっていく頭の中に白地図を描き、そこへ鮮やかな朱と青の線を縦横無尽に走らせている。

 参謀本部に着くと、相変わらずの鼻歌混じりで門を潜り、執務室へ入ると軍服に着替える。一分の隙もなく、栗鼠のようにちょこまかと部屋を駆けまわり、大机のうえに白地図を広げ終え、膨大な資料から的確に要るものだけを引っ張り出し、鬼神の如き勢いで作戦を構築してゆく。

 こうなるともう、何かに憑かれでもしたか、別人のようである。しかし、目を輝かせながら地図と向きあっている様子は、見ようによっては、遊戯に熱中している風にも見えるかもしれない。

 気がつくと、窓のそとが白んでいる。点けているランプの灯が小さくなって、消えた。朱と青で埋め尽くされた大小の白地図が、大机のうえに所狭しと散らばっている。

 「これで議会を説得するしかないのう」

 座ったまま伸びをすると、長時間身を屈めていたせいで、背と肩の骨が鳴った。そうして将校用の毛布を肩から掛けなおす。まるで戦場の作戦本部にいるような出で立ちである。おれも歳じゃなァ、などと独り呟いて椅子のうえで膝を抱え、蓑虫のような姿で身震いをする。梅の咲くころとはいえ、明け方はまだまだ寒い。

 赤鉛筆を耳に挟むと、背もたれに体を預けて大机を眺める。そのうえに載った地図を見ているというよりも、物事に集中し過ぎた反動と徹夜の眠気も相まって、半ば放心の態でいる。


 上官を見送った和胤は、そのまま宵の日本橋をひとりでぶらぶらと歩いていたが、ふと、上官の言葉が脳裏に浮かび、はたと足をとめた。

 俥夫に永田町へやってくれ、とそう言ったのを確かに聞いた。あの杉閣下のことだ、本当に参謀本部へ戻ったに違いない。きっと何かあったのだろう。軍務に人一倍熱心なのは、先刻廊下で二人きりのときに交わした会話と、何より上官の表情が物語っていた。

 寄り道をしようとおもっていた足を、ためらうことなく自宅へ向ける。

 翌朝―、といってもまだ夜が明けきらないうちに起き出すと、身支度をし、他にも二、三用意をして手に携え、自宅を出る。底冷えのする群青に沈んだ街のなかを、ひたすら歩き詰めて、参謀本部へ入ってゆく。

 当直の兵卒が驚いたような顔で詰所から出てくるなり、挙手の礼をとる。和胤はそれに正しく答えると、階段を素早くあがって三階の第一局長室を目指した。


 最初は、扉をノックする音も耳に入っていなかった。

 しかも反応をみせたのは、姿をみせた副官の、きびきびと室内を動くようすが視界に入ってからだ。思考に浸りすぎると、周囲を遮断してしまうほどの集中力を持っている。

 副官は室内のあかりを入れ、小火鉢の炭をつぎ足して、熾き火を起こしたり、燐寸を擦ると石炭の暖房器具に点火したりと、ちまちましたことを一通りやっている。

 それらの身動きは、とても士族の生まれとはおもえぬ、馴れたものだった。

 「なんじゃ、えらく早いのう。さては朝帰りか?」

 かれが何故こんな早朝に来たのか、わかっている。わかっていながら、軽口を飛ばしてしまうのが、惟之の悪いくせでもあった。からかうような冗談を飛ばしながら、蓑虫は姿勢を崩して椅子にもたれかかる。

 「まさかとおもって早起きをして来たんですよ。案の定、いらしていたんですね。閣下はあれから、夜通しここに居られたのでありますか」

 「うん、まあな」

 副官は、惟之の気軽な返答に眉根を寄せ、腰に提げていた風呂敷包みを、惟之の脇に置いた。

 「閣下、ここに朝食を持参してきましたから、召し上がってください。この寒いなか、うっかりそんな所で居眠りなどされて、風邪を召されても困ります。これから階上の個室へ行って然るべき時間、睡眠をとって頂きたいものであります」

 士族の生まれであろうが、維新を過ぎればただの人である。そのため和胤は何でもひとりで出来るように育てられてきたから、釜でめしを炊くなど、日常茶飯事なだけに、起き出して弁当のひとつを拵えるくらい、造作もないのである。

 椅子のうえで身じろいだとき、毛布が半ば落ちかかり、上官の華奢な肩があらわになる。いつもは軽やかに揺れているだろう金色の参謀飾緒が、やや重たげに吊られ、その肩と胸とを圧迫しているように、和胤の眼に映る。

 肩からずれて落ちかかった毛布を、そっと後ろから掛けなおされながら、物思いに沈みかけていた意識を引き上げた惟之は、ゆっくりと副官をふり仰ぎみた。

 「昨夜からおれの行動を察していたとは、ええ女房ぶりじゃのう。めしはともかく、ねむっちょる場合ではない。別段、三日くらいねむらんでも、死にゃァせん」

 くちを軽くとがらせて、言う。

 副官の甲斐甲斐しさが、徹夜の身にはそれこそ、骨にまで沁みるほどありがたいだけに、変にこそばゆかった。もぞもぞと毛布にくるまりなおし、視線を副官から外す。そのまま、地図を目でさし示した。見れば、朱線と青線が引かれ、陣形まで描かれている。

 「満州で、何かあったのでありますか」

 和胤は室内に入ったとき、上官と、大机のうえに所狭しと広げられている地図が真っ先に目に入ったが、その尋常でない光景に気圧され、じぶんから事情を訊くのを躊躇っていた。

 地図を見つめる上官の顔は真剣そのものだった。すこし顎をひいて、半眼で見ている。そのまなざしは、まるでつい先刻に、前線をみて来でもしたかのような気迫がこもっている。こころは敷島を飛び越え、満州へ飛んでいるのだろう。出来得ることなら今すぐに駆けつけてやりたい、という気持ちが地図の上に現れている。風の吹きすさぶ凍土が白地図を透かして見えるようだった。

 「今、海のむこうで友軍が苦境に立っちょるんじゃ。それでな、―ちと作戦を考えてみたんでな、参考にしてみい。金はともかく―、一人の将兵の命もむだに出来んいまの状況にあっては、参謀の腕を見せる所じゃ、皆が揃ったらここぞと知恵を絞って案を出せ。これは演習ではないぞ。時間がないんじゃ、期限は本日の正午まで」

 あとはかれらの知恵の結晶を携えて、惟之が言うところの大城の熊坊―参謀総長。参謀本部の最高責任者―のもとへゆくだけだ。
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