大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第弐拾玖話

 副官が珍しく言い返して、しまいには、

 「今度同じことを仰ったら、ぼくもう、ここへ来るのを止しますからね」

 と、頬を膨らませてみせる。鷲頭が非を認めて、これもまた滅多にみせぬ困った顔で副官を宥め、ここで初めてふたりは喧嘩らしいものをしたのだった。

 何事も簡潔に決裁し、あやういところのない海軍大佐も、嵩利のまえではまるで違っている。誰が聞いているわけでもないのだし、他でもない愛しい者の耳許へそっと、憚らずに率直な思いを告げればよいのだが、それができない。

 早々、性格や思考を変えることはむずかしい。そういうわけで、鷲頭はこのやりとりのあとも、相変わらず沈黙を以って、嵩利との時間を過ごしていた。

 そうこうしているうちに、大湊での勤務にも慣れ、真冬になった。

 ことのほか冷えこんだ朝、鷲頭は官舎で朝食をとっていたが、珍しく箸がすすまない。おかしいとはおもったものの、いつもの半分も食さぬまま本部へ勤務に出た。午前は悪天候のなか、海へ出る艦への指示などで追われたが、逆に午後の三時を過ぎる頃、ぽっかりと時間が空き、暇になった。

 窓から見れば、そとは粉雪が舞っており、銀色にまぶしたような海に浮かぶ艦艇を、鷲頭は机へ片肘をついてぼんやりと目で追っていた。雪がひどくなる前に停泊している艦の様子を見てこよう、と椅子のうえで何気なしに半身を捻って机へ向き直ったとき、副官と視線が合う。

 “今夜は、水交社か”

 鷲頭がそうおもったのは金曜日だからだ。恒例のようになりつつあるガンルーム士官の集いは、今日もあるはずだ。ちらりと壁掛へ目をやり、そこに副官の外套しかないのを認める。

 「遅くなるなら、雨衣と襟巻を忘れるな。今夜はこの程度の雪では済まんぞ」

 それだけ言って、再び嵩利へ向けるまなざしに別段何も含むものはなかったが、鷲頭の眼をじっと見つめ返して、かれはわずかに首を傾げてから、何か確たるものがあるようにひとつ頷く。副官の奇妙な反応を見つつも、鷲頭は机上の軍帽をとって被り、港へゆく支度をはじめる。

 嵩利は席をたつと机を回りこんで、鷲頭の傍へ身を寄せて屈めた。

 「何だ」

 「ちょっと失礼します」

 すいと手を伸ばしてきた手に、無造作に軍帽を取り上げられて、鷲頭は眉間を一層険しくした。一体何をするのだ、と声をあげかけたとき、副官の掌が額に添えられた。ずいぶん冷たい手をしているものだと、かれの執務机の脇を見た。そこにきちんと小火鉢がそばにあり、炭が赤々と熾きているのを確認する。

 「やっぱり。艦長、ぼくの心配をするまえに、ご自分の心配をなさってください。何ですか、こんなに熱があって。港内の艦の様子ならば代わりに見てきますから、今すぐ医務室へ行ってください」

 と、かたちの良い眉を吊り上げて怒りはじめた。熱などあるわけがない、何しろ“睨みつければ風邪も寄り付かぬ”と少尉のころから言われ、軍医に舌を巻かれるほど、鷲頭の身は頑健なのだ。

 「曲がりなりにも生身だ、熱くらい、多少の上下はあるだろう。きみは気にしすぎだ。さあ、返し給え」

 怖い顔をして言う鷲頭にかまわず、嵩利は身をかわしてその手を避け、執務机の前に立って振り返る。両手に上官の軍帽をのせて、相変わらずくちを尖らせている。

 「それなら、ここまで歩いて来られますね」

 当たり前だ、と内心で呟きつつ椅子から立って、鷲頭はその場で悪寒と眩暈に襲われた。めったに体調を崩したことのない身には、それだけでも恐るべき症状となってふりかかる。ふわりと浮きかけたからだを支えるように、机へ両手をついたが、それすらも不安定に感じる。

 「昨日も一昨日も、悪天候に備えるからといって、遅くまで起きておられたでしょう。事態に備えて腐心してくださるのは、部下としてはありがたいですが、艦長に倒れられては元も子もありません」

 そっと脇に腕を差し入れられて、体を支えられながら、漸く身を起こすと、副官が耳元で囁く。労わられながら椅子へ再度腰をおろし、軍医を呼んできます、と言って出て行くその後ろ姿をみたあと、鷲頭は己の情けなさにますます眉間を険しくして、内心で叱咤する。

 結局―。

 診てもらった結果は、感冒であったのだが、その日病院へ泊まれと勧められたのを、頑として諾かなかった。鷲頭は結局いつもの隠れ家へ帰ってきてしまい、早々に蓑虫のようにふとんへくるまって寝込んだ。

 その報せを聞いた嵩利は、勤務がおわるとすぐに上官のもとへ向かった。高熱のせいで意識が朦朧としているだろう鷲頭を放っておくことができず、水交社での集まりを初めてすっぽかした。


 熱にうかされてみる夢ほど、嫌な夢はない。なかば覚醒しているようなものだから、現実との狭間に置かれ、実際に身に起こっていると錯覚してしまう。鷲頭が陥った悪夢は、抱いている不安そのもので、嵩利を愛するが故の苦しみがあらわれていた。

 いままで、嵩利に対して我が侭を通したことや、強引な手段をとったことは一度としてない。のびのびと、いままで通りのかれでいて欲しい、そう願っているから。だがそう思いつつも、この手中へ束縛したいという欲望とが、ずっと鷲頭のなかでせめぎあっている。

 夢の中で何を言ったか、何をしたのか、飛ぶようなはやさで断片的に浮かんでは消えてゆく。ただはっきり残っているのは、鬱屈したものを吐き出すようにして、ひどく嵩利を傷つけたことだ。あの朝顔のような笑顔が、見る影も無い。伸ばした手を振り払われ、かれは部屋を出て行って、それきり二度と戻らなかった。

 ―私はただ、きみが傍にいてくれさえすれば、それでいいのだ―

 血を吐くようなおもいで、そう叫んでいた。熱のせいで、からだが焼かれでもしているのではないか、と恨めしく呻きながら寝返りをうつ。ただの感冒でここまで苦しまねばならぬとは、情けないような悔しいような、心細さに襲われる。

 「ぼくは、ずっと傍にいますよ」

 柔らかな声が、かすかに聞こえたような気がした。

 そのとき、確かに鷲頭のねむっている床の傍には嵩利がいて、軍服を着替えるのもよそに、甲斐甲斐しく看病にあたっていたのだ。嵩利は、うなされている上官がうわごとを呟くのを、きいていた。

 夜半になって、発熱の山を越したらしく、すこしだけ楽な呼吸になる。と、嵩利が近くに居るのを気配で感じた鷲頭は、掛け布団のうえに出したまま固く握りしめていた手をゆっくり開いて、ほんの少し腕を伸ばした。

 「体に障りますから、暑くても我慢してください」

 きっと幾度か、ふとんをはね退けようとするのを止めていたのだろう。手に触れる、相変わらずつめたい嵩利の指さきを、鷲頭はかまわずに掴み取った。そのまま、離すまいと手繰り寄せて握ってしまう。

 「なんだ…やはり冷たいじゃないか」

 「それは艦長の熱のせいです。ぼくは何ともありません。あのときも執務室で、ぼくの手がつめたいことなんか心配して…」

 上官のやさしさに、嵩利の胸はきゅっと擽られるように疼く。うっすらと開かれたかれの眼は潤んでいて、切ない、乞うような色を浮かべて嵩利をみあげている。それは、熱のせいだけではないのかもしれなかった。

 せめていまだけでも、我慢しないで何でも仰ってください、と、嵩利は言って、空いている手を伸ばすと、上官の頬をかるく撫でた。限りない心地よさに、鷲頭は深く息をついた。穏やかな浜辺に届く、擽るような波に似た、安らかなものに包まれてゆくのを、感じ取る。

 「悪い夢をみた」

 「うなされていましたよ」

 「千早くん…。私が眠って起きるまで、ずっとこうしていてくれないか」

 悪夢の残滓がそうさせたのか、そのくちから素直に、懇願が漏れる。ただ、それでも言ったあと、気羞かしげに眉を顰めてみせるあたり、やはりそこは鷲頭らしかった。
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| 綿津見の波の色は・21―30話 | 02:08 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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