大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  或いは終わりと始まり・第拾壱話

 和胤の執務が終わるまで、ここでごろごろしているというわけにもゆかない。何しろ余暇に共に外出するなど、滅多にないことなのだ。我にもなく胸をときめかせている自分に、一度は自嘲もするが、そんなことに構っていられないほど嬉しい。

 一旦自室へ戻った惟之は、久しく着ていなかった洋装を引っぱりだして、着替えはじめた。入り用で誂えたといっても、やはり着慣れているものを身につけるから、平服でさえ二年前位に、何かの用事で着て出て以来、袖を通していない。

 「おゥ、ええところへ来たな」

 袖の釦飾りをつけ終え、右手にとうとう諦めたタイを持って鏡の前で苦い顔をしていると、扉を叩いて和胤が入ってくる。ずいぶん久しぶりに見る、惟之の洋装に、いろいろと記憶の底を擽られて、こもごもの思い出が和胤の脳裏に沸きあがってくる。それにつられて思わず口許に笑みを浮かべると、惟之は含羞の極みに至ったらしく、開き直ったこどものように頬を膨らませた。

 「なァにを笑っちょるか。もう二年も着ちょらんのじゃけぇ、タイの締め方なんぞ忘れたわい。やってくれ」

 「はい」

 そんな惟之を宥めるように、包むような温かな笑みとともに、差し出されたタイをその右手ごと掴んで、引き寄せた。片腕に華奢な腰を閉じ込めて、ぎゅっと抱きしめる。やがて向きなおって、絹のタイをその首に掛けるに至るが、すぐそばにある惟之の顔は、ほんのりと赤みがさしており、和胤は我慢できずにとうとう、その唇を攫った。

 甘い果実を貪るような息もつかせぬ接吻は、程なくして深く交わるものに変わり、熱い舌に口腔を捕らわれて熔かされる。このような行為がまったく、何ヶ月かぶりだっただけに、惟之はひざが震えそうになるのを堪えるので精一杯だった。その間、和胤はしっかりと為す事は為し、惟之の襟を正すタイをきちッと締めあげていた。日々洋装を着慣れている和胤にとっては、目を瞑ってでもできることであるから、造作もない。

 「ほんに、おぬしゃァ…仕様のない奴じゃ。いきなり、こがいなことをせる奴があるかァ、馬鹿者…ッ」

 「すみません、我慢しきれませんでした」

 かくん、と膝が落ちかかってすかさず抱きとめると、悩ましい吐息まじりの、艶めいたひくい声で窘めてくる。惟之のこんな甘い叱言をきくのも、いつぶりであろうか。かれの何もかもが愛しくてならない。

 支度が済み、揃って階下へおりてゆくと、見送りに出てきた千代が目をまるくして惟之を見つめている。叔父の洋装をみたのは、このときが初めてだったからだ。千代はこれから川上家へ行って、嫁入りまで暫く諸々のことどもを、川上夫人に手ほどきしてもらうことになっている。いわゆる花嫁修業というやつだが、これについて惟之は何の心配もしていない。

 近いうちに夫婦になるふたりが、こうして並んでいるのをみていると、何とはなしに暗黙の諒解めいた、ふたりだけにある結束のようなものが感じられ、はやくも絆を感じさせていた。それが惟之には頼もしく、心底から喜びが沸いてきて、終始にこにこしていた。

 振り返ってみれば、惟之は生を享けてから真にこうした、安堵や喜びといった幸せを感じたことは、殆どなかったと言っていい。唯一の例外は、佳乃との愛を貫いて結婚したときで、妻との短い時間だけが、心のなかで光彩をはなっていた。それがいま、数を増そうとしているのを、心のなかではっきり感じ取っていた。

 「オイ、千代。ちっと和胤を拝借するぞ」

 「あら、いやだわ。叔父さまったら」

 未だ祝言を挙げていないのに、嫁に対するようなことを言う叔父に、千代は頬を染めて含羞む。惟之はいつもと同じように、それじゃァ、行ってくる、と笑みながら手をあげ、悪びれもせず、ごく当たり前の所作でもって、傍らの和胤の手をさッと取って繋ぎ、門前で待つ車まで歩きだす。


 ―和胤と千代は、無事にこの年―明治四十三年の春にめでたく祝言を挙げる。そして翌年には男児が産まれて、それからふたりの間には五男二女、七人の子供を授かることとなる。

 惟之はどうしたかと言えば、“先は長くない”などと言っていたのが、本人曰く“憎まれっ子世に憚る”に転じたらしく、昭和九年の、七十四歳まで生きた。最愛の息子夫婦と孫たちに看取られ、生涯で唯一愛した女性である妻、佳乃のもとへ旅立っていった。

 私人としての惟之は、晩年かつてない幸せにつつまれたが、軍人としての晩年は、最期まで苦悩の連続であった。彼が心血を注いだ陸軍も、大日本帝國も、明治に満ちていたあかるい光は薄暗い影を生み、その翳りはついに払われることなく、大正・昭和と歩みを進め、やがて自らも作りだすのに加担した、暗い時流に飲みこまれてゆくのだが、それはまた別のはなしである。

 ―完―

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えー、ちょっと強引ですが、惟之と和胤編は、このあたりでおしまいにします。
飽きたとかそういうのではないです。たぶん次は孫が主役で出てきます。ちょっと主旨がいろいろと違う気もしますが、また読んでくだされば幸いです。長らくのお付き合いありがとうございました。

| 或いは終わりと始まり | 02:38 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

お疲れ様でした

私にはほっとした終わりです
二人とも幸せになれたのですから
いつも互いを慈しんでいた二人の
お話、終わってしまうのは残念ですが
次を楽しみに待っています

| 雪風 | 2010/02/03 08:48 | URL |















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