大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  或いは終わりと始まり・第拾話

 陸軍大臣の川上と幾度も相談の末、改革と銘打って始めた、幼年学校、士官学校ならびに大学校の教育指針は浸透しつつあり、陸軍教育総監部の姿勢も明確になり、参謀総長としての惟之は、ひとまずの安堵をおぼえていた。これですべて肩の荷がおりた、というわけではないが、激務に追われて醸していた、刺すような気配がとれている。

 私生活では、養子嗣となった和胤は惟之の“子息”となったわけだが、もうじき姪の千代と華燭の典をむかえる。

 そんな春もたけなわの藤咲くころ、惟之は久しぶりに自邸で寛いでいた。執務室にしている部屋ではなく、離れの東屋で寝ころがって庭を眺めたり、文机で書き物をしたりと、何事にも煩わされることなく羽を伸ばす。

 今日は土曜日で、和胤は午前中だけ大学校へ行っている。今頃は教壇へ立って講義をしているに違いない。朝食のあと離れに来てから、千代が一度、茶の差し入れにやってきたくらいで、ひとりである。しかし、かつての孤独感はかけらもなく、妻・佳乃がいたころのあたたかさに似たものが、この杉家をつつんでいる。


 穏やかな昼の陽だまりのなかで、文字通り仔猫か栗鼠のようにまるくなって、ウトウトとまどろんでいるところに、帰宅した和胤がそっと足音を忍ばせて東屋へやってきた。手には摘んできたばかりの藤花の房をふたつ、花器へ入れて携えている。

 「ただいま帰りました、惟之さん…?」

 すぐ傍に腰を落として覗きこみ、無垢な寝顔の頬を、ほんの軽く指先で抓まむ。が、ぴくりともしない。まどろみはねむりに変わり、狸寝入りでなくほんとうに夢のなかへ落ちていた。手枕をしている腕をそっと掴みあげながら、いつものようにあたまを膝へのせてしまう。いかに安堵してねむっているかわかる。

 惟之が心身共に酷使してきたのは、皆まで言わずともわかっている。これ以上はもう限界、というところまで執務机にかじりついていた姿を、和胤は副官を務めながら、はらはらしつつ見てきていた。だが、こうして自邸で安らいでいるすがたを漸く目にし、和胤もまた、たとえようもない安堵をおぼえる。

 あたまを撫でるとかすかに反応をみせ、和胤はそっと耳朶を擽って、ちょっかいを出しはじめた。むずかるような声をあげて惟之が目を覚ますと、すこし身を屈めてその耳へ囁きかけた。

 「ただいま帰りました、お父上」

 「何じゃァ、気持ちよくねむっちょるちゅうに」

 とろんとした声で抗議をするも、浮かびあがったばかりの意識がついてこない。目の前に置かれた花器に活けられた藤の花房が、畳のうえにまで零れて垂れている。その花弁へ指を伸ばして撫でているうちに、漸く和胤が囁いた言葉を反芻した。

 「ん…おい、いま何ちゅうた」

 「親子になったのですから、そうお呼びしても構わんでしょう。いけませんか?」

 和胤がふざけて、からかい混じりに言っているのだろうと、じろりと睨みつけた。杉和胤として迎えた日に、今までどおり名で呼ぶようにと、厳達してある。

 「そない、怖い顔をせんでつかされ、ほんに、そう呼びたかったんですけぇ」

 骨まで削って、戦い尽くした者だけが持ち得る、ある種の高潔な気配が、惟之の身に満ちていた。圧倒されたといおうか、和胤など足元にも及ばぬ威厳を感じて、それだけに自然と口をついて出てきた、と照れながら告げてみる。全く和胤にとって、惟之は軍務においては父親も同じで、それも妥協を許さない、実に厳しい“おやじ”なのである。

 それに対して、惟之はふゥん、と気怠そうに鼻先で返事を寄越す。ややあって、あァ、あれか。おれが尾木の爺ィをたまに“元帥”ちゅうて呼ぶのと同じか、と思いついた喩えを、多分に眠たそうな声で言って、和胤の膝を指さきでつついた。

 「しかし、おれァ今日はいつになく寛いじょるぞ。まだ、そげな気配を醸しちょったか…?」

 藤の花房をそっと撫でながら、惟之は不安げに訊く。ちらりと見上げる眼が、心配をかけさせて済まないと言いたげである。珍しくいつもより素直な穏やかさが漂っていて、こういう態度を目の当たりにすると、今までかけさせられ通しだった気苦労が、一挙に吹き飛んでしまう。

 満州の件をはじめ、諸々の問題がそれこそ、富士の山よりたかく積み上がっていた半月前は、相手が誰であれ―軍務に就いている間は和胤にさえ―触れなば斬らん、と言わんばかりの剣幕でいたのだから、今などは、ましどころの話ではない。

 「いえ、まだ疲れがとれちょらんのでしょう。ゆっくりなさってください」

 このまま膝枕をしていたいのはやまやまだったが、大学校の教官としての職務を持ち帰ってきている。そう言いながらあたまを撫でていた手をとめ、立ち上がる気配をみせると惟之はさっと手を伸ばして、やや強引に和胤の胸倉を掴んでひきとめた。惟之は首をかしげつつ、まっすぐにみつめてくる。暫く視線を絡めたあと、新しい状況に置かれてもなお、ふたりのなかで、互いに対する想いが全く変わっていないことを、そこに認める。

 「―のう、おぬしの御用が済んだら、三鷹までゆかんか。藤の名所があるんじゃ、観にゆこう」

 「それはいいですね、行きましょう」

 和胤が傍から離れると、ぞんざいに寝返りをうって、畳のうえで肘枕をしつつ訊いてくる。もちろん異存はないから、二つ返事で頷いた。このまま、ひとりの時間を過ごすのも、和胤の職務が終わるほんの半刻だというのに、もうそわそわしている。
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