大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  或いは終わりと始まり・第玖話

 黒縅に金糸で飾られた、陸軍中佐の正装に身を固め、惟之に伴われて川上邸へ赴いた和胤は、そこで千代と十日ぶりに顔をあわせた。いまはふたりきりで、庭園を一望できる離れにいる。

 千代はその性格もあってか、普段から身形などは質素で、清楚ということばがぴったりであるのだが、今は、年頃のむすめらしく、やわらかな萌黄色の振り袖すがたに盛装している。彼女の持つ内面が、そこに一層引き立ってあらわれていて、その美しさに和胤は歳甲斐もなく頬を赤らめるほどであった。

 くるくるした眼が、惟之―というより杉家の血がもたらすものなのだろうが―によく似ていて、気羞ずかしげに伏せたかとおもうと、つぎには屈託なく笑みかけて、また伏せてしまう。そのような含羞をみせる千代が愛しくて、縁側へ並んで座っているあいだに、和胤は嵌めていた白手套を外して、やわらかな千代の手を引き寄せて、そっと握った。

 すこしひんやりとした指さきが、健気にちいさく握り返してくるのに応えて、しっかりと熱い掌でつつみ、そのまま膝のうえに憩わせる。ふたりは言葉を交わさずにいたが、それだけでもう充分だった。和胤にも千代にも、先ず惟之のことが念頭にあり、今まで、とくに杉家の血を引くものたちは、激流のような時局のなかで離れ離れであった。だがこうして、和胤をふくめた新しい家族で、これからはあの邸をずっと、あたたかなものにしてゆこうと、それを固く心にきめていた。

 改めてふたりの若人を引き合わせたものの、惟之はともかく仲人の川上でさえ、襟を正して聞かせるような諭すことを言いはしなかった。あとに若者を残して、にこやかに、しかし黙ったまま連れだって渡り廊下を歩いて母屋へ戻る。

 その途中、惟之はちょっと足をとめて庭を眺め、沓脱ぎ石に揃えてある草履をひょいと引っかけるなり、庭の敷石を踏み出して、どこかいそいそと歩いてゆく。迷いなく進む先には桜の樹がある。

 実は川上邸に植樹されている桜は、惟之の邸に植わっているものと同じだ。

 かつて江戸城の周辺は、各藩の江戸詰め屋敷が軒を連ねていた。藩屋敷には桜がそちこちに咲き誇っていたが、古き体制は解体され、やがて武家屋敷もなくなっていった。その跡地に新政府の真新しい洋館が続々と建ち並んだわけだが、中にはやむを得ず伐るかという、失われんとする桜が多数あった。それを惜しんだ人びとが待ったをかけ、ひきとって自邸の庭や縁の地へ植えた、この樹もそのときのものである。

 惟之はじっと爛漫の桜花を見上げている。

 黒縅の陸軍中将の正装でいるからか、華奢ながら整ったからだのつくりがはっきりとわかる。かれの前の桜と、そのちいさな容のよい背を見つめているうちに、川上はふと、何とも言えぬおもいに駆られた。

 ふたりが初めて会ったのは、その不憫な桜を引きとったときで、惟之は中尉、川上は大尉だった。そしていくらも経たずに再会したのは、陸軍大学校であった。それからふたりは友人となり、ずっとつかず離れず共に磨きあいながら、軍人としての道を歩んでゆく。川上は惟之の非凡さに、惟之は川上の鎮鉄のごとき胆力に、一目も二目もおいていた。

 少佐になると互いに東京の各連隊長となり、演習隊を率いて競い合ったこともあったが、五度に三度は惟之に軍配があがる。智将、名将などと川上は後年の大戦で持て囃されたが、その実、軍事戦略となると惟之にはかなわなかった。まったく驚嘆すべき才能で、天性の参謀であった。

 そんなころ、いつからだったかよく覚えていないが、うっすらと水彩の筆で亳いたようなあやうさが、惟之に見えはじめる。軍務を離れても川上は、惟之の心身を案じずにいられなくなった。しかし惟之は、己の弱音を見せることなど一切許さない性質で、恬淡としている。しかも磊落快活な性格であるから、相手が誰であれ天真爛漫、といったぐあいに明るく振る舞って、煙に巻いてしまう。追求するのは至難の業である。

 手のつけどころがないなかでも、嬉々として軍務に励んでいるように見えたから、川上は表立ったことはせずに、この無謀者の背を見てみぬふりをして見守ってきた。そんな経緯で、川上は惟之に対して庇護意識を擽られながらも、いつしか淡い気持ちを抱くようになっていく。

 もちろん惟之は知らないが、厳密に言えば川上も実は大同小異の“危険人物”のひとりにあたる。しかしボッケモンの従兄、大城とちがい、あくまでも淡く、兄弟愛に近い清々しいものとして在り、川上の心を生涯あたためる、やさしい想いである。

 「杉サン、ここいで一献かたむけもすか」

 そう後ろから声をかけると、惟之はどこか切ないようなものを滲ませた表情で振り返った。やがて微笑みをうかべるに至れば、川上はツイと手を伸ばしてくるりとした頭を撫でてやる。何か惟之のなかで変化が起きたのか、安堵と寂寥がないまぜになったような、そんな表情であった。

 「何ぞ、おかしなことを言うが、笑ってくれても構わん。いまな…、そこで佳乃が笑っちょったんじゃ。おれが、ようやっと生きる気になったのを、喜んでくれちょるみとーじゃった」

 「いや、おいは笑いやしもはん。おはんなこつ、よっく見てきたちゆうのに。…よかかな、杉サン。ああたはひとりではあいもさん。いつでも、おいどまが居りもす」

 参謀総長の椅子にいて、孤立しがちなのは見ていてわかる。たまには振り返って、周りを見なさい、と川上は諭す。惟之を支える者がたくさんいるのだから、これからは家族も増えるのだし、無理をしてはならん、と言うと、惟之は頭上の手を払いのけ、頬を膨らませてそっぽを向く。和胤のことを示唆されれば含羞甚だしく、また、川上のこういった気遣いは、いつも核心を突いてくる。しかも遠慮がない。長年のつきあいだけあって、心の内で最も揺れている惟之の不安や辛さといったものは、お見通しである。

 「わざとそうしちょるんじゃ。遠くから一寸にも満たぬ花火をうちあげても、誰も気づかんじゃろ。じゃけぇおれは三尺をいやというほどうちあげてやろうと、そう考えちょる」

 「軍縮のことですか。そいは、おいもおはんに賛成でごわす。じゃっどん、こん勢いちゆうのは、おいどまだけではどうにもないもはん。焦らず、説いてゆくしかなか」

 思想の暴走がもっとも危険であり、時流の色というのはそれに連れて変わる。そして、いとも簡単に人々を飲みこみ、染めてしまう。特に今、戦勝で逆上せあがっている軍部にその兆しが、惟之の眼にはっきりとみえている。これまで、ただ国を守るために奔走してきたが、こうして立ち止まってみれば、かつてあった佳きものが色褪せかかっている。それは目に見えるものではなく、言葉にし難いものだが、それらを取り戻すには、或いはもう遅いかもしれない。

 それでも、惟之は最後まで諦めたくない。こうして、川上のような賛同者が周囲にいるうちに、陸軍の性根を叩きなおすつもりでいる。
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