大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第拾壱話

 上官が上座に戻るのを潮に、もと居た席へ戻って、同期で友人の少佐たちと砕けた調子で話をしつつ、和胤は半ば他人事のようにそのやりとりを眺めていたが、突如始まった鬼ごっこに目を丸くした。

 ああ、やっぱり始まったな、などと、まわりはすっかり野次馬を決め込んでいる。

 「貴様、杉閣下の副官だから、おれたちと野次馬しとったらまずいんじゃないのか」

 赴任初日にこんな騒動に巻き込まれた同期を、半ば励ましつつ、半ば同情の意をこめて、隣の参謀少佐が和胤の背を勢いよく叩いた。

 「こんならァ、おれを殺す気かっ。こりゃァ、分が悪いのう。いけんなあ、山口ィ。逃げるか足止めするか何とかせえ。おれがつかまったら副官のおぬしもふとん蒸しじゃ」

 惟之はといえば、副官を顧みる余裕もない。まさに脱兎の如く座敷中を狭しと駆け、危うく膳や銚子をひっくり返しそうになりながら、それこそ鬼の形相で追いかけてくる、恩田大佐から逃げ回っている。

 鬼ごっこが四周目を数えたとき、恩田が手を伸ばせば惟之の襟を掴める距離にまで縮まり、窮地に陥った。和胤はその危機を察知し、豪傑で鳴らした恩田大佐の前へするりと割り込み、気のいい酔漢と化している大佐を、柔道の投げ技を応用して、なるだけ穏便に足払いを掛けて座布団のうえへからだを落とした。

 「杉閣下の助勢を致したいなら、今ですよ。この鬼を懲らしめてやってください」

 そうしてこの座興は、美妓らの手によって継がれ、恩田大佐は世にも羨ましい捕虜の身となった。その様子を、惟之は逃げこんで盾にした屏風の上から顔を覗かせて見物する。投げ技が鮮やかに決まって、芝居の見せ場を観たようなおもいで無邪気に手を叩いたまではいい。が―

 「あっ、恩田のやつ。ちゃっかり白藤の膝を枕にしちょる」

 ふとん蒸しなどという、下手をすれば失神しかねない仕打ちを思えば、安い代償だろう。しかし、あれなら、おれが鬼になりとうわい。と、麗しい芸妓らに囚われてまんざらでもない様子の鬼を、複雑な表情で見つつ、内心で呟く。

 敵に陣地を占拠されるとは、なんたることか。とお気に入りの芸妓、白藤へ微かな嫉妬と叱りを、甘さを多分に含めた眼差しで伝えてみせる。

 「―いやいや、今回は危なかったな。山口のおかげで何とか逃げ切ったっちゃ。しかし、おれの悪戯なんぞは、いつも可愛いもんじゃっちゅうに、おぬしらときたら。段々と洒落にならん仕打ちになりようる」

 惟之はまだ屏風を盾にしたまま、その上から顔を半ばだけ出して、鬼とその手先たちを睨みつける。警戒心丸出しである。

 余興代わりに一度くらい、大人しく捕まってもいいのに、捕まってくださらないから此方も手を抜きません。と、若い部下たちが口々に言う。

 「馬鹿かァ。おぬしらが何をするかわかったものじゃないちゅうに、おっかのうて今さらそんな真似ぁできんわい」

 そう、屏風の龍が吼えた。

 まさか素直に怖いと宣言されるとは、おもっていなかったらしい。若い鬼たちは堪らずどっと笑い出す。芸妓らも、鈴の鳴るような笑い声をあげている。

 その時ちょうど、柱に掛かった時計が時を報せた。

 惟之はじぶんの中で独自の規則をきめていて、何があっても夜九時には座敷を引き上げる。それに今日は、せねばならないことが残っている。

 「おっ、五ツ半か」

 江戸のころのくせが出て、つい、時刻を口にのせる。

 屏風のうしろから姿を現すなり、衣桁に掛けられている羽織を外すと手早く纏う。主催が居なくなろうとも、この賑わいは冷めない。惟之の性格から、宴席を冷ますようなことは勿論、見送りもさせない。

 「あとは、みんなで宜しくやってくれ。酒はいくらでもあるから、遠慮いらんぞ」

 言って快活に笑い声をたてつつ、座敷を横切りざまに、わざと恩田の脇腹を軽く蹴っとばしてやる。かれはまだ白藤の膝に憩ったまま、離れる気配がない。長いつきあいだけに恩田も、この白藤が惟之のお気に入りだということは重々承知の上だ。

 へへっ、と恩田から小憎らしい笑みを向けられるが、そこに嫌味はない。かれの人柄とでもいうのか、不思議と腹が立たない。座敷を出る間際、ぴたりと足を止めて、頼れる律義な副官へ顔を向けた。

 「山口、明朝は隅田川まで迎えに来んでええよ。但し、参謀本部まで“丁重”に送ってくれりゃァのはなしだが」

 首をかしげてにやっと笑み、意味ありげに目配せをして言う。

 副官と廊下で交わした言葉を思い出し、とっさに悪戯をおもいついだのだ。くるりと芸妓らを振り返り、ふたつの丸い瞳に憂色をうかべて、心底から悲しい顔をしてみせる。

 「こりゃ、大和撫子たちや。そこな捕虜を労るのは、国際法に則り大変よろしいが、おぬしら、肝心の勝った大将の祝賀を忘れちょる。おれァ寂しゅうてかなわん」

 副官が傍に立ったのをしおに、腰に緩く腕を回して、甘えかかるようにかれへ身を寄せた。構ってやればよかったと後悔をさせるように、彼女らの庇護意識を刺激するような仕草で、惟之は副官の胸へ頭をつける。

 「寂しいけぇ、今夜は山口に慰めてもらうっちゃ。危ないところを助けられて、ごっぽう惚れてしもうたけえのぅ」

 そうして切なげに言ってのける。
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| 変わらぬ青空のしたで・11―20話 | 13:25 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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