大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  或いは終わりと始まり・第漆話

 桜並木をあるいた日から、今日で五日が過ぎていた。

 あの一件について責任を取れ、とは一体どのようなものなのか、皆目見当がつかないでいる。惟之がいつ何を告げてくるかもわからない。だからそれまでは自身が幾らあたまを悩ませても無駄であるという結論に、和胤はひと晩で達した。それ以来、覚悟だけは決めていても、考えることは止している。

 何も千代のことを、どうでもよいと考えていたわけでは無論ない。しかし、和胤は今や参謀本部と陸軍大学校をまたに掛け、多忙な日々を送っているのだ。今は、そちらへ神経を傾けねばならぬときなのである。

 自邸に執務を持ち込むなと惟之には言っておきながら、自分は大学校の課題や何かを拵えるのに、量は少ないが毎日持ち帰ってきている。


 万事がうまくゆくと思える流れを、思い立ったが吉日、とばかりに驚くべきはやさでつくりあげて、惟之は小躍りしたいのを堪えつつ、しおらしく謹慎している和胤の私室を訪れた。

 扉を叩く音に、和胤が出ていって開けると、そこに惟之が相変わらず怖い目つきでいた。まだ怒っているのだろう。他でもない千代のことだから、無理もない。と、和胤は内心で溜息を吐く。

 幾ら教育上は放任主義といえ、これまで惟之が千代をぞんざいに扱ったことなど一度もない。送り迎えの俥は言うに及ばず、仔細に気遣っている。それこそ実の娘同然に愛しているから、いわば和胤の失態は、惟之の掌中の珠を瑕つけたことになるであろう。

 小綺麗な部屋へ入ると、惟之はちらりと机へ目を向け、広げられたままのそれらの資料を見てとる。内心では軍務に精励している様にふかく感心していたが、不機嫌な顔つきのままで長椅子へ腰をおろした。

 畏まってその前に立った和胤を、だまって睨みつける。沈んだ面持ちであるが、何を告げられても受け止めるという風な、覚悟のある顔をしている。ここにきて初めて惟之は自身の仕掛けた悪戯に、ちくりと後ろめたいものが浮くのを感じた。

 「和胤、よう聞け」

 「はい」

 「日曜の朝、大事な話をせるけぇ。早う起きて居間で待っちょれ。そうじゃな…、それまでは普段通り過ごしてよろしい」

 「…はい」

 いきなりの話に戸惑いが先立ったが、質問などは一切許さないといった口調に、和胤はただ一言、このように返答するほかない。

 惟之の腹積もりとしては、日曜の早朝にふたりきりで居るあいだに、全て打ち明けてしまうつもりでいる。ただ、和胤の逃げ場をなくした状況で告げるだけあって、真相を知ったらどんな顔をされるだろう、と今更ながらにおもいもする。

 その日がやってくるあいだに、千代は川上の邸へ移って、さまざまな支度にかかっていた。叔父の惟之に言われるまま、おとなしく従っているが、それでも戸惑いと不安が消えていない。あれ以来、和胤と一度も顔を合わせていないのだ。

 憂いた顔をしているのを、川上夫人から聞いているのだろう。ときどき、邸の主人である川上がたずねてきて、障子越しにやさしくことばを掛けてくれる。千代が、”川上のおじさま”や”吉田のおじさま”と呼んでいる、惟之と親しい人々とは杉邸にあずけられた頃からよく知っている。この気遣いのおかげで、千代はだんだんと心が休まって、和胤を待つ気持ちが、いつしか揺らがなくなっていった。


 一方の和胤の様子はといえば、土曜日の夕刻にもなると落ち着かなくなり始め、自室で兵法の書物をひらいて、その傍らで書面に万年筆をはしらせる手が、よく止まってしまっている。

 なにしろ普段どおり過ごしてよいと、許しが出たものの、千代は杉邸から居なくなっているし、惟之は頻りに忙しく立ち回っているしで、まったく取り付くしまがない。しかもこの邸から帝国大学に通っていた考一は、先輩の薦めということでつい一昨日か、大学から近い閑静な湯島にあるという学生寮へはいったという。

 猫の目のように変わる状況に、和胤は一人取り残されたかたちになっていた。

 そんななかで言われた日曜日が訪れ、昨晩はあまり眠れず、早朝どころか、夜明け前にもう階下へおりていった。改まった話がある、と言われていただけに、きちんとした格好のほうがよかろう、と和胤は考えを巡らせ、結局は通常の軍服に飾緒を吊ったすがたでいる。

 室内は暗く、瓦斯ランプを灯して部屋に吊ると窓をあけて、空を眺めた。春の星空が、群青に染まっている。

 「和胤」

 暫く色の移りゆく空を眺めていると、突然うしろから呼ばれた。体ごとそちらに向きなおる。

 「惟之さん…」

 部屋を包む薄明かりのむこう、開いた扉の前に陸軍中将の正装を身につけた惟之が立っていた。勲一等旭日大綬章の綬から、金鵄勲章の細綬、胸に記章まで吊っている。宮城に伺候するか、他に何か大事なことがないかぎり、正装を着ることはまずない。

 惟之は僅かに眉を引き締め、その目に強い光を宿して、部屋の中へ歩み寄った。佩剣の柄に手を置き、佇む。その前に窓を離れて、部屋の真ん中で姿勢を正して立っている。惟之と対峙すると共に、挙手の礼をとる。夜明け前に現れた惟之に、和胤は動揺していたが、この瞬間、改めて覚悟が決まった。

 「のう、和胤…。今まで、おれをよう支えてきてくれたな。おれは、おぬしに愛されちょるのをええことに、ずっとおぬしを独占しておった。それが当然のように、何もかもおれの好きなようにしてきた」

 切り出した惟之のことばは、正直に言って意外なものだった。もっと激烈な調子で叱られるか、下手をすれば邸から追い出されるのでは、とおもっていたのだ。それをつとめて表情に出さぬようにして、神妙に聞き入った。

 「ここまでずっと、おれの悪戯に振り回されて、我儘を諾いて、面倒をみてきたおぬしじゃ。…のう、これはの、おれの最後の悪戯なんじゃ。和胤、おぬしゃずっとおれのために、これまで山ほどあった縁談をことわってきたじゃろ。じゃけぇ、おれは敢えてそこにつけ込むことにしたんじゃ。あの日、そう決めてな。じゃけぇ、和胤、千代を嫁に貰え」

 まさかこのような大事なことを、悪戯の種にしてしまうとは、和胤も考えが及ばなかった。だが、それについて呆れたり腹をたてたりといった感情は沸いてこなかった。むしろ、感謝さえしていた。

 思い返してみれば、惟之が縁談について触れたことが、一度だけあった。いつもの軽口だったが、きっとあれが惟之にとって精一杯だったのだろう。

 だからといって千代の気持ちも、惟之の考えも、なかなか訊けるものではなく、自身の忙しさにも押されて、この新しい家族での暮らしに凭れてあたたまっていたのだった。

 ややあって和胤は、ひっそりと息を押し殺して吐き、ほんの僅か瞼を伏せたのち、また視線を戻した。嬉しさと驚きとが相まって、何と言ったらよいのか、ことばが出てこない。目の前にいる惟之の手が、強く佩剣の柄を握るのがわかった。二重瞼に縁取られたまるい瞳で、じっと和胤を見上げている。まっすぐな澄んだなかにも、ほんの少し、憂いが見え隠れしている。それが和胤にはいじらしくて仕方がない。

 「…さすがのおぬしも、これは諾けんよなぁ。おれもやりすぎたとおもっちょるけぇのう。じゃけぇ、今後はおれのために縁談を断るようなまねはせるな。もう、ええんじゃ…」

 惟之はしかし、悪戯の負い目があるだけにその沈黙の意味を酌むこともできず、ただただ、居心地のわるさに耐えられなくなった。俯き、ふっと肩をおとした惟之の華奢な身を、和胤はやさしく抱きしめた。

 「こがいな大事なことを、悪戯にせるとは怪しからんですよ…」

 千代も和胤も、近年までまるで現世を顧みず、世捨て人のような心境で生きてきた惟之のこれからを、何より心配している。ふたりの思考は、殆ど惟之の為にあるといってもいいくらいで、いつしか互いを憎からずおもうようになったその気持ちも、或いはそこから来ているのかもしれなかった。

 くちには出さずとも、もしふたりが結ばれたとしたら、どんなにか惟之が喜ぶことか、と和胤は一度ならず考えたことがあった。それを耳許でそっと打ち明けられると、惟之はこどものように和胤へしがみついて、涙を滲ませた。
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