大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  或いは終わりと始まり・第参話

 忙しい合間を縫って、惟之は陸軍士官学校と陸軍大学校へ足を運んだ。軍の中枢を担う将官、そして参謀たる者が育つ場所であるから、是非にも様子をみておきたかったのだ。

 教育の分野にはくびを突っ込んだことはなかったが、常々気に掛けていたことは確かである。各地の視察にまわって、士官の教育に対する自身の意図を隠さずに伝えていった。

 やや不安を覚えたのは、どの場所でもそうだったが、教官も生徒も軍拡について熱心である点、まことに無邪気に問うてくる始末で、惟之は馬鹿者、と怒鳴りつけたいのを堪えて辛抱強く、いま必要なのは強兵より富国であることを説いた。それには教育が重要だというのが指針であり、視察に同行した和胤は、惟之のこの言葉にもっともである、と心中で幾度も頷いていた。

 しばしの旅を終えて参謀本部へ戻ったが、惟之はどこかまだ考える部分があるらしく、その後も幾日か物思いに耽っている。和胤はそれを見守りつつ、副官のつとめを果たすため、職務に励んでいる。

 本部をから帰ってきて自邸にいるとき、これはあくまでもここだけの話じゃ、といって惟之はさりげなく和胤へ、考え抜いた答えのようなものをむけてきた。それは、今の第一部第二課の職務を継続しつつ、陸軍大学校の教壇に和胤を立たせたいというものであった。

 いまの和胤であれば充分に、生徒へそもそもの軍人とは何かという、大切なことがらをも含めて、教えることができるだろうというのが、惟之の期待であり、のぞみでもあった。

 そして惟之は惟之で、陸軍大学校の校長を、参謀総長と兼任でつとめるつもりでいる。自分はともかく、これ以上軍務に追われては、その身が持たぬだろうに、と和胤は杉邸に居て、軍服を脱いでいるのをいいことに、惟之への労りと心配のいろを隠さずにみせる。

 「ここだけのはなし、と言ってもどうせ惟之さんのことです、もうそうせる積もりでおるんでしょう。確かに、これはせねばならんことですが…惟之さんが陸大校長を務めずとも、ええとおもいます。今度もし倒れたら、どうなるかわからんちゅうに…。大学校校長の件について、おれは断固、頷きませんよ」

確かに、成そうとしているのは立派なことである。しかしどこか、自棄というのとはまた違うが、こうなったらとことんやれることをやって、それからさっさと引っこんでやる、と開き直っているところが否めないだけに、和胤は素直に頷く気になれないでいる。

 和胤の心配をよそに、惟之は参謀総長と陸軍大学校の校長を兼任することにした。

 このようにして、まずは教育からと陸軍の改革に着手したが、周囲からは賛否両論であった。そして満州の問題も含めて、軍部も政府も外へばかり目がゆこうとするのは、もはや止めようがなく、惟之の心中は一層重く塞がれようとしていた。

 こうして過ぎる明治四十三年、惟之にとっての春はまことに遅く訪れた。

 静けさ―というよりは惟之と和胤以外誰も居ない、一抹の寂しさが漂う杉邸に、姪の千代と甥の孝一がひょっこり帰ってきた。姪は女学校へ通っており、横浜から学舎が帝都へ移転するのを、甥は晴れて東京帝国大学へ入学するのを折に、示し合わせて叔父の邸へ戻ることにしたのである。

 桜が咲き初めるころ、毎年催している“桜の宴”は例年と違ってほんのささやかな、あたたかなものだった。
我が子同然のふたりが、またこうして傍に居てくれることは、いまの惟之には何よりの救いである。

 正式に叔父から和胤が養嗣子となる報せを受けていたが、こうして杉家の一員になっている和胤と、改めて顔を合わせることになったふたりだが、特に孝一はどこか照れながらも親しみのある、“カズニイサン”が遠慮のない間柄になったのを、屈託なく喜んでいる。

 うらうらと陽の照る庭先へ、和胤と孝一とで紫檀の椅子と机を運び出して、あとは頼んだ料理と、いくらかの郷土料理を自分たちで拵えて、それを味わいながら桜を愛でている。孝一は和胤から独逸駐在だったときの話を頻りに聞きたがり、まるで和胤を独占されてしまっているから、千代はすこし寂しそうにして、叔父の隣で桃の節句の雛のように行儀良く座っているだけだ。

 さて、野点をしようということになり、惟之は千代を促して一緒に茶道具を取りに行った。あまり物を持ちたがらぬうえに、整理整頓がゆき届いているから、目的の物はすぐに取り出せる。桐の箱をあけて中を確かめながら、惟之は千代の横顔を見つめた。

 「のう、千代や」

 「はい、叔父さま」

 姪の年頃らしい憂いが浮いた表情だけで、もはや訊くまでもないことだが、惟之は確かめるように言葉をついだ。

 「千代は、和胤を好いちょるんじゃろう」

 「…叔父さま」

 すっかり乙女らしくなった千代は、いきなり核心をつく惟之のことばに、ただ頬を染めて俯くしかなかった。

 十になるかならぬか、そのくらいの年齢に郷里を出て、惟之のもとへ預けられた。養育預かり、と言っておきながらほとんど放任に近く、兄の孝一ともども、国の大事に奔走する叔父を仰ぎ見ながら、自身を律することはもちろん、残されたふたりで健気に杉邸を守ってきた。

 親子ではないが、この血縁は奇妙な絆で繋がっている。惟之が過労のあまり危うく倒れかけたとき、三人を繋ぐ輪はなお一層堅固なものとなったが、そこに和胤がやってきて、しっくりとその輪に溶け込んだ。

 始めは副官として、のちにはまるで惟之の弟か息子のように。ふたりが代えがたい仲であるのを、千代も孝一も、改めて言われずとも承知していた。

 それに五年前みじかい間だったが共に暮らしたときに触れた、あの和胤のなんとも言えぬおおらかな温かさが、いつまでも千代は忘れられなかった。それはふしぎな淡いおもいとなって、いまも胸をあたためている。
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