大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第拾陸話

 静まり返った室内に、遠くから響く蝉の声と、心地よい潮風が時折吹いてくるほかは、まったく穏やかであった。

 枕もとへ腰をおろすと、時々髪や頬へ指で触れて、擽るように撫でてやる。微かな寝息をたてる唇を指でなぞり、盗まずにはおれず、一度だけ啄ばんだ。

 寝顔をみつめて、竹で拵えたなかなか優美なつくりの団扇で、ゆっくりと風を仰いでやるうちに、半刻ほど経ったか、副官は身じろいで目を覚ました。

 「あァ…ごめんなさい…、眠ってしまいました」

 鷲頭と加藤のために、夜を徹して釣りをしてきたというのに、悪いことをして叱られるのを、予期しているような顔をしている。

 「なぜ謝るんだ。きみが寝ずに海へ出ていたことくらい、わかっている」

 「でも、今日は―」

 「私たちのことは気にせず、眠りなさい。加藤ならいま、すこし散歩へでているから…」

 継ぐことばを、口づけて遮り、僅かに離して言うと、今度は深い接吻へ移した。滑らかな舌の縁と裏を余さず捕らえて、上顎の裏側も擽った。

 「ん…ッ」

 寡黙な口許がこうして語りかけてくるとき、嵩利は応える術もなく、ただ受け入れるだけだ。何もかも心得ている、鷲頭の“ことば”は嵩利にとって絶対である。

 「もぅ、艦長。狡いべな…」

 最後に唇を吸って離れると、嵩利はふわりと浮いたような感覚にとらわれて、半眼の眠たげな―或いは甘さに酔った―まなざしを上官へ向ける。静かな視線を注いでくる顔と、もういつもの滅多に開かぬ厳しい口許へ戻っている唇をちらりと見上げた。

 「何をいまさら。だが寝込みを襲うような真似はせん、安心しろ。…きみは、少なくともあと一刻は眠るべきだぞ。さあ、お休み」

 冗談で言ったのか、鷲頭のことばに、瞼をとじた嵩利は唇を半弧にして微笑み、そのまま眠りに就いた。


 「康幸のやつ、どこまで行ったんだ…」

 出て行って一刻が経ったが、まだ帰ってくる気配がない。しかも、午後になって風向きが変わり、鷲頭はすこし眉を顰めた。水平線にくっきりと、入道雲が沸き立ってきている。

 「ひと雨くるな、これは」

 南側の雨戸を半ばだけ締めにいって、庭先から続く石の階段を覗いてみる。しだや草の騒ぐ音もなく、加藤がいつ戻るのか告げてくれるものは何もなかった。

 「まだ、お帰りにならないのですか?」

 縁側で空模様を窺いつつ、庭に咲く名も知らぬちいさな野の草花が風にゆれるのを眺めていると、不意にうしろから声がした。まだすこし眠たげな声音だが、その顔から眠気は掻き消えている。鷲頭は手をとって引き寄せ、副官を隣へ座らせた。

 「加藤艦長は、どこへ行かれるか、仰っていました?」

 「気になる社が近くにあるから、と言っていたが…。何処か心当たりはないか」

 「ありますよ。―多分行くとしたら、あそこしかないです。行ってみませんか?」

 「よし、それならば行こう」

 夕立ちがくるまえに、とふたりは慌しく丘をおりていって、嵩利に導かれるままに海沿いの道をあるいた。小動岬のほうにその社はあった。明治までは八王子社と呼ばれていた、小動神社である。

 「たぶん、浄泉寺のご住職につかまっているとおもいますよ。ここの別当もなさっているんです」

 神仏分離があったとはいえ、なかなかそう都合よくいくものではないらしい。社務所を覗くと、奥の間に住職と加藤が対座していた。嵩利は住職と顔馴染みである。訪ねてきたのが嬉しいらしく、ものやわらかな笑顔で出迎えられた。

 「さあさあ、お上がりなさい」

 「迎えに来たのか、すまんな。いまちょうど、ご住職がこの社の謂れを、お話してくださるそうだ」

 鎌倉時代から続く謂れを語られ、話が江戸時代にさしかかる。

 ―ある日のこと。台風により社の御神体である、建速須佐之男命とその御子―八王子―のうち、男神五柱の神が海へ流されてしまった。

 江ノ島の漁師が、海へ潜った際に御神体を海の底で見つけ、八坂神社という社を建てて神を御祀りした。それ以来、この腰越の小動には三柱の女神が、江ノ島の八坂には五柱の男神が、それぞれ祀られることとなり、年に一度行われる祭は、その別たれた女神と男神が巡り逢う、逢瀬の時なのだという。

 「なんとも、艶めかしいはなしですなあ」

 この敷島におわす神々は、天からの悪戯か時にこうした愛のかたちを降らしめてみせる。それに触れた人々は神や生まれ育った土地、歴史へと想いをめぐらせ、いつくしむのである。

 「千早の坊は、江ノ島が生まれじゃ。男神さまをしっかりお連れしてくれんとのう、わしら皆で待っとるよ」

 「はあい」

 「そうか、では私もこちら側で見物がてら、待つとしようかな」

 さらりと鷲頭が言ったことばに、嵩利は不満げな顔を向けるが、刹那向けられた、目配せの意味を悟る。それをごまかすように、八坂の御神輿、出るとこ見なきゃ損するのにナ、と―これは、事実そうなのだが―ぶつぶつ文句を呟いた。

 「ご住職、すっかり長居をしてしまいました。もういい加減にお暇せねば…、今日はひと雨きますよ」

 それから社へ立ち寄って拝し、岬から海を眺めてみれば、もうすっかり重々しくなった入道雲が広がりつつあった。
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| 綿津見の波の色は・11―20話 | 15:17 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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