大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第弐話

 楚々と居間へ歩を進めると、母が計ったように―実際そうなのだが―父を呼んでしまい、

 「今日は倅が釣ってきた魚がありますから、刺身にしてあとでお持ち致しましょう」

 などと言って、入れ替わりに居なくなる。途端に、嵩利は身をかたくして、腕白小僧から“名士候補”の海大生に戻って、鷲頭の前でかしこまった。

 「休暇中に突然訪ねて済まない、驚かせたな」

 潮風に揉まれた海の男独特の、錆のあるような深い声で、鷲頭は言った。声音は穏やかでいつもと変わりない。ほんの微かだが、その口許から厳しさがやわらいで、たったそれだけなのに、嵩利は喜びが湧くのを隠せなかった。

 何でも小田原へ所用があって、行ったその帰りだということで、江ノ島が見えてきたときに、嵩利のことを思いだしたらしい。

 「きみの釣ってくる小魚で拵えたかき揚げほど旨い天麩羅は、いまだ江戸前と言われる、あの帝都でも喰ったことがない」

 そう言って、あるかなきかの笑みを浮かべるも、すぐに眼つきを鋭くし、

 「お父上から聞いた話では、この休暇中度々、横須賀や横浜へ足を運んでいるらしいな。感心なことだが、以降、成績が一つでも落ちたら、きみから釣り竿を取り上げてしまうつもりだ。しっかりやり給えよ」

 脅しとも、励ましともとれることばを継ぐ。それからじっと、端座している嵩利のすがたをみつめた。このすこし風変わりな生徒は、教官のあいだでは頗る評判がよろしくない。が、かれらのような凝り固まりがちの、典型的な官僚軍人がきらいな鷲頭は、人間的な面白みのある嵩利が気に入っている。

 天衣無縫ということばがぴったりである。これほどありのまま、自身を見せられる者はそう居まい。うまく導いてやりさえすれば、器のあるいい将官になれるに違いない。

 「―私は来年、日進の艦長へ戻る。だが、副官はおそらく…期限いっぱいまで決まらないだろう。どうも私が苦手らしくてな。誰もが部下になるのに、気が進まぬらしい」

 と、表情を変えずに言う。鷲頭としては、要するに“生け贄”のような人材が、トボトボやってくるのを待つより、じぶんで目に適った者を引っこ抜きたかった。

 「どうだろう、きみ。私のところへ来ないか」

 ははあ、小田原から所用で云々といっていたが、こりゃァただの口実だったな、と教官の行動に微笑ましささえ感じて、嵩利は口許が綻ばぬように堪えた。

 そのオッカナイ顔のうしろで、何を考えているのか伺えないが、やはりどこか、純朴なあたたかさが滲み出ている気がした。

 笑みが零れぬよう、嵩利が態と顰めッ面をしているのを勘違いしたらしく、俄かに落胆を滲ませつつ、すこし顔を背けて、微かに息を吐く。その仕草にどうにも、嵩利は笑みを堪えきれなくなってしまい、屈託のない笑顔をパッと咲かせた。

 「ぼくでいいのでしたら、お供させてください」

 驚いて見てみれば、白い歯を覗かせて、にこにこ笑っている。それもどこか気恥ずかしげに、である。今度は鷲頭が不審げに眉を寄せた。だが、かれが取り繕ってこんな笑顔を向けることをしないのは、良く知っている。本心なのかと訊くまでもない。

 「そうか、来てくれるか」

 「はい」

 およそ、軍艦―日進は装甲巡洋艦だが―に乗組む者に似つかわしくない、あっけらかんとした返事であった。しかも、艦長付ということは、艦内の様々な所へ行かされるわけで、はっきり言って激務である。

 だが、かれなら何と言うこともなく、こなせてしまいそうである。嬉しくもあり、頼もしくおもったが、そんなものは一切見せない。

 「では、残りの大学校の期間は、心して掛かることだな」

 役に立たぬと分かったなら、間違いなく舷から海に叩き落とすぞ、と言いたげなまなざしである。否、それどころか艦に足を踏み入れさせさえしないだろう。

 「はい、教官から毎日、望遠鏡で見られているつもりでいます」

 そう言っても笑みは消えず、失礼します、と言って座を立って襖をそっと開け、廊下へ出ると、片膝立ちに腰をおとして鷲頭へ向き直る。またかしこまって、

 「教官、せっかく訪ねてくださったんですから、今夜は泊まっていってください」

 敷居のまえで手をついて頭をさげるなり、朝顔のような笑顔をみせて、静かに襖を閉めて出ていってしまった。鷲頭は未だ何も返事をしていないが、もう嵩利はそのつもりでいる。いくら教官だとて、休暇はあるだろう。それに、今夜は丁度、江ノ島で花火があがるのだ。是非観ていってもらわねば、千早家―“片瀬の旅籠”―の名が廃るというものだ。

 ―明日は帰るって言うだろうから、送りがてらに八幡宮を参って、あとは豊島屋の土産でも持たせるべな。

 と、もう勝手なことを考えている。襷をかけつつ台所へ行く途中で、父が縁側に座って煙管をふかしていた。

 「なあ、タカ」
 
 「はい、父上?」

 「あのひとは、中々できた男だなァ。しっかりお仕えするんだぞ」

 庭に咲く花と、ようやく夕色に染まりつつある空を眺めながら、それだけを言った。子煩悩な父は、この末っ子がどうにも可愛くて仕方がない。本心を言えば、命を賭する稼業である軍隊など辞めて欲しい。けれどもこうして確りやっているのを見ると、他に何も言えなくなってしまう。

 「はあい」

 父の心の内を知ってか知らずか、息子はいつもと変わらず、飾らぬ返事をする。
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| 綿津見の波の色は・1―10話 | 00:22 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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