大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰捌拾陸話

―では、行って参ります。

そう言ったときの嵩利は声の調子、物腰と出で立ちも落ち着いたものであった。しかし、堪えきれぬ微笑と喜色に満ちた両の眸は、厳しい軍帽の庇のしたでまるで木漏れ日のように瞬いていた。それを思い返し、鷲頭はひとり鎮守府の執務机の前で口許を緩める。

嵩利の居なくなった呉鎮守府長官公邸は再び静けさに包まれていたが、不思議と鷲頭の心は穏やかで満たされていた。

長門の艤装が始まってから半年が過ぎ、大正九年の三月となり、嵩利には艤装員長の肩書きのうえに“長門艦長兼”がくっついた。工廠建造の艦は殆どが試運転前になって艦長任命がおりてくるのが恒例である。

ひとまず長官公邸という“座敷牢”に預けたものの、あのまま放っておくのも一抹の不安がある、と落合工廠長たちが危惧した所為だとか、そんな冗談が飛び出しては事務室の笑い話になっていた。

真相は兎も角、これで嵩利は大手を振って長門を闊歩することの出来る身分になった。艤装が進み、艦内の居住が可能な状態になってきたので、これまで陸上勤務だった艤装員たちは、少しずつ移動をはじめていた。勿論、艤装員長も例外ではなく、艦内へ移らねばならない。

乗艦する日の朝のことを、鷲頭は思い返している。

玄関先で踵を返した嵩利の後ろ姿、外へ踏み出す足取りはあまりにも軽やかであった。久しぶりに晴れた空の下へ飛び出してゆく童のように、躊躇いも気負いもない。

九割八分は階級相応の優秀な海軍士官だが、残りの二分にはどう逆立ちしても消えぬ海の子の匂いが漂う。その“二分”があってこその伴侶とおもう鷲頭は、目を細めて嵩利の背を見送った。

艦内が整備され、艦上の檣楼に手がつきはじめる頃には、艦内も艦上も随分と活気づいて毎日慌しくなったが、明るい賑やかさが随所にみられて、工廠やドックに人が絶えることはなかった。

艤装員一行の軍務環境は、艦へ移ったあとはもう通常の艦隊勤務と同じで、上陸休暇がおりなければ陸にはあがれない。しかし、艤装、竣工、公試、就役という各期限の定められているなか。それも、ただでさえ前人未踏の新型戦艦のこと。定規で線を引いたように予定が進むことのほうが稀であった。

艦長兼艤装員長の身である嵩利が、上陸休暇のままならぬ状況になることは言われずとも端から承知していたし、一々こちらから予定を訊くこともしなかった。偶々にでも顔を合わせられればそれで良い、と鷲頭は気にも留めずに日々の軍務に就いている。

だからと言って、何時ものように意地や虚勢を張っている訳ではない。

何故なら、あの冬の日に洋館で共に過ごした夜、蕩けるような甘い時間を思い出すだけで、心はおろか足の先まで温まるような気持ちになり、充分に満たされるのを感じるからだ。

それと同時に、以前のように烈しく伴侶を求める欲求が湧かなくなっていることに思い当たり、初めのうちこそ戸惑ったが、それもすぐに安堵へと変わった。

嵩利に対して余計な思い―焦燥、苛立ち、後悔、喪失―そういった思いが齎す不安の一切から解き放たれた証であることを、鷲頭は悟ったのだ。

そして、呉に於ける鷲頭は、鎮守府長官として厳然たる軍人で在り続けている。今に至っては軍務に私生活の片鱗を漂わせることなど、先ず有り得なかった。結果として、鷲頭の心境の変化に気づく者は居らず、まして指摘する者など皆無である。

故に鷲頭は“丸くなった”己の気質を気に留めることもせず、有るか無きかの嵩利との逢瀬を気に病むこともせず、最大の憂慮から解放された反動もあってか、益々軍務に励む日々を送っている。

***

一方で、造船部長の吉井と二人三脚で長門の艤装を進めている嵩利は、周囲の予想に反して、“名士”ぶりを発揮することもなく、艦内へ居を移してからが本番とばかり任務に専念していた。

何か、こどもじみた魂胆を隠し持っている訳ではなく、純粋に長門の艤装に携われることが海軍軍人として冥利に尽きる、と思っていたからである。

毎日のようにあがってくる提案書は、たとえ幾枚にも及んだとしても全てに目を通していたし、検討を重ねるべきものに関しては加筆や再計算を施したうえで必ず話し合いの席に出した。

そうした事柄を漏らさず逐一、計画の隙間に織り込んでゆくのもお手の物、という風になり、長門でも頼れる存在になってきた頃には、もう初夏になろうとしていた。

「鷲頭くん、そろそろ、お父上に顔を見せに行ったらどうだい?」

様々な案が折り重なり、長門の檣楼は櫓を組むような形になって、これまでの艦の檣楼と全く違う構造になろう、という所まで話が進んだとき、吉井は嵩利の肩を叩きながら、さり気なく提案した。

丁度、上甲板の士官室での会議が終わり、解散となった時だった。かなり細かい部分で皆の意見が一致した所でもあり、言うのは今しかないと、吉井は嵩利の肩に手を置いたまま、隣の椅子に腰掛けた。

もとより、否応なしに長門から連れ出して上陸させる積もりでいる。

吉井が今になって言うのには理由がある。嵩利と同じく吉井も、艦内に入ってからは指折り数える程しか上陸休暇を取っていないからだ。それも、上陸したとしても殆どが工廠のあちこちを訪ねては、装備の変更や要望を打診しに回るという有様で、嵩利の軍務に対する身の入れようには目を瞑らざるを得ない状況だった。

「忙しいのはお互いさまだから、これまで言わなかったんだ。きみが陸にあがってくれないと、ぼくも親孝行し損ねかねない」

入船山の長官公邸を出たときは濃紺の軍装だったのに、いつの間にか夏の白い軍装を身につけている―。嵩利は吉井の言葉よりも寧ろ、そのことに気がついて、会議録の書類綴りから顔をあげた。

「夕刻までに上陸の支度をして、舷門に来いよ」

「まさか、今日ですか?」

そうだ、と言う声と同時に、目の前から会議録を取り上げられ、黒表紙を閉じられるのを視線で追うと、吉井の眼と合った。その眼に有無を言わせぬものを認めて、嵩利はそれ以上は問うまいと口を閉じた。

外のことには殆ど関心を払わずに過ごしていることに思いあたる。朝から晩までこの艦のことばかり考えていた。頭を埋め尽くしていたものが突如、空っぽになったも同然で、嵩利は艦長寝室に入った途端に暫し呆然とする。

―前触れもなしに帰ったら…春美さん、怒るだろうな。

これまでそんな真似は一度もしたことがない。

それから急に、大した距離でもないのだということを思い出し、途轍もなく離れていたように感じていたことが奇妙に思えて、少し可笑しくなった。工廠を出て、公邸への緩やかな丘を登るまで、ほんの僅かなのだ。

怒る怒らぬもない、と笑みに緩む口許を手で覆ったが、暫くは消えてくれそうになかった。

指先が鼻下を掠めたとき、薄くたてた口髭に触れた。

長門に篭るようになってから少し経って、何となくたててみたのだが、似合わぬ、と嵩利本人が大いに戸惑った。しかし、嵩利を囲む面々からは、漸く髭が合う面構えになってきたな、と言われ、半信半疑でいたが、そのうち慣れて剃り落とすのを止めた。

少々箔のついた様子になった己を、鷲頭がどんな顔をして見るだろうかと、ちょっとした悪戯を仕掛けるような気分になりつつ、鷲頭の隆い鼻の下に揃うそれへ触れるのを想像しながらもう一度撫でてみると、思いの外、甘やかなものに包まれた欲求がゆるりと転がり、心のなかを混ぜる。

鷲頭への想いは、敢えて意識して蓋をしていたわけでも、態と見てみぬ振りをしていたわけでもないと思っていたが、違った。

いま、僅かにうごいた欲求が混ぜたものは、紛れもない愛情と恋慕でありながら、鷲頭を溺れさせるに充分過ぎる程蓄えた、蕩けるような妖花の蜜である。かれの渇きを潤す為に捧げるような性質のものではない。それは、すこしうごいただけでも火で炙られたような衝動を生む。それを抑えつけてきていたことに、嵩利はいま気がついた。

―嗚呼、そうか。…うん、いいよな、偶には。

そんなものを抱えながらも、嵩利は何食わぬ顔をして、何時もの軽い身ごなしで長門をおりた。
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| 綿津見の波の色は・最新話 | 18:44 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

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