大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰陸拾玖話

秋の陽はつるべ落とし。夕陽の色と夜の帳が交差するころには、そちこちの草の中から虫の声がきこえてくる。長く穏やかな夜が鷲頭邸を包んでゆく。

暮れゆく空を眺めて、いつ伴侶の顔をみられるかと気を揉んでいたのは、嵩利だけではない。

横須賀に帰港したとき、鷲頭はざっと、青山の自宅の門をくぐるまでを考えたが、そこに至るまでの時間がおそろしく長く思えた。鷲頭は艦隊司令長官、新見は横鎮長官である。少将のころのように、己の身辺が片付いたらフイっと姿をくらます、というような真似はできない。

あれこれと瑣事を済ませ、鎮守府を出てから新見とふたりになり、帝都へ向かう列車のなかで顔をあわせて、やっと肩の荷がおりた、というようなため息と共に、どこか擽ったい笑みを互いに浮かべたのだった。

嵩利が渡英したあとも、鷲頭はそのまま海上に居て、旗艦の長官室で変わらぬ日々を送っていた。ただ少し、以前よりも気楽さはなくなって、嵩利からの便りで、日本に居ながらにして英国や諸国の事情を垣間見ることができ、独り黙然と思案することも多かった。

一方、来年横須賀へ所属となる新型戦艦とその後に改められる体制についてかかりきりで、新見は横須賀鎮守府、那智は霞ヶ関の海軍省で忙殺されており、この二人も今日この日まで、まったく顔をあわせていない。


ふたりとも元来無口だから、品川駅で別れるまで殆ど言葉は交わさなかったが、大切な人のもとに帰るのだという意識は同じだったし、海軍将官の身形のままでも滲み出る、緩やかな安堵感のようなものを隠そうともしなかった。

渋谷駅から、青山までの道すがら、空はすっかり暗くなって星がみえていたが、もう鷲頭の心中には急いて帰ろうという気持ちはなく、それを認めながらも自邸の門がみえるまで悠長な歩みをすすめた。

門扉をくぐって、玄関先に灯ったあかりがみえた。玄関とそこに続く敷石と、前庭の近くまで光の輪で満たされているのを認め、鷲頭はちいさく息を吐くとその場に立ち止まった。

携えてきたのは使い慣れた革のトランクひとつで、久しぶりの上陸という割には気軽なものだったが、肩の力を抜いてみるとそれを持つのすら億劫に思えてくる。

そろりと玄関の戸を開けて、沓脱ぎ石のところに立ってみても、廊下はしんとしている。

「ん、何だ…?」

居間へ続く廊下の途中に設えてある電話台に目が留まる。そこには書籍が一冊、無造作に置かれている。幾つも付箋の挟まったそれをざっと捲ってみる。付箋の几帳面な字は嵩利の筆跡である。

すぐそばの居間へ入って灯りをともしてみれば、同じような洋書やら、地図などが点々と置きっぱなしになっている。

―寝ても覚めても、長門のことばかりのようだな。

と、おおよそ見当がついて、鷲頭はそっと苦笑を漏らした。それにしても、と室内を見渡して散らかっているそれらを改めてひとつふたつと数えてみる。この有様が艦内や庁舎であったなら、雷のひとつでも落とすところだ。

そこまで思ったとき、猫のような足音がきこえてきた。耳に懐かしいそれが近づいてくると、微笑が自然と口許に浮かぶ。

「春美さん…」

背中で嵩利の声を聴いて、鷲頭は瞼をほんの少し閉じた。滲み出すこもごもの思いに温かく包まれてゆくのを感じる。

「いま、帰ったぞ」

そう言って振り向いたとき、嵩利はいつもの和服に袴すがたで、襷がけのままであった。鷲頭が手に携えている二冊の洋書を認めて、決まり悪そうに立ち尽くすのにも構わず、それらを座卓へ置くなり嵩利を抱きしめる。

「おかえり、と言ってはくれないのか?」

これ以上はない、という程のやさしい声音で囁かれて、嵩利は鷲頭の想いのこもった抱擁のなかで言葉を紡ごうとしたが、出来なかった。頷きながらその体に腕をまわしてそっと抱き返し、労わるように背を幾度も撫でるだけだった。

「嵩利」

「…うん」

「顔を見せなさい」

「うん…」

促してみても、確りと抱きついて少しも離れようとしない。いま、そこで対峙したときに認めた嵩利の顔には、確かに深慮と精悍さが増していた。英国に行って蓄えてきた力が漲っているような、そんな印象があったのだが、鷲頭の腕におさまった途端に、甘やかな愛らしい伴侶の姿に戻っている。

やっとあげた顔をつくづくと見詰めて、物言いたげな潤んだ視線を受け止める。言葉の出てこない唇をほんの軽く啄ばんで、髪と頬とを撫でてやると、漸く気持ちが落ち着いてきたらしい。

「おかえりなさい…、春美さん」

やや含羞みながら言って、またすぐに甘えかかるように抱きついてくる。こうして互いのぬくもりを確かめるだけで、これまでの離れていた距離も時間も、刹那のことであったかのように吹き飛んで消えていた。
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| 綿津見の波の色は・161―170話 | 22:54 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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