大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰陸拾伍話

のどかな春の休暇を終えた将兵を乗せて、ほんの半月ばかり館山沖での訓練をこなした榛名は、艦隊を一時離れて単艦でいそいそと横須賀軍港へ戻ってきた。嵩利はそこで、なかば放り出されるようなかっこうで、愛着をおぼえてきた艦をおりることになった。

初めて艦長を務めた艦―榛名を桟橋から振り返ってみると、つい先刻、嵩利が正しく操艦して停止させたにもかかわらず、港内の波間に僅かに揺られている榛名は、どこかツンと澄ましたようなよそよそしい横顔をこちらへ向けているようにみえた。

退艦したのは嵩利ひとりで、榛名は即日、第一艦隊と合流して駿河沖へ出発する日程であったし、半舷上陸もない寄港だったから、内火艇に乗り込むときに見送りに出てきたのは、航海の担当に就いていない士官が数名くらいだった。

それでも内火艇が艦を離れ、艦尾に翻る海軍旗と、その下にある中甲板の最後部に設えられた長官室のスタンウォークが視界におさまったとき、嵩利はそこに立つ鷲頭の姿をみた。帽をとってゆっくりと振るのにこたえ、その姿が見えなくなるまで万感のおもいをこめて答礼をおくった。

海軍省へ打診するといった嵩利の渡英は、新見が予測した通り三月も経たぬうちに実現した。一昨日の晩に、横鎮から届いたその内定を伝える電文を、鷲頭が手ずから艦長室まで届けに来て、ふたりでそのまま就寝の時刻まで語り合った。

しっかりやってこいとか、英国でどのようにして過ごすがよいとか、そういった説くような言葉を、鷲頭は一切くちに出さなかった。軍備計画に対する論文を読むことを許してから、嵩利に己の海軍軍人としての志を受け継いで貰った気でいるし、鷲頭家の家長という襷も、そろそろ手渡さなくてはならないとおもっている。

海軍の将来を見据えて歩む嵩利が、刹那でもうしろを顧みなくて良いように、鷲頭はその背を守り抜ける位置に身を置こうと心に決めていた。軍務局長、海軍次官と最も苦しい重責をおっていたとき、鷲頭の傍には常に嵩利がいてくれた。

しかし、嵩利が近い将来に将官となり、参謀長或いは再び海軍省へゆくとなったとき、鷲頭はそのとき、嵩利が常に傍へ居てくれたのと同じようにはしてやれない。だから鷲頭は鷲頭なりのやり方で、愛する伴侶を守り、支えようと考えている。

「何も心配することはない。存分に学んできなさい」

激励らしいことを言ったとすれば、このひと言だけである。


横須賀から列車に乗り込んで、嵩利は一年半ぶりに青山の鷲頭家へ帰ってきたが、いつもと様子がちがう。門をくぐると人の気配がそちこちにあった。前庭の敷石を歩いていると靴音をきいたのか、半ば開いている玄関から初老の婦人が姿をみせた。福々しい円やかな顔が、そっくり笑顔になる。城内家の家政婦、とみだった。

「まあまあ、お帰りなさいませ―坊ちゃん」

変わらぬ出迎えに、嵩利は思わず微笑をうかべた。いつもいつも、屈託なく可愛がってくれていたのが、随分懐かしく思えたからだ。渡英するまでの間、とみがまた世話をしてくれるらしい。他にも城内家から何人か訪ねてきているらしく、存外家の中が賑やかなのに驚いた。

「やあ、お帰り。鷲頭くん」

居間に入るとのんびりとした声がして、みてみれば城内であった。嵩利は一瞬、じぶんが帰った家を間違えたかと思ったほどで、城内は和服に袴をつけた姿で、自室で憩っているのと変わらぬ態度で居間の縁側に据えた安楽椅子に身をあずけて寛いでいる。

「今日帰ってくるっていうから、待っていたんだよ」

「それは、ご面倒をお掛けしました。ですが…、もう殆ど身の回りの支度だけですし、出発までひと月もありませんから―」

「きみらしくもない、水臭いこと言わないの。それに、那智くんから渡英までの間、きみのことを頼まれているんだから。放り出したら、ぼくが叱られちゃうンだからネ」

そう言われて、嵩利は上官たちの厚意に深く感謝の念を抱いた。これから出発まで殆どの時間を、海軍省や水交社、英国大使館、その他諸々の場所へ出入りして、最低限の手続きや何かに費やさねばならず、そういった煩瑣なことどもにも、きちんと配慮をしてくれているらしい。

「では…お言葉に甘えさせて頂きますので、よろしくお願いします」

「ウン、そうだよ。そう言ってくれなくちゃあ。―おっ、と。大事なことを言ってなかった。これから日本を発つまで、毎晩ぼくン家に来なさい」

「えっ」

「陸に帰ってきたきみに、いつまでも艦長室の食事を続けさせるわけにはいかないんだ。退庁したら必ず来ること。…わかったネ?」

この申し出―というよりも半ば命令に近い―は半分嬉しくはあったが、半分は困ったというのが本音だった。夜などはそれこそ、水交社で適当に食事をとったあと、あちらへ持ってゆきたい資料を纏めようかなどと思っていたのである。

嵩利の面食らった表情、次いで何か言いたげにしつつ口篭っている様子を認めて、何もかもお見通しだと言わんばかりに、城内は頷いてみせる。

「きみが勉強熱心なのは知っているヨ。発つ前に調べておきたいことがあるなら、ついでにぼくン家で済ませてしまいなさい。資料になるような書籍に困ることは、まずないからネ」

「は、はい」

城内から、じぶんの書斎にも入って構わないからとまで言われては、これはもう断れなかった。
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| 綿津見の波の色は・161―170話 | 01:02 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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