大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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千尋に届く波の音・第弐拾捌話

 八ヶ月に渡る練習艦隊の遠洋航海が終わり、候補生たちを見送って安堵しているところへ、年の瀬でもあるために乗組み全員に上陸休暇が出ることになった。

 帰港した横須賀からそれぞれ、郷里へ帰る者が大勢おり、港はごった返していた。 短艇で上陸した那智は、また共に海へ出る艦へあらかた荷物を置きっぱなしにしていて、帰郷するというのに殆どそれらしい物も持っておらず、ちょっとそこまで出かけてゆくような顔をしている。

 こういうとき江戸者は羨ましい、と郷里が遠方の兵たちが視線を送るなか、那智の後ろを暢生が同じようにして気軽な恰好で歩いて来た。

 「新見、貴様は帰らないのか?確か越前だろう、郷里は」

 つぎつぎと短艇を降りてくる水兵たちへ声を掛けつつ見送っていたが、そうして桟橋で屯していた三上たちが、不思議そうな表情をして訊いてくる。かれらへ半ば照れたような苦笑いを向けて、暢生は指さきで耳の後ろを掻いた。

 「心配を掛け通したままの身で帰ったら、何を言われるかわからないからね」

 兵学校に合格して上京する際、暢生は祖母との間で、何があろうと一片も隠さずに、偽ったことを手紙には書かない、という約束をした結果だった。

 幾度か得た病についても、病状などを手紙に逐一認めたから、帝都より遠く越前に居る祖母は、一番末の孫が心配でならないらしかった。 最近落手した手紙には、郷里に帰って小学校の教師にでもなってくれたら、というようなことが書かれていたのである。

 しかし、これを冷やかす者はいなかった。半年以上も太平洋の海に揉まれて帰ってきた暢生に、もはや弱々しい隙はなく、海軍を退くことはあり得ないだろうと、誰もが認める頼もしい顔つきになっていたからだ。

 同期生は誰も口に出さなかったが、今回の練習航海は、未完に終わっていた暢生の海軍士官としての出発点が、これで乗り越えられたのだと、認めていた。

 それと同時に、目に入れても痛くないほど可愛がられた祖母とのことだけに、おそらく中尉に進級するまで、郷里の越前へは帰らない決意であろうことも、薄々気づいていた。

 「さて、と。帰ったら雑煮と浅草詣でが待ってるぜ」

 友らと別れて艦をおりた暢生は、築地をあとにして、那智と並んで隅田川をずっと上っていった。その道すがら、江戸の名残を色濃く残している仲見世の賑わいがどんなものか、それを想像してみた。

 元日に詣でるまで、ぶらりと立ち寄ることもお預けだと言う那智は、隣で悪戯好きのする笑みを浮かべている。これから帰ったら餅つきと神棚の手入れをするというのだが、那智はそれらが楽しみらしい。

 
 深川の那智の邸へ帰るなり、

 「若、若がお帰りなすった」

 と言ってくしゃくしゃの笑顔を浮かべながら、前庭から転び出て来そうな勢いでやってきたのは、老僕の吉平であった。庭を掃き清めていた長箒を放り出さんばかりにして、ちょいと家人を呼びに行って参りますんで、と江戸者特有の口調で言って、家の裏手へ駆けてゆく。

 "若、といえば確かにそうか"

 呆れたような中にも、嬉しさを隠さないでいる那智の横顔をみてから、暢生は目の前の邸を改めて見上げた。那智の家は代々幕府の直参で、かれの父は日本海軍の前身である、幕府海軍伝習所の設立に奔走した者のひとりなのである。

 「馬鹿息子が、どんな友を連れてきたかと思えば。こりゃァなかなか大ェしたもンだ。鋭そうな面をしてやがる」

 吉平の案内で中へ通され、揃ってかれの両親へ挨拶を済ませたあと。那智の父は暢生をみて、にかっと屈託なく笑って言った。なるほどこの親にしてこの子あり、といったところで、暢生は眼を丸くした。

 「どうもなァ、親父様にゃ頭が上がらねえ」

 借りてきた猫のように畏まっていた那智は、客間へ暢生を連れてゆく途中の廊下でぼやいた。海軍では怖いもの知らずで知られているかれにも、そういうものはあるのだと知り、暢生は思わず口許を綻ばせる。

 「那智さんにも、怖いものがあるんですね」

 「けッ、当たり前ェだろ」

 照れ隠しに小突かれながらも、客間へ案内されると、暢生はもう完全に客人として扱われ、折角あれこれと那智の手伝いをする積もりでいたことを、悉く取り上げられてしまった。

 大工の心得もある吉平と一緒に、前庭で丹念に神棚の手入れをするのを、暢生は縁側へきちんと端座しつつ、饗されたおこしを齧りながら茶を啜って見学したのである。
 
 慈しむようにして白木の棚を拭っているのには、何か特別な思いがあるのだろうな、と暢生は那智の嬉しげな表情をみて思った。

 夜になって、ふたりで正月の浅草上野界隈をそぞろ歩く算段をしているとき、やはり上げ膳据え膳というのは幾らなんでもと居たたまれなくなって、せめて明日の餅つきは手伝うと申し出ると、那智は珍しく声を顰めて、

 「お前ェさんにそンなことさせたら、親父様に杵でこの頭かち割られちまわァ」

 と、真剣な顔つきで言ったのだった。

 そうして、正月に浮き立つような気分に包まれた那智家に居て、暢生は遠慮なく上官の好意に甘えて過ごすことにした。思い返せば、少尉任官からずっと緊張の連続であった。心身ともに張りつめて切れそうになっていた弓弦のようであったことを、しみじみと痛感したからである。

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| 千尋に届く波の音 | 23:44 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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