大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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千尋に届く波の音・第弐拾肆話

 「那智大尉…、十日は安静にと、吉永少監から聞かされたじゃありませんか」

 「いつまでもなァ、魚河岸の鮪みてェに寝転がっていらンねェんだよ。頭も体も鈍っちまわァ」

 往診して貰って安心していた矢先に、と言いたげな眼をしている暢生に、那智はいつもの軽口を叩いてしまう。

 「体を癒すことに今は専念してください」

 「こんなのァ怪我のうちにも入りゃしねェ。つまらねェこと言ってねえで、ちったァ戦術の勉強くらいさせろィ。第一、お前ェさんと意見の遣り取り位ェしたって罰は当たらねえだろ」

 手にした写本を返す様子もなく、暢生は部屋を陣取ったままの那智と暫し視線を戦わせた。いつもの勝気な燃えるような意志が漂っていると、最初は思った。踏んでも叩いても変わらない那智の負けん気旺盛な鋭い眼差しが、ちらりと翳った。

 少なくとも暢生はそう感じ取って、表情を改める。こうして顔を合わせているふたりは何も語らないが、城内を含めて三人の問題だった恋のひと悶着を、それぞれに受け入れている。

 受け入れているが、覚悟が決まっていないのは那智なのかもしれない。

 両人のどちらが、いつ言葉を繰り出すか、或いは行動を起こすか―。暢生の真剣な眼を認めて那智は突然、暢生と自分の間にはそのふたつしかないのだと気付いて、俄かに動揺した。

 「わ…、分かったよ、大人しくしてりゃァいいンだろ。けど、こいつは借りてくぜ」

 利き手に写本を掲げてみせつつ、それで暢生から送られてくる視線を遮った。ぎこちなく立ち上がった時にはもう、暢生は隣室の襖を開けている。変わらぬ気遣いと、澱みのない所作。

 「いま薬湯を作ってきますから、それを飲んで少し眠ってください。ですが…先ほど大尉が仰ったことは尤もです。目が覚めたら呼んでください。私も後で、教えて頂きたいことがありますから」

 枕元にある写本へ眼を遣りながら言って、ふとんへ入った那智を見つめる。雨あかりの仄かな明るさのなかで、薄く光を弾く双眸を向けられて、那智はたじろいだ。

 「そうしてくれりゃァ、おいらも気が紛れるってもんだ。構わねェよ、望むところさ」

 ぶっきらぼうに言って、行った行ったと邪険に手を振ってから、ふとんを引き上げて頭から被る。頬がぽっと熱くなっていて、どきどきと胸が高鳴っていた。先刻まで脳裏に焼きついていた、艦隊運動や砲術の計算式は、疾うに消え失せてしまっている。

 荒っぽい言葉遣いと、煩がって突き放すような態度が、この日から目立つようになってきて、暢生は最初こそ戸惑った。

 那智のそういった言動の裏に隠れているものを探し当てることについて、暢生は神経を傾けていった。那智が本当は何が言いたいのか、それを知りたい一心で。

 相変わらず、水交社での騒ぎについて城内と何があったのか、那智は全く話してはくれなかったが、それについても薄々、原因がなんだったのか暢生は察する事ができた。

 
 安静にしているべき十日の、ちょうどその朝だった。罅の入った肋骨を抱えてはいたが、捻挫の治った那智は嬉々として寝衣を脱いだ。

 「何をしているんですか、大尉」

 「あァ、何って見りゃァ分かるだろう。出仕するンだよ、癒ったら軍事部参謀って辞令が出てるんでな」

 「まだ、無理です」

 「十日間大人しくしてたンだ。もう大したこたァねえよ」

 呆れたようにため息を吐く暢生を横目にしながら、那智は白い夏軍装を羽織った。

 「聞き分けのない人ですね、あなたは。駄目と言ったら駄目です」

 明らかにいつもと違う、鋭くもある叱咤の声に、那智は驚いて身構えた。つと距離を詰めた暢生がすぐ傍にいる。真剣な眼をして見据えられ、那智は怯んだ。

 「お、おィ新見…!」

 ふわり、と温かな腕と胸板とに抱き取られ、殆ど背も体格も変わらぬふたりが、ひとつのもののようにして重なる。那智を包み込んで、柔らかく施していた抱擁に、暢生はやおら力を強く篭めた。

 「が…ッ」

 ひと声呻いて、那智は石にでもなったかのように固まった。罅のはいった肋骨が軋んだのは間違いない。うっすらと脂汗が浮いて、それからぐったりと暢生へ身を預ける。

 「ば、馬鹿やろう…。こんな実力行使の仕方があるかィ…」

 「あなたは城内大尉にも、同じようなことをしたんでしょうね、きっと」

 「…」

 「もうここには私しか居ません。あなたが本当はどうしたいのか、はっきり仰ってください。私は…あなたが好きです。十日間一緒に居て、前よりも強くそう思うようになりました」

 暢生の告白に、那智は耳を疑った。何しろ口を開けば冷やかすか、からかうか、或いはつっけんどんな言葉しか出てこず、態度はまるで拗ねたこどもか、癇癪を起こした猫のようでしかなかったのだから。

 「ばっ、馬鹿か、手前ェは」

 「いいんです…、あの日、城内大尉の思いを私の分まで受け止めてくれた、あなたは…」

 「あれァ、べ…別に、お前ェさんの為に殴られたんじゃねェやい」

 言葉とは裏腹に、先刻とは違う胸の痛み。切なく擽られるような疼痛に、那智はとうとう観念した。体中の力が抜けてゆきそうなため息を吐いて、那智は暢生のほっそりとした腰へ腕を回しかけて抱き返し、背をやさしく叩いた。

 「わかったよ。言うからよゥ、ちっとの間だけ離しなィ」

 言われたとおりに暢生が腕を解くと、那智は身を起こしざまにそっとその唇へキスをした。驚く表情をみせる暢生の頬を撫でて、もう一度唇を重ねてから離す。いつもの、強い光を乗せた物言う眼をまっすぐに向けるも、那智は照れくさそうに含羞んだ。

 ついぞ含羞む那智の唇から、言葉は出てこなかったが、その代り、ふたりは初めて穏やかに優しく視線を交わし、朝の光が満ちる部屋の中で、何度も唇を重ねた。

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| 千尋に届く波の音 | 23:37 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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