大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰弐拾捌話

迷わず目当ての美妓を見出した鷲頭は、つくづくと膝のうえの春千代を眺めいって、それで大いに満足していた。

だが驚いたのは周囲の友人たちである。如何なる場の宴席であっても、鷲頭が芸妓や雛妓を膝にあげて近々と親しく言葉を交わす、ということはなかったからだ。

「おいおい、何だ。鷲頭、貴様がそんな挙に出るとは思わなかったな」

「ほぉー、朴念仁にしちゃァやるじゃねェか。どういう心境の変化なんだィ、おい」

有元と那智が面白そうに囃し立てる。

そろそろ、明かしても良い頃なのではないかと城内へちらりと視線を向けるも、傍観を決め込んでニヤニヤ笑っているだけである。辰吉と清光をそれぞれ隣に侍らせているのを見て、この座で一番楽しんでいるのは間違いなく城内であろう、と鷲頭は内心で苦笑を漏らす。

「でもよ、その妓、半玉あがりなんだろォ?あんまり玩具にするンじゃねェぞ。滅多に座敷にも来ねェ癖して、そんな思わせぶりな振る舞いするなんざ、罪作りもいいとこだ」

酔うと説教癖のある那智が、春千代を案じて鷲頭を窘める。

確かに、芸妓連中に隠れた人気のある鷲頭が、このような稀な振る舞いをしたと噂になれば、相手をした妓は気を持つことだろう。しかし、春千代の正体は嵩利であるからして、その心配は全くないのだ。でなければ、鷲頭とて軽々しくこんな真似はしない。

「それは…、まずあり得ないことですよ」

「あり得ねェってお前ェさん、一体何を根拠に断言してるンだィ」

「知りたいですか」

「…妙なこと言いやがるなァ、酔ってンのか、鷲頭よゥ」

盟友の奇異と好奇の視線が、鷲頭と、その膝に抱かれている春千代に集まる。真相を知っている芸妓たちは、笑いを堪えるのに必死で、それぞれ侍っている男たちの傍で、俯き加減にして扇で口許を隠すなどしている。

「この妓は、芸妓ではないんです。それと…、城内閣下の隣にいる妓もね」

『えぇ、何だって?』

その視線が今度は一斉に城内と、その隣に侍る清光へ注がれた。かれらは何度も首を傾げながら、鷲頭が発した言葉の意味を探っている。美酒を大いにきこしめて、良い加減に酔っているなかで、まともな思索が出来る者は少なかった。

「はい、時間切れ。悩むのはそこまで。…気づかれなかったのは、ぼくとしては嬉しい限りだがネ」

その場に立ちながら手を二度打って、城内がのんびりした声をあげた。目配せされ、鷲頭も春千代を伴って一緒に座を立つ。四人はそのまま続きの間へ入っていって、城内と鷲頭は箏にかけられた絹地の包みを解いて、その前に座した。

狐につままれたような表情をしている彼らを前に、前触れもなしに、流れるような音が響き始めた。

天才と謳われている盲目の箏曲家、宮城道雄の”水の変態”である。

春千代と清光は、舞台となった部屋の中で、緩急のついた曲に合わせて、確りと覚えこんだ踊りを無心に舞っている。その立ち居振る舞いは確かに淑やかであったが、徐々に凛としたものが混じってゆく。

一種の、振り切ったような身ごなし。ひたむきな舞は、清廉な気配を漂わせると同時に、二人が並ぶ空間から、女性が匂わせる艶めかしさや、色っぽさが、いつの間にか消えていた。春千代と清光はそれでいて、独特の妖しさを醸している。

「源さん、もしかして、あの二人―」

「あァ…そうだ。あいつら、そういうことかィ…。そう考えりゃァ、どうして最初に気づかなかったンだろうなァ。あいつらの傍に居るべき奴が居ねェってよォ」

那智と新見がそっと交わした囁きは、盟友たち全ての代弁でもあった。

先刻、辰吉に伴われていたときとは、明らかに雰囲気が違う。

この世に在らざる、女とも男ともつかぬ者がふたり、舞い続けている。いまこの場に居る者たちは、披露されている箏の音と共に、春千代と清光の舞い姿を、魅入られたかのようにして見詰めている。
→【16話】 →目次へ戻る

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| 綿津見の波の色は・121―130話 | 21:00 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

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