大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第玖拾伍話

長く尾を引くような鳥の声が届いて、嵩利はふっと瞼をひらいた。

啼き声が物悲しく聞こえるのは、ゆうべから引き摺っている自身の気持ちを映している所為もあるのだろう。温いふとんから、ゆっくりと体を引っぱり出して、着崩れた寝衣のまま、廊下へ出る。見慣れぬ場所に、居慣れぬ雰囲気だが、しんとして、穏やかな空気で満たされている鷲頭邸は、紛れもなく嵩利の家である。

昨夜は、家に辿り着くまで鷲頭と何をどう話をしたものかと、散々悩んでいたというのに、部屋で対峙した途端、不思議と気持ちが落ち着いたのだ。いま思い返してみても、偉そうなことを言ってしまったとは少しも思わない。

英国に居たときに、起きたかもしれない最悪の”もしかしたら”を考えてみれば、嵩利はそういった面で、確かにもう自立せねばならない時期に達しているのだと、強く思っている。それに、もう二度と、鷲頭に信念を枉げるようなことをさせたくない。

手拭を肩に引っ掛けて、井戸端へ出てゆき、心地よい冷たさの水を釣瓶から掬って顔を洗った。昨晩は寝付けずに、何度も鷲頭の手紙を読み返していた。規則正しい寝起きをしているというのに、眠りに就いたのは珍しく明け方だった。陽の翳りからしていまはもう、午後を回っているだろう。

ぼんやりと空を見上げつつ、一歩二歩あるいたところで、裾が脚に絡まるように引っかかった。だらしのない格好で居るのに今更気づき、ここに誰も居ないというのに、嵩利は慌てて自室へ引っ込んだ。すこし大胆な縞のはいった袷を着流しにして、寝具と寝衣とを片付け、行李へきちんと手紙と写真を収める。

中庭の居心地のよさに、また出て行って陽に当たろうかと廊下へ出ると、電話の鳴る音が聞こえてきた。確か、この回廊のさきに備え付けてある。五度鳴らぬうちに受話器をとりあげた。

「はい、鷲頭でございます」

ほんのひと息置いてから言うと、電話の主は藤原であった。午前中にも電話を寄越してくれたらしく、すっかり寝入っていて気がつかなかったことを詫びる。

「いいんだ。陸にあがった日ほど、ぐっすり眠れる夜はないと言うじゃないか」

長い艦隊勤務を労わるような言葉だったが、嵩利にとってゆうべは全くその逆で、眠れるどころではなかった。顔の見えないことをいいことに、受話器を持ったまま、苦笑を浮かべる。藤原は、これから雇いのボーイと家政婦が鷲頭邸へ向かう、ということをしらせてくれた。わざわざ、嵩利が起きるのを待っていてくれたらしい。

かれらは普段は藤原邸へ仕えていて、二日に一度は、ここへ来て細々と家の一切の面倒を見てくれているそうだ。嵩利の生家にも、チカという家族さながらの住み込みの家政婦がいる。微かに擽ったいものがこみあげて、居間へ行ってかれらを迎え、丁寧に挨拶を交わす。

今日の鷲頭の予定など、大まかにきいているらしく、家政婦は一通りの家事を済ませると、陸へあがったばかりの海軍少佐のことを気遣ってか、採れたばかりだという野菜のなかから、南瓜や里芋で味噌汁を拵えてくれた。朝、昼と食べていなかったのもあって、それはとても美味しかった。

気がつけば、もう夕刻近くになっている。

ボーイと家政婦は、何やら台所で夕食の支度をしてくれている。嵩利は居間で、お八つ代わりに味噌汁をもう一杯だけ食べ、縁側へ陣取ると、部屋から持ち出してきた書籍を、膝のうえで開いて読み始めた。

とても今日が初対面とは思えぬ嵩利の態度に、訪ねて来たボーイも家政婦も、和やかな笑顔を浮かべている。やがて辞してゆくかれらを玄関まで見送って、また居間へ戻る。英国海軍の歴史などが記されている書籍を読んでいるのだが、脳裏に、鷲頭が昨年仕上げた、軍備に関する論文がちらついてきた。

あの時は、深く関わるべからず、といった鷲頭の無言の意を察して、あまりよく目を通さなかったのだが、もう一度、じっくり読むべきだろう。嵩利には嵩利の、分を弁えた上での、立つ位置というものがある。これから全力で鷲頭の支えとなるには、その位置の近きと遠きとに関係なく、深く知っておくことが肝要だ。

今すぐでなくとも、頼めばきっと、近いうちに読ませてくれるに違いない。今夜は鷲頭とゆっくり話ができるのだ。それを思うと、早く帰宅しないかと時計の針ばかりが気になってくる。昼間はすっかりどこかに置いてきていた、甘いような切ないような気持ちが、再び心を満たしてゆく。
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| 綿津見の波の色は・91―100話 | 00:59 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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