大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

2009年11月 | ARCHIVE-SELECT | 2010年01月

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  綿津見の波の色は・第弐拾捌話

 抓りあげられた耳朶をおさえながら、副官はなおも困ったようなまなざしを送ってくる。かれの言っていることは至極当然で、それは鷲頭自身も理解している。しかし理解しているのと、それをうまく言動に反映させられるかは別である。

 嵩利も嵩利で、今更ながら言ったことを後ろめたくおもい始めていた。苛立ちを眉間に刻んだような、不機嫌極まりない上官の顔を、膝枕のうえで見上げているのがつらい。身を離そうとすると、ぐっと肩を掴んで留められる。だがそれで、かれが何か安心させてくれるような言葉を紡ぐわけではない。

 口にこそ出さないが、副官を何よりも大事におもっている。まったく身勝手なものだが、鷲頭はこの不器用さも含め、副官に飲み込んで受け止めてもらっているつもりでいた。

 今まで関係を持った相手が悉く言葉を要さぬような、暗黙の了解といったようなものばかりで、それらに慣れきっている弊害が、今になって出てしまっている。始めたばかりの副官との時間が、こうしたところで躓くのを苦くおもった。

 心の奥底では甘酸っぱいような気恥ずかしさがあり、しかしその気恥ずかしさがもたらす擽ったさは、不快なものではない。慣れぬそれが、更に苦さを引き出していることも、わかっているから困っているのだ。

 そうして沈黙のうちに時が過ぎ、奇妙な空気がふたりを包むなか、嵩利はじっと上官を見つめて考えを巡らせていた。上官の扱いが難しいのは、百も承知している。そこを、自分がうまく汲んでやらねばということも、わかっている。どうしてさしあげたらよいか、とまるで新妻のような健気さでいる。不機嫌にさせるのを承知で訊いたことだが、上官の返答で嵩利は落ち着きを取り戻していた。

 相変わらず不機嫌ではあるが、副官の察しの悪さを咎めるわけではない。膝枕から離れさせまいとしていることでそれはかれも察しているらしい。叱られると覚悟していた緊張を解いて、それに連れ、強張らせていたからだの力を抜きつつ、息をつく。嵩利は肩を掴んだままでいる鷲頭の手を取って撫で、その甲へ唇をつけた。

 ―それが、誘い水になった。

 鷲頭の眼に映るのは、ややもすればまだどこか、憂いの浮いたような副官のまなざしで、嵩利が見たのは、苛立ちと後ろめたさをないまぜにしたような上官の目で、互いにどうにも心が擽られた。上官は惑溺する性質であるから、“血の滾る若者”のような振る舞いはその証拠で、遠慮のない貪淫さも、いわゆる言葉の分を含めてのものであろう。それらをすべて、嵩利だけに傾けているのは、間違いない。

 いつも上官は、“きみは、そのままでいればよいのだ”と口癖のようにして嵩利へ言いきかせるが、それは嵩利も同じで、上官にも、不器用でいいから、そのままでいてほしいとおもっている。だから嵩利は膝枕のうえで、鷲頭に向かってとびきりの、包みこむような笑顔を向けてみせた。そうしながら、唇を落としたかれの手を、頬へおしあてている。

 ―こんなことで一喜一憂していないで、しっかりすればいいべな。もっとちゃんと、艦長の気持ちを汲めるようにならなきゃ、女房失格だよナァ―

 今更ながらに、じぶんが鷲頭春美というひとを、どれほど想っているのか、つくづく噛みしめていた。そこに、頬にあてていた鷲頭の手がそろりと動き、指さきで頬と耳朶とを擽りはじめる。嵩利はその愛撫に、気持ち良さそうに目を細めて、ウン、と喉の奥で微かに声をたてた。まるで仔猫のようである。

 副官の笑顔に、鷲頭はどきりとしていた。おそろしく深くてあたたかな、たぶん、ある意味鷲頭など足元にも及ばぬほどの懐の持ち主だろう、そんなかれを、甘い秘め事につけ込んで籠絡しているじぶんが、どこか矮小にみえてくる。先刻の笑顔をみて、ちらりとそんな考えが横切った。

 「私と―」

 やっと、くちを開いた上官は、撫でる手つきこそやさしいが、いつものぶすっとした口調で、先を継いだ。

 「私と居るのが、堪らなく不安になったなら、いつでも言い給え。本来は…、このような関係はもつべきではないのだからな。私が勝手にきみに惚れて、無理やり引き摺りこんだようなものだ」

 もっと違うつきあいかたもあるだろう、と言って、偶然だが、鷲頭の脳裏にもあの夏に過ごした、鎌倉でのひとときが思い返されていた。

 「もう、勝手に惚れただなんて…、最初に艦長へ迫ったのはぼくですよ。どうしてそう、全部おひとりで抱えるようなことをなさるんですか。ぼくだって、こうしてお訊ねしてチャンと気持ちが定まったのに」

 これにはさすがの嵩利も、むっとして言い返した。これはいわゆる痴話喧嘩というやつなのだろうが、当人たちは真剣そのものである。
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| 綿津見の波の色は・21―30話 | 02:49 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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