大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  或いは終わりと始まり・第弐話

 離れがたそうにしていたが、和胤を促すようにして背を軽くさすって叩く。甘えるように頭を肩先へのせて、すこしの間そうしてから、やっと言葉を継いだ。

 「―もう、大丈夫じゃ。済まんな」

  何が大丈夫なものか、和胤はそれを言うのをぐっと堪えつつも、敢えてきっぱりと身を離した。椅子におさまっている惟之は、それでも先刻よりは穏やかさを取り戻したようで、それをみて僅かに安堵を覚える。

 「以前、おぬしに言うたことは間違っちょらんよ。おれは、もうここに居るべきじゃーないんじゃ」

 惟之はことし五十歳に手がとどこうかという年齢で、まだまだ気力旺盛であるし、軍人としても脂が乗りきっている。無理さえしなければ、これからいくらでも活躍できそうなものだ。しかし文字通り、粉骨砕身の働きをみせてきたが、ここにきて、それが虚しくて仕方がない。ひとえに憂国のおもいから、惟之は陸軍を支え続けてきたが、そろそろ身を退く潮時ではないかと考えている。

 過去に偉勲を得た軍人ならばなおさらだが、そうでなくとも中将大将が、いつまでもその栄光に浸っているのは、甚だ宜しくない。惟之とてそのひとりだと考えている。いくら若い参謀を育てるために、陰ながらの尽力を惜しまなかったといえ、世代の差というべき埋めようのない溝があるのを、はっきりと感じている。

 「そもそも軍人ちゅうのは、忘れ去られるべき者なんじゃ。有事に華々しく戦果をあげても、平穏なときには用はなくなる。そういうものだのに、上にいつまでも大きな顔をしてのさばって、過去やら前例やらを押しつけちょる。そうして若い者らを困らせて、縛りようることに気づいちょらんのじゃ」

 おれはもう、郷里に引っこんでいつかのように、土いじりでもして余生を過ごすよ。と、惟之はぽつりと呟く。

 この何とも弱気な態度を、和胤はもう以前のように諌める気はなかった。惟之が参謀総長の椅子に座って、半年あまりが経っている。実際もっと経っているように感じるほど激務であったし、惟之も畢生の職として励んできた。

 翳りがあるのは葛藤を抱いているからか、こうして惟之を見ていても、あっさり職を放りだしてしまいたくとも、責任感のつよさが影響しているのもあり、悩んでいるのがよくわかる。

 そうして、辞めたいということを仄めかすと、また性質のわるい我儘が始まった、と周囲には相手にされなかった。くたびれきった顔は和胤以外にみせることはなかったから、冗談と取られても仕方がない部分はある。

 しかし、段々とそれが単なる冗談ではないということに、周囲も気づきはじめ、引退の意思を嗅ぎつけた者が、説得にやってくる。日々懲りもせず、しかも惟之への理解が深い人間ばかりが執務室を訪ねてきて、参謀総長を辞めるなと説得して帰ってゆく。

 だまっているのは真意を汲んでいる和胤で、あとは意外にも恩田であった。もっとも近しく、しかも直属の部下だけに、いの一番に諌めに来そうなものだが、何かおもうところがあるらしく、周囲から、あの我儘を何とかしてくれ、と頼まれても腰をあげようとしない。

 戦勝で気負うような気配に包まれつつある陸軍を、しっかり抑えられるのは杉参謀総長をおいて他にいない、と、先日会合で軍拡について激論を交わした折、一緒になって猛反対の側に回った松沢騎兵中将も、諌めに来た人物のなかにいた。

 松沢の説得は、最も惟之のあたまを悩ませ、また葛藤のもとになっている問題を突いてきただけに、途中から困りきった顔をして、ひとつも言い返せなかった。

 惟之としても、このまま陸軍が我が者顔をして、のさばるような方向へ転がってゆくかもしれぬのを、だまってはおれない。それを横目に見ながら、知らぬ顔を決めこんで退官してしまうのも後味が悪い。

 論旨明確、舌峰鋭い惟之が珍しくだまりこくっている。しかし松沢はそれに調子付いて、追い詰めるような物言いはしなかった。言いたいことだけを言うと、あとはいつもの瓢然とした顔にもどって、出された茶をすすっている。

 「…痛いところを突いてきたものだのう」

 やっとそれだけを言うと、惟之はすこし考えさせてくれ、と重々しく告げ、珍しく深刻なそぶりをみせた。振りだけでないその様子に、松沢はそっと執務室を辞していった。惟之のあたまには、様々なことが渦巻いている。それから数日経って、おもむろに和胤へ言葉をむけた。

 「のう、山口。その海外の情勢ちゅうものを、もう一度聞かせてくれんか。たぶん、なにか掴み出せるかもしれん」

 そう言いつつ、陸軍の構造からなにから、思考のなかで組みあがっていっている。今現在、何かが足りないような、そんな気がして、再度考え直す必要があった。何より、今の檻のような環境を生み出すもとから正さねば、安心してあとを預けられたものではない。
→【3話】 →目次へ戻る

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