大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第参拾伍話


 演習が始まっても、惟之はひとことも作戦に口出しはしなかった。

 途中、騎兵将校の松沢が戦況を伝えに来たときに、五分五分の接戦であると報らされても、ほんの僅か眉をあげただけで黙っている。休養中の身であるから、軍務に携わらないというだけではない。その姿勢は部下たちへ信頼があってこそのもので、そんな上官の気持ちがひしひしと伝わってくる。

 惟之がこの場にいるというだけで、参謀たちは、すっかり気持ちの落ち着きを取り戻している。

 どんなに才能があっても、いざというときに取り乱しては、碌な成果はあがらない。もちろん、精神論に偏り過ぎて事態を推し進めるのは愚の骨頂だが、やはり精神的支柱というものは、軍隊には不可欠なのかもしれない。

 おかげで素早く采配をふるうことができて、攻撃側である第二連隊は徐々に有利になっていった。特に、今回参謀長を任された和胤にとって、惟之の存在は大きな拠所となった。およそ一少佐とはおもえぬ活躍ぶりで、もしこれが実戦であったならば、金鵄勲章に値するものではなかろうかというほどであった。

 「六分四分か、ようやった」

 攻撃側は演習時間いっぱいまで粘り、押しに押しまくった。審判の結果がでると、惟之はそれだけ言ってにこにこしている。

 第二連隊がその部隊ごとに分かれて、順次戻ってくる。雪まみれになったすがたで、各隊長たちが参謀たちの待つ本部へ報告しにやって来ると、惟之は出ていって迎え、ねぎらいのことばを掛ける。

 「まさに獅子奮迅じゃったのう」

 双眼鏡を覗いてときどき戦況を確かめていたから、各中・小隊の鮮やかな運動ぶりを称える気持ちをこめて、みじかく声をかけた。

 まだ雪はやんでいなかったが、雪見がてらにおおかたの部隊はそとに張った天幕のしたに引っ込んだ。炊事掛が腕によりをかけて拵えた昼食に、全員が舌鼓をうっていると、誰もいなくなった演習場に突如、どかぁーん、と轟音が鳴り響いた。広大な演習場の一角、本部からの距離で言えば一里程か。そのなだらかに隆起したところを覆う、真っ白な雪が根こそぎ吹き上げられ、そこでも、どぉーん、と腹に響くような音とともに白い柱が天へ伸びた。

 演習とはいえ戦いのあとだけに、将兵らは落ち着いた顔でそれを眺めながら食事をとっている。もしや、ありゃァ、旅順で撃ちまくった二十八糎砲じゃあるまいか。そんな言葉が交わされる間に、砲撃は三度続いて止んだ。

 「しかし、撃つにしても距離がずいぶんと近すぎやしませんか」

 本部の食堂で、将官らと同じ食卓についていた来賓の議員らは、当然ながら砲撃の音に耳慣れているはずもない。それこそ、初撃のときなど腰をぬかすほど驚いて、たじろぎつつ言ったことばがそれであった。

 「そうかのう。戦時じゃったら、そげなこたー言っちょられん。満州では休む間もなく、それこそ雨霰のように降ったものじゃ」

 惟之は涼しい顔でその苦情を受け流す。以前、議会で“あたまのうえで敵の砲弾が炸裂しないとわからんのか”と、惟之に叱咤されたことを思い出したらしく、かれらはそれで黙ってしまう。

 この場には、あの時の事情を知っている者ばかりだったから、満州ということばと相まって、いまの砲撃が悪戯好きな惟之の仕業だとすぐに気づいた。いつも悪戯に振り回されるばかりの面々も、これには内心で喝采をおくっていた。

 そのあとも、来賓に向かってひとつもにこりともせず、惟之は黙々と昼食を済ませ、さっさと席を立ってしまう。部屋を出て長い廊下を歩いていると、あとを追いかけてくる靴音がある。副官の和胤と恩田で、呼ばれるまでもなく立ち止まって振り向く。

 「少しは溜飲がさがったじゃろ」

 ふたりが目の前にやってくるなり、にやりとして言う。いつもの悪戯とは違うものであるし、惟之を咎める理由もない。

 「きっと後日、参謀本部へ怒鳴りこみに来ますよ、あのお偉方は…」

 そうなったら間違いなく、それを捌く役割になるであろう和胤が眉を顰めて、相手をするこちらの身にもなってください、とこっそり惟之に耳打ちしただけで話はおわる。

 「ところで閣下、午後の合戦には参加されるのでありますか」

 本題はこちらだというように、訊ねた和胤の横で、恩田がちいさな布袋を掲げて振ってみせる。組分けの籤といったところだろう。

 「聞くところによると、軍医長の新垣も来ようるそうじゃのう。療養の身で、雪まみれになっても差し支えないちゅうなら、出ようと思っちょるところだが」

 本部の建物の中には浴室もあるし、今日の天候に備えて風呂の湯はしっかり沸かしている。恩田も和胤も、戦いが済んだら、惟之を即刻湯につからせて温まらせる積もりでいることを伝えた。

 「まァ、念のために訊いてくる。先に組分けだけ引いて、もし許可が出なけりゃァ、おれを抜けばええじゃろ」

 言って、ひょいと袋に手を突っこんで取り出したのは、白い石であった。まだふたりとも、籤は引いていない。上官と同じ組になることを密かに祈りつつ、和胤はかれの外套の上腕部に白い腕章をつけ、軍帽を白い布で覆った。
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| 変わらぬ青空のしたで・31―40話 | 00:38 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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