大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  変わらぬ青空のしたで・第伍拾壱話

 一方で、美妓がいても侍らせもせず、気心知れた同士で固まって飲んでいるほうがすきである、という連中もおり、宴席の一角を占めている男どもの中に、和胤は引っ張りこまれていた。

 「なんだ貴様、名実ともに杉閣下の女房になるんか」

 紋付すがたの花嫁御寮、などと歌ってからかったりしているなか、親友の佐官などは複雑なおもいで、和胤を見つめた。

 「これからは、おいそれと貴様を連れ出して付きあわせるような真似はできんな」

 ある者はついふた月前に、酔った勢いで和胤に抱きついて、近頃の付き合いの悪さを盾にとり、ねちねちと恨み言をいって絡んだ記憶があるだけに、杉閣下に睨まれたらあとがこわいなあ、と言う表情は、冗談でなしに強張っている。

 男も惚れる男、というのにはすこし語弊があるかもしれないが、和胤は生来からくる穏やかな性格と面倒見のよさから、同性からも愛されることが多い。実際、和胤を友人以上に慕っている者は、少なからずいる。例えば竹内もそのうちのひとりである。

 軍人にしては思慮が繊細で、武人というよりは文人肌である竹内が、第一局において重宝されているのは、その文才によるところが大きいというのを、自他ともに認めている。

 それで他の同期と同じように出世しているから、どこか引け目を感じつつ、いままでやってきた。いっそ軍人を辞めて、秘書官にでもなろうかとおもったことも一度や二度でなく、そのつど親身になって相談に乗ってくれるのが和胤であった。

 はなしを聞いてもらいながら杯を煽るものだから、つい酒を過ごしてしまうことも度々ある。記憶が定かでなくなるほど飲んで、気づけば介抱してもらっている。

 そんなだらしのない部分を、長年のつきあいだというのに、和胤は呆れもしなければ叱りもしない。ただ、竹内の気が楽になるまでだまって傍にいてくれる。今まで、何かにつけて甘えてきただけに、上官が和胤を手許におくとなれば、以降はそうはいかないだろう。

 「竹内、まさか山口に手をつけとらんだろうな」

 と、隣の同期から、からかいたっぷりなくそ真面目顔で訊かれ、竹内はさすがにそれはない、と首をふってみせる。和胤は輪の中で胡坐をかいて座りつつ、連中の馬鹿騒ぎに苦笑をうかべるしかなかった。

 「この馬鹿どもがァ、なーにをほざいちょるかっ。それ以上言うたら、ただじゃおかんぞ。下衆な推測をしちょるあたまがあるなら、もっとましなことに使え!」

 白藤の琴を堪能して、席に戻りながら目撃した光景が、この騒ぎである。

 惟之は感傷に浸っていた気分と、自身を温めている和胤への想いとを、いっぺんにぶち壊しにされて頭にきていたから、懐から抜いた扇子で以って、連中の後ろあたまを容赦なくびしびしとやっていく。

 「ええか、おぬしら。下衆な噂を流されるのは真っ平ご免じゃけぇ、この際はっきり言うておく。山口はおれにとって家族も同然じゃが、これはおれと山口との心の問題であって、他は何も変わらん。平素どおりしとりゃええんじゃ、陰間を囲ったようにおもわれてはまったく心外じゃ」

 侮辱にもほどがある、山口に謝れ、と言って、ちいさな肩を聳やかして席へもどってゆく。

 和胤との仲は、もっと高潔なところへ置いておきたい、と願っている惟之からすれば、もっとも警戒すべきは自身の感情の暴走で、次いでのそれは、周囲の好奇の耳目である。

 「まったく、怪しからんのう」

 と、言いつつも、和胤がやはり同性からも慕われる存在であることを認めて、内心でヒヤリとしたのも、否めなかった。

 「まったくもって、怪しからん」

 と、二度いって、手に触れた升をとりあげると、そこになみなみとつがれていた祝い酒をいっぺんに干した。

 上座に落ち着いた惟之から、まだ鋭い視線を突き刺されている連中は、これは相当に怒らせてしまった、と慌てふためいて和胤へ謝意を示した。

 「あァ、貴様らが本気でそげなことをおもっちょるとは、おれは考えちょらん。気にせんでくれ。閣下はおれが宥めるけぇ、心配するな」

 穏やかな笑顔とともにきっぱりと言い切って、和胤は男どもの輪から抜けていった。惟之が、あの馬鹿騒ぎに本気で腹をたてているのなら、それは和胤を相当に想っているということのあらわれだ。それだけで、和胤の心はたとえようもなく温かくなる。

 「閣下、それ以上の酒はいけません。お約束を破られては困ります」

 惟之の隣へ膝をつくと、ムスッとしたまま二杯目の升をあけるのを待って、和胤は慌てて惟之の手を押さえた。左手で銚子をつかんで、まだ飲むつもりでいるのだ。

 くちをへの字に曲げて、きっ、と和胤を睨みつける。あの馬鹿騒ぎが、余程腹に据えかねているように見受けられた。

 「離さんか、山口。こりゃァ清めの酒じゃ、構うな。冗談でもあがな話は聞きとうないわい、おれの気持ちが穢されたも同然じゃ」

 まったく、このひとは―。

 そのことばに和胤は、雷にうたれたような感覚を身におぼえていた。ひとつも隠さずに、惟之はじぶんの気持ちを言う。それで、和胤がどうおもうかなど、おそらくほとんど考えていない。さきほど詠んだ歌もそのひとつで、和胤の心は擽られてやまない。

 惟之が愛しくてしかたがない。いま二人きりであれば、即刻抱きしめているところだ。否、抱きしめるだけで済むかどうか―。

 「いまの閣下のお言葉で、おれは充分清められました。あと一杯で、酒は堪えてください」

 一瞬、切なさと愛しさを堪えるように瞼をかたく閉じて、それでも隠しきれない。そう言うのがやっとで、あとはまなざしで訴えかける。

 「ここでまた、おぬしを困らせては本末転倒じゃな。わかったわかった、もう飲まん。…あァ、そがな目でみられよると、擽られるよりこそばゆいのう」

 いっそ飲み倒して、おぬしに“やいとすえられる”ほうが、ましかもしれんのう、と照れながら言ってはみるが、両手は銚子と升から離している。
→【5話】 →目次へ戻る

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| 変わらぬ青空のしたで・51―60話 | 02:21 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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  変わらぬ青空のしたで・第伍拾弐話

 午後の陽がかたむいて、夕刻まえに宴はおわった。

 心地よい酔い加減でいる部下たちは、ぼつぼつと徒党を組んで辞していったし、芸妓らは夜の座敷にかかっている者がほとんどで、刻限いっぱいまで杉邸で過ごして、慌しく帰っていった。

 庭に支度された宴席も、店の者が来てあっというまに片付けてしまい、もとの静けさが戻るのにそう時間はかからなかった。

 いい宴だった、と惟之はひとり桜のしたに佇んで、花を見上げながらおもいに耽っている。夕刻の陽に照り映えた花の色は、美しい輝きを放ち、そこから目を離せなくなる。すこし肌寒くなってきてはいたが、樹の幹に手をついて寄りかかる風にし、揺れる花房をみつめている。

 「惟之さん」

 そっと、うしろから肩を掴まれて軽く促すように引かれるまま、半歩ばかりさがる。背が和胤の胸にあたると同時に、包まれるように抱かれた。はじめはやわらかい抱擁も、すこしばかり強いものになってゆく。触れられる感覚が、どことなくいつもと違う。

 「どうした、和胤」

 とん、とあげたあたまで和胤の肩をおして訊ねる惟之の口調は、いつもと同じにきこえた。惟之は最後のひとりまで、来客と懇ろに会話をかわして、その帰りを見送っていたが、和胤はといえば、宴の終わりのほうは殆ど上の空で、惟之への想いを対処するのに精一杯だった。

 それで、いまはどうかといえば、実はまだ治まっていなかった。

 「もうちっと、こうしちょってもええですか?」

 「うん、ええよ」

 ひくい声で訊いてきた和胤へ気軽に返事をしたが、惟之も内心では和胤がいまどんな気持ちでいるか、わかっていた。

 今日は、惟之にとって大切な者ばかりが集まったわけだが、そこにおいてもなお、和胤が自身にとって特別な存在であると改めて感じた。だから、その気持ちを今日は素直に、皆の面前であるにもかかわらず、くちにしたのだ。その結果がこれである。もう、これ以上知らん顔をしているのは、酷というものだろう。

 「寒うなってきたのう、花見の続きはここでのうて部屋でせんか」

 身じろいで腕のなかでからだを捻ると、向かい合うかたちになって顔を見合わせる。じっと和胤の目を見つめ、からだに腕を回して軽く抱きついた。

 「惟之さん…、あの―」

 「なァにをしちょる。早う、部屋へ連れてゆかんか」

 眉をよせてくちをとがらせつつ言う、すこし不機嫌な顔であったが、夕の陽に照っただけではない赤みが、確かにその頬にさしていた。心拍のたかさは隠せず、触れ合っているからだを通して伝わってくる。

 いつものように惟之を抱き上げたが、どうしてよいかわからない。まさか惟之から行動をとるとはおもっていなかったから、和胤はうろたえた。

 「あの、ええんですか…?」

 「とんだ野暮天じゃのう、皆まで言わんとわからんのか」

 まったく興ざめした、と言わんばかりの呆れ顔で言うなり、惟之はするりと腕揺り篭から抜け出して降り立つと、さっさとあるいていって家の中へ入ってしまう。

 この、馬鹿―

 ひとり夕闇の桜のしたに残された和胤は、惟之の部屋にあかりが点くのを認め、うなだれると自身のあたまを拳で小突いた。いざとなると意気地がないなど、男の風上にも置けないではないか。惟之にどうおもわれたか、少なくともこれで機会はひとつ失われたと言っていいだろう。

 はらり、と肩先をかすめて桜の花が一輪おちてくる。脳裏に惟之が詠んだ歌が浮かび、胸がしめつけられるおもいで、それを手に包むようにして持って、そっと自室へ戻る。

 この桜を見ていつか想いを示せるように、押し花にしておこうと本の間に挟んで、それからやっと紋服を脱いだ。和服は着慣れていないだけで、知識がないわけではないから、今朝教わったことは既にあたまに入っている。ひとりで全て済ませると、畳む物は畳んで、あとはきれいに衣桁へかけておく。

 「惟之さん…」

 シャツにズボンを穿いただけという格好になると、長椅子へ寝ころがってため息を漏らした。自身の不甲斐なさに対する鬱々とした気分のなかでも、惟之への愛しさはいや増すばかりだ。

 ひとが、ひとに触れるときほど、その感情が如実にあらわれるものだ。惟之はそれを敏感に察して和胤を促してみたのだが、普段と違い、まったく初心な少年そのものの狼狽ぶりをみせたものだから、惟之は拍子抜けしたおもいで、部屋へ引っ込んでしまった。

 やはり、ここはこちらから手を出すほうがいいのか。と、自室の机に向かって真剣に考え込んでいる惟之は、着替えを済ませて普段の和服に、袴をつけたすがたでいる。頬杖をつくと、頬をふくらませた。

 惟之にしても、もともと男色の趣味はないが、和胤だけは別だ。

 かれに弱み―感覚の鋭敏さを晒している時点で決定的だろう―を握られて、それに今まで対策もたてずに放置しているのも暗に、いつ手を出してもいいぞ、という気持ちがあるからだ。

 それはさておいて、と、あたまを切り替えて冷静におもい返してみる。和胤は根っからして真面目な性格だから、年上の惟之に対してじぶんから事を起こすのは、かなり抵抗があるのかもしれなかった。

 「―まったく。花見をせるのに桜を右から観るか左から観るか、そげなことを言うちょるのと変わらんじゃーないか」

 と、まことにざっくばらんな例えを引っぱり出してきて、ぼやいた。
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| 変わらぬ青空のしたで・51―60話 | 00:49 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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  変わらぬ青空のしたで・第伍拾参話

 昼間にすきなだけ料理をつついたのもあって、夕食は時間をずらして夜食のかたちにし、軽く蕎麦がきを食す程度で終えた。宴会の招待客が持参して来たとっておきの土産物である。

 毎度のことながら、食事中は沈黙の時間が流れるのが常だったが、今日のそれは和胤にとって一段と重く感じられた。惟之は普段と変わらない。夕刻の庭でのことなどなかったかのように、けろりとしている。目が合えば屈託のない笑みを向けてくるものだから、和胤も含羞みつつそれにこたえる。

 「信州の蕎麦粉だけあって、美味かったのう。―おっ、ええ月が出ようるぞ。今日は何から何まで膳立てされちょるようじゃのう。そとで月見桜としゃれこむか、和胤」

 そういって、もう庭へ出ている。離れというにはちいさいが、茶室のような東屋が建っていて、ちょうどそこから桜も月も眺められ、春先はまことに居心地のいい場所なのだ。

 しずかに引き戸を開けて中へはいると、惟之は木戸と障子を開け放して、畳のうえに寝そべって寛いでいる。しらじらとした月光が降りそそいでいて、外に映える桜はみごとな銀細工の樹にもみえた。

 「―おい、膝ァ貸せ」

 「はい」

 惟之は起きあがりもせず、空いている手を空へあげて、指さきでチョイチョイと招きつつ、言う。傍へ座ると、いつものように惟之のあたまが膝のうえに載る。膝枕など毎度のことなのに、和胤はそれだけでどきりとしてしまう。

 和胤と心通わせる仲になっても、何かにつけて惟之が主導権を握るかたちになっている。と、いうより和胤はあの通りの性格であるから、惟之に我が侭ひとついったことがない。

 好き放題いうのはいつも惟之で、時折あたまを痛めつつも、和胤は概ねそれらを諾いてくれる。そうやってぽんぽん投げつけても、受け止めてくれるものだから、寄りかかっているほうは大いに居心地がよい。

しかし、惟之としては今回の件について、和胤から何がしかの行動を起こすまで一切、手をださずに知らん顔を決めこむことにした。

 受け身で支えてくれる分には、とほうもなく器が大きい和胤だが、攻めの姿勢に転じてみよ、と言ってみたらどうかといえば、からきし駄目であることは、夕刻みせたあの態度であきらかである。

 そこからどうにか、じぶんの意思でもって行動を起こして接してほしいのだ。惟之からならばいつでも、それこそ強引に押し倒しもできる。それが一番手っ取り早いのだが、絶対にしたくない。
 
 何も、初めが肝心などと、初心なことをおもっているわけではない。しかしどこかに、筆おろしをどう迎えるか悩む年頃に抱く、どこか甘いような、なまぬるいような気持ちに似たおもいが、惟之のなかにある。やはりこればかりは譲れない部分で、

 “おれをどこまで想っちょるのか、示してみせろ”

 という、試すかのような無言の催促を続けるつもりでいる。そのかわり一度手を出されたら、どれだけ羞恥をおぼえようとも、とことん受け止める覚悟もしている。

 と、惟之がこのような思惑でいるなど、和胤はおもいもよらないでいる。ただ、先刻の自身の不甲斐なさを愧じつつも、惟之が普段と変わらない態度でいることに、ほんのすこし安堵していた。

 膝にかかる温もりはあたまだけでなく、惟之が時折身じろぎすれば肩も触れるし、膝頭へ手を置かれたりもする。そとの風景から視線を膝もとへうつしてみれば、真っ白な月光が、寝そべって憩う惟之にも降りそそいでいる。

 病み上がったばかりの痩せたからだが、その光に一層はっきりと浮かぶ。その身にはやく、いつもの活力がもどればよいのに、と和胤は僅かに眉を顰めておもった。

 華奢な肩へ目をやって、和服の襟から覗く首のほそさに、はっとする。月光のせいで、そこに居るはずの惟之があまりにも希薄にみえてきて、膝のうえの温もりすら、薄れてきたような錯覚におちいる。

 つと手を伸ばして、肩へ掌をおいて確かめる。そこには夜気に触れた和服の、ひやりとした生地の感触しかない。小振りの耳朶をつまむと、すこし冷たかった。耳のうしろをかすめて頬に触れ、そっと包みながら撫でて、襟の隙間から首すじへ掌を滑りこませた。

 指さきで探って、ようやく温かみを感じてほっとする。惟之のからだが冷えているのか、それとも和胤の手指が冷えきっているのかもしれないが、それにしてもまるで実感がない、とおもっていたとき。

 ぴくり、と惟之のからだがちいさく震えて、膝頭に置かれた手にも、くっ、とちからが入る。惟之が鋭敏な感覚の持ち主だということは百も承知であるが、肌の感触が心地よくて、愛しさも増すがゆえに手を止める気はない。さすがに襟を乱すようなことはしていないが、指を首すじからうなじに沿わせて撫でていく。

 それにしても、こんなにほそかっただろうかと、畳のうえに置かれた右手へ目を落とし、袖口から覗いている手首を掴んでみておもう。

 掴みあげた手首の裏側の、やわらかな肌へ唇を寄せてそっと触れてみれば、かすかに指さきが跳ねる。そんな僅かな反応をして、惟之の隠れた本心が見えてくるような、そんな気がしてならない。ひとたび肌に触れることは、百のことばを介するよりおもいが通じるのかもしれない。
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| 変わらぬ青空のしたで・51―60話 | 14:22 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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  変わらぬ青空のしたで・第伍拾肆話

 春先の夜気はまだつめたい。桜と月とにみとれて、和胤の膝の温もりに依っているうちにも、からだは冷えてきていた。それでも、襟の隙間をついて滑りこんだ指さきに肌を丹念に撫でられれば、そこから自然と熱が生じる。

 手首を掴まれて唇で探られたときは、とっさに引っ込めたくなるほど羞ずかしかった。求められて唇を交わすより、よほど扇情的な行為であるように、惟之は感じていた。

 首もとを探っていた手は、耳朶を指で擽ったあと離れて、腰へあてがわれる。掴んだままの右手を手繰るように引かれ、次いで、腕を腰に回されて引き寄せられた。半ば引きずり上げられるようにからだを起こされ、和胤の胸のなかへ抱かれる。

 こつん、とあたまを肩先へあずけて見上げると、ちょうど和胤と視線が合う。真剣な、言うなれば凛とした眼差しのなかに、痛いまでの愛しさが隠れている。

 じぶんが今どんな顔をしているのかわからない。惟之は瞼をふせて、胸に疼くものをすこしでも軽くしようと、ながく息をついた。ともすれば俯きそうになるのを、顎のしたに手を添えられて遮られ、その息のつき終わるまえに、和胤の唇に塞がれる。

 何事も丁寧に、ささいなことでも粗略に扱うことをしないのが和胤の性格で、それは接吻ひとつとっても変わらない。深く唇を交わしながら、惟之はそれに応えつつもあくまで受け入れる姿勢を保った。和胤の濃やかな舌のうごきが、どんな言葉よりも惟之への想いを語っている。

 長い接吻であったが、息苦しくなることはなく、気遣うようにゆっくりと呼吸をおいて離れては、また唇を塞がれる。それを繰り返す毎に、あたまの芯が痺れるような感覚が増してゆく。

 和胤の腕を枕に、天井を仰ぎつつ相当に悩ましい吐息をつくと、すかさず隙だらけの喉もとへ唇を這わされる。襟を掴み、すこしずつはだけてゆきながら、あちこちにくちづけられて吸われ、舌さきで擽られ、あまく噛まれる。

 その一連の行為も、和胤は何の躊躇いもなくしてのけた。それらに惟之はいちいち反応を示して、ときにはちいさく声をあげさえする。そうして暴かれ、遂には半身を月光のしたに曝されてしまう。


 「よいよ…腹が減ったこどもみとーに貪ってからに。いくらなんでも、こりゃァやりすぎじゃないんか」

 向かい合うあいだ、すこしからだが離れたときに、惟之はじぶんのからだに刻まれた痕を、つくづくと眺めおろして、今までの行為と、それを受け入れた自身に呆れかえっていた。

 「何を言うちょりますか。惟之さんが…あげな可愛げな反応をせるから、いけんのです」

 我慢なぞできません、やめろというなら理不尽にもほどがあります、と顎を引いて言って、あとは上目遣いになると、いかにも物足りないというように、すこし恨めしげな視線をむける。

 「けしからん、ちゅうとるんじゃ。夕刻はあれだけ狼狽しよったくせに。おぬしは、おれに対して何もできんのじゃと高をくくらせといて、油断しちょるときに手を出すとは、けしからんにも程がある」

 実際、狼狽しているのは惟之のほうで、態とふてくされてこんなことを口走っているのも、今になって羞ずかしくてしようがないからで。そしてやはり、いまひとつ素直になりきれないじぶんがいることに、苛ついてもいる。

 「…それが本心なら、なぜ、いま拒否せんかったのです。言うちょることと、まったく噛み合っちょりませんが」

 「―ぅ~っ」

 まるで餓えをおぼえた狼のような眼つきで、和胤は三白眼のまま、惟之をみつめている。冷静に指摘されて反論のしようがなく、ちいさくなって眼を逸らしてしまう。

 「…惟之さん?」

 一度吹っ切れれば、素直に甘えられるだろうことは予感している。そこにゆくまでの道程が、惟之の性格が災いして途方もなく遠い。

 和胤に触れられて、拒否などする理由はひとつもない。むしろ心地よさしかない。最もじぶんを大切に扱ってくれるかれに、細胞のひとつまで余さず満たされていく至上の幸福感だけがある。

 それなのに、ふと我に返るなり、羞恥や意地といったものがあたまを擡げて、憎まれ口しか叩けない。これでは、惟之から手を出そうが、和胤から出されようが、真の意味でふたりが結ばれる日は、永遠に来ないだろう。

 「悪戯心でからかわれるのは、閣下の愛嬌だと思うて、笑って受け止めてきましたが…。こげなふうに弄ばれるのだけは、ご免蒙りたくあります」

 長いため息がきこえたあとに、切り捨てるような冷たい声が、惟之の耳を裂いた。和胤が、どんな気持ちで惟之へ手を伸ばしたか、充分すぎるほどわかっているのに。それを傷つけることばをくちにしたのだから、当然の報いだ。

 すい、と影が動いて、和胤が座を立つ。

 結局己はどこまでも孤独なのだと、月の怜莉な光に告げられているようにすらおもえて、惟之はますますちいさくなり、庇うように自身の腕でからだを抱きすくめた。

 胸に痛みが走って、涙が堰をきったようにあとから溢れてこぼれ落ちる。堪えても嗚咽がもれて、両手で顔を覆って泣いた。涙はとまらず、更けていく夜の冷気に晒したままの身は、切られるような痛みすら感じていた。

 「おれァ…何ちゅうことを言うてしもうたんじゃ。和胤…、今度ばかりは―赦してはくれんじゃろうのう…」

 あれだけ大切におもっておきながら、結局はこんなふうにしか接することができない惟之には、呆れたにちがいない。いくら寛容な和胤といえど愛しさ余って憎さ百倍、ということになるだろう。いっそのこと、憎みきられたほうが幾らか気は楽かもしれなかった。

 つと袴の紐を解くと脱ぎすて、和服の下締めの帯を解いて手にする。はだけたままの着物が落ちたのも気づかず、白い襦袢だけのすがたで、ほとんど幽霊のような足取りで、ふらりと立ち上がって木戸へ近づく。かるく飛び降りれば、すぐ庭に降り立てる場所で、虚ろな眼のまま、銀色の桜の樹をみつめた。

 月あかり 夜露に消えし 悪しき夢

 朝に桜が きみに笑むかな

 せめて、桜だけは笑っていてくれ。そうして朝には、傷ついた和胤をやさしく迎えてやってくれ。おれには、もうその資格も価値もないから―。

 そうおもって、ぽつりとくちにした。

 井戸で水をかぶって、少しあたまを冷そう。明日の朝、和胤に謝らねば。たとえ赦してもらえなくてもいい、憎まれてもいい。しかし、これだけは謝らねば。

 庭に降りようと一歩踏み出したとき、背後から襟首を掴まれて、それこそからだが浮くほどの勢いで引きずり戻された。あまりの勢いに、一瞬何が起きたのかわからないくらいで、息さえ詰まったほどだった。

 「何を―、何をせる気ですか。あなたは…」

 「かっ、和胤…!」

 襟を両手で掴みあげられ、詰め寄られる。本気で怒っているのは、ことばを俟たなくてもわかる。それにしても、愛想を尽かして、東屋から出ていったものとおもっていただけに、惟之は目を白黒させるしかない。

 しかし、なぜこんなに怒っているのか―。

 和胤は惟之の左手から晒しの帯を素早く取り上げて、畳のうえに抛った。何のことはない、帯は井戸へ行って水をあたまにかぶったあと、手拭い代わりに使うためのものなのだが…。まさか、身投げか、首を吊りでもするとおもったのだろうか。

 「いや、あのな―」

 ぱんっ、と左の頬が鳴って、打たれたことを認識した惟之は目をまるくした。もちろん叩いたのは和胤だ。決定的に勘違いをしているが、正そうとしてもややこしいことになるだけだろう。

 「手を出したことを、貶すような言われかたをされてつい、かっとなってあげなことを言ってしまいましたが…。あれが惟之さんの本心でないことは、わかっちょりました。後悔して、謝ろうとおもって戻ってきたら、あなたというひとは―」

 「謝るのはおれじゃよ。ありゃァ、おぬしが怒って当然のことじゃ。おれがじぶんから手を出させるように仕向けちょったんじゃけぇのう。それでおれ自身が素直になれんことへの腹いせに、おぬしに八つ当たりときては…、愛想を尽かされるも止むなしじゃ」

 「あなたが素直じゃーないことくらい、百も承知しちょります!まったく、こげな危ういことになるくらいなら、初めからここで強引に押し倒しちょけばよかったっちゃ」

 「危うい…じゃと?おい、まさか、それじゃ今、おれが自殺せるように見えたちゅうことか」

 「ついこの前まで、現世などどうでもええと、体を毀すほど酒に仕事と、じぶんを苛め抜いちょったのは、一体どこのどなた様ですか」

 「ぅ…。いや、それとこれはちと論点が違うじゃろーが」

 「違いません、おれには一緒です。…もう、羞ずかしくても、どれだけ泣いても喚いても、素直になるまで離さんので、覚悟しちょってください」

 ぎろり、と例の狼のような眼つきでもって、人騒がせな栗鼠を睨むと、有無を言わさずにことばを遮った。それから和胤はきっぱり言ってのける。

 身を屈めて、床に散らばった着物や袴を素早く手にとるなり、惟之に持たせる。両手が塞がったのを見計らって抱き上げてしまうと、さっさと母屋の洋館へ戻っていく。

 惟之は文字通り栗鼠のようにちいさくなって、しおらしくしている。これ以上逆らったら和胤に締め殺されそうな、そんな気配すらあったが、愛想をつかされるより何倍もましである。
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| 変わらぬ青空のしたで・51―60話 | 23:03 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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  変わらぬ青空のしたで・第伍拾伍話

 部屋へ戻るなり、寝台のうえで組み敷かれたあと。惟之の身に訪れたのは、和胤からの拷問であった。

 もう、そうとしか言いようがない。そもそも痛みを与えることだけを、拷問というのは大いに語弊がある。と、心の声を大にして言いたい。

 着ていた襦袢を剥かれて、肌身をいいように弄りまわされるあいだ、甘い痺れに撃たれるたびに、悩ましく息をついて喘ぎ、声をあげて鳴く始末であった。和胤の愛撫が執拗かつ丁寧であるからして、間断なく快感を与えられ続けて、もはや羞じも何もあったものではない。

 和胤は心底怒っていたが、かといって惟之のからだを痛めつけるまねはしなかった。ただそのかわりに、一生消えないのではないかというほど、肌のやわらかな、特に、惟之が敏感に反応を示す場所へ、噛みつくようにして鬱血した痕をきつく刻みつけていった。

 その痕の数は、数えるのも面倒なほどにのぼり、所謂、前戯を終えるころには、元来精力旺盛な惟之をして、青息吐息という有様にまでなった。

 しかもぐったりして、半ば恍惚となっている惟之を、和胤はことの終わりまで解放しなかった。それから後のことは顔から火が出るどころか、脳が溶けそうになるほどで、思い出すだに、羞ずかしくて堪らない。

 与えられた痛みと言うには違うが、あとで訪れたそれは、すこしからだをひねるだけで腰にはしる痛みと、臀の疼くような鈍い痛みである。

 いま、惟之は寝台のなかでひとり、毛布にくるまって芋虫のように転がっている。起きあがることも叶わぬし、当然和服を着ることなど不可能である。しようがないので素裸のまま、うつ伏したかっこうで芋虫になっているのだ。

 和胤は、明け方まで惟之を―文字通り―貪ったあと、一睡もせぬまま参謀本部へ出勤している。目が覚めて気づいたが、からだはきれいに拭われているし、毛布とふとんでつつんで寝かしつけさえしてくれている。

 和胤が帰ってきて、まだこのかっこうでいるのをみたら、どうおもうだろう。この際何でもいいから、せめて浴衣くらい羽織っておくべきだな、とおそるおそるからだを起こしかけて―

 「う…。い、いけん…これはどうにもならんちゃー」

 いくらも動かぬうちから腰に痛みが走り、妙な呻き声をあげて再び寝台へ身を横たえる羽目になった。ただ、寝返りだけはうてるのに気づいて、ごろごろと行ったり来たりしつつ、気怠さを隠さずにいる。

 仰向けになって、くびを傾けて時計を見あげれば、昼をとっくにまわっていた。午後をまわるなり、階下で物音がして、慌しく階段をあがってくる足音がする。

 「ただいま戻りました、惟之さん」

 軽く叩く音とともに扉がひらいて、軍服すがたの和胤がひょいと顔をのぞかせた。その途端、惟之はくびを引っ込めた亀のようにふとんへ隠れてしまう。

 「まったく、もう…」

 躊躇いもせずに和胤は寝台へ近づき、ふとんを剥いで毛布をつまむとすこし捲りあげた。そこに居る惟之は半ば顔を枕に埋めつつ、しがみつくようなかっこうでいる。うなじや肩先は赤い痕だらけで、それが否応なしに昨晩をおもいかえさせる。ごくり、と喉を鳴らすも、触れた肩が小刻みに震えているのを感じて、眉を顰めた。

 ―やはり、幾らなんでもやりすぎだったか。

 いちど仰向かせて、からだのしたに腕を突っ込むと横抱きではなく、つりあげるように抱きかかえた。腰に負担がかからぬよう、臀を腕で支えながらからだを起こす。

 「おい、おれァ立てんぞ」

 「知っちょります」

 「な、何で知っちょるんじゃ」

 「何でと言われましても…、おれが立てなくしたんですけぇのう。何しろ、あたまに血がのぼって、手加減せんかったので…痛みますか?」

 「ふん、当たり前じゃろ。でなけりゃァ、こがいなとこへ着替えもせんで寝ちょらんわい」

 憎まれ口のひとつでも叩かねば、この場を過ごせない。ことの終わりまでの記憶は定かでないが、そんなものは容易に想像できる。毛布にくるまれたまま、安楽椅子へ移され、甲斐甲斐しく着替えを揃えてゆく和胤のすがたを、目で追う。変わらずいつものようにからだを気遣って、世話を焼いてくれる。

 昨晩、東屋で酷いことを言ったのに、和胤はすこしも乱暴をせずに惟之を抱いた。丁寧で、濃厚極まりない愛撫をうけて、惟之がようやく“陥落”して、ことの終わりまで好きなだけ弄りまわしたからといって、それで和胤の傷ついた心が癒えたとはおもえない。

 そもそも、元の問題からして、解決されてもいない。肌をかさねて互いに心が通ったのかと問われたら、否であろう。昨晩の行為は、確かに甘さだけがあった。和胤がそう意図したものでなくとも、その甘さには目に見えぬ棘があり、蔦のようにからだを這いあがって、惟之の身に喰いついたまま今も離れていない。

 後悔や後ろめたさ、罪悪感といったものが棘の正体で、刺さった傷口からも、それらは滲み出ている。行為から生ずる甘さはすこしも心に沁みず、却って裂かれるような痛みと苦みだけを残した。

 「…のう、和胤。一度言ってしもうたものは、取り消せんが、昨晩のことはおれが悪かった。たとえ百歩ゆずって赦せたとしても、忘れることはでけんじゃろ。…じゃけぇ、これからもおれをいいように扱って構わん。苦しめて、痛めつけても構わん…。なぜ昨晩そうせんかったのか、ふしぎなくらいじゃ」

 「惟之さんを苦しめて…痛めつけて、それでおれの気が晴れるか、喜ぶかするとおもうちょるんですか。昨日も言うたでしょう、あなたが素直じゃーないことくらいわかっちょると。…そりゃァ、あのときは確かに傷つけられたちゅうおもいで、おれも腹を立てましたが、そげなことはもうええんです。何ともおもっちょりません」

 惟之のことばに驚いて振り向くと、しょんぼりとちいさくなって、椅子のうえで丸くなっているすがたが目にはいる。伏せた目は虚ろで暗い。そのうえまだ、からだが震えている。

 「…そうは言うが、おれは―」

 「あァ、もう!このことは二度言っちょります。もし三度目を言わせたら、本当に怒りますよ!意地っ張りで、素直じゃーない。それでいて根が繊細なんじゃけぇ、本当に面倒なおひとじゃのう。おれにだけは、いくらでも甘えてええんです」

 「和胤…」

 そのことばに、惟之は絡まっていた糸が解かれたようで、じわ、と両目に涙をうかべ、両腕をさしのべて抱きついてくる。くるまっていた毛布が腰まで落ちて、目のやり場に困った。それでも、しっかりと華奢なからだを受け止めて抱きしめる。

 「まだ震えちょりますのう…、昨日はおれが何をせるかと、怖かったんでしょう。…もう、そげなことは考えんでください、ね…惟之さん」

 「うん…、もう考えんよ」

 では改めて昨夜の続きを…、と本当はこのまま寝台へ運んでいって、惟之を隅々まで食べてしまいたかったが、和胤は勤務から戻ったかっこうのままでいるし、惟之は朝から食事も摂っていない。

 しかもいまは昨晩とちがい、心置きなく抱きあえているわけだから、残りは夜まで我慢しろ、と和胤はのぼせかけた心を宥めるのに、何度も自身を叱りつける羽目になる。

 いままで生きてきたなかで、自己抑制がこれほどつらいとおもったことはなかった。
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