大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第佰参拾壱話

橘田が打ち明けてくれた話はたぶん、鷲頭はとうに聞いているに違いなかった。それで、嵩利へ再び自身の副官に就いてくれと、いつ切り出そうか、頭の片隅で考えを巡らせているだろうことも、容易に推測できた。

もう軍務に関しては庇わないでくれと言ったことを、鷲頭は承知している。以前のように落ち着かぬ心境に陥ることはなかった。寧ろ、橘田の励ましに千人力を得た心持ちで、嵩利は日常へと還ってゆく。

精鋭の大尉、少佐たちを育て、巣立つのを見送るという、変わらぬ平穏な箱庭のなかにある鷲頭と嵩利が、激震の走る海軍を目撃することになったのは、大正三年の正月も明けたばかりのころだった。

シーメンス事件の発覚である。

海軍の不祥事は、昨年の陸軍に続いた形となり、国民が軍部へ向けるまなざしは益々冷たいものとなった。総理大臣の城内はその矢面に立ち、海軍内の良識派と共に、徹底的に弾劾する姿勢を見せ、ついには海軍から内部告発を引き出すことに成功した。

連日、新聞に海軍腐敗の文字が躍り、海軍艦隊拡張の財源となる税をめぐって民衆は怒りを募らせる。不祥事を働いたのであるから、国民の怒りは尤もである。城内は淡々と真相の解明につとめたが、内閣弾劾決議を否決させるなどして、議会がその足を引っ張った。

何度も暗礁に乗り上げかけながらも究明を続けたが、三ヶ月の後に海軍に於いて責任を追及し得たのは僅か三名であった。海軍予算は大幅に削減され、事態の収拾を見ぬままに、予算案不成立で内閣は三月を以って解散となった。それは同時に、城内の抱いていた”極秘計画”が不完全燃焼に終わることを意味してもいた。

時の海相であった小峰は、後任に予備役海軍大将、成瀬を指名すると職を辞した。

嵐の真っ只中に放り込まれるかたちとなり、この上もない逆境に立たされるという、いわば汚れ役を畢生の職として引き受けた成瀬は、海軍次官に鷲頭を指名する。

汚職について、城内が総理の座にいる間に徹底的に追及できなかったことは痛恨事であったが、海軍は国民へ与えた不信を払拭するために、その姿勢を正すという、ある意味では好機とも言える大きな転換期を迎えた。

元勲たちとの世代交代とでも言えばよいだろうか。これは大分以前から小峰、藤原、城内、成瀬の間で論じられていた構造改革であり、成瀬は躊躇わずに握った舵を大きく切った。

かつての明治海軍に於いて成された、人員整理とは全く性質の違うそれは、あらゆる方面からの批判を生み、海相及び次官へぶつけられることになるだろう。その避けられぬ軋轢の中へ、鷲頭と嵩利は飛び込む胆を決めていた。このとき既に、ふたりに迷いは一切なかった。


―大正三年、三月末。

鷲頭と嵩利には海軍大学校校長、教官という職から、海軍省出仕という辞令が出た。ほんの束の間の―或いは最後の休息ともいえる時間が、鷲頭邸に流れている。

ひともとの桜の樹が庭で花を綻ばせている。それを、ふたりは前庭の縁側に並んで腰掛ながら、飽かず眺めていた。

「橘田くんは、この事件が起こることを予測…というよりも確信していたようだな。だから、海へ出る前にそれとなく、きみがその時になって動揺しないように気遣って告げたんだろう」

伊達に英国に長年居たわけではなかった。駐在武官として、かれは実に多くの人の流れを見つめてきていたのだ。今事件に於ける海軍の内部告発も、もしかしたら橘田だったのかもしれない。

「そうですね、きっと…。でも、ぼくには春美さんがいますから…。だから、何があっても大丈夫ですよ。多分、これからも、ずっと」

そう言いながら途中で照れて、しまいのほうは小声であった。片腕をあげて頭を掻く仕草をしながら立ち上がる。沓脱ぎ石に揃えた下駄を突っかけて、ひょいと庭へおりた。嵩利は那智から贈ってもらった、大柄な縞の入った黄八丈を着流しにしている。黒っぽい帯が小粋を飾ってい、陽灼けした精悍な肌色にとても良く似合っていた。

「多分とは、聞き捨てならんな」

鷲頭も同じく黄八丈だが、淡く色合いの繊細な堅縞で、落ち着いたものを着ている。鷲頭は伴侶の身動きをじっとみつめていた。東屋のなかから縁台を持ち出してきて、桜の樹を中心にして幾らか距離をとって、花を見上げつつ、きっちりコンパスで測ったように半円を描きながら歩いている。

砲術の計算式がそこに浮かび上がりそうな、几帳面な測定を眼にして、鷲頭は笑みを禁じ得なかった。やがて納得がいったのか、やっと縁台を設えると、嵩利は鷲頭を振り返って笑顔をみせる。そこで花見をしようというのだろう。

庭へおりて伴侶の近くへゆき、鷲頭は手を伸ばした。指を絡めて軽く握りながらそっと引けば、嵩利は逆らわずにふわりと傍へ寄り添う。

「今日は酒にするか」

「ええ。たまには、いいですね」

もうこのような時間が、いつ取れるかわからない。鷲頭の飲酒について普段口煩い嵩利が、いちにもなく頷いた。笑顔は屈託なく、悲観や不安のかけらもない。ここに居る限りは、あらゆる憂いをいっとき傍らに置いて、好きなだけお互い甘えるということを家訓にしている。
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| 綿津見の波の色は・131―140話 | 21:46 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

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  綿津見の波の色は・第佰参拾弐話

ふたりは、約束をした。

どんなに軍務に追われようとも、赤煉瓦や水交社へ泊まるようなことはせずに、必ず帰宅すること、自邸に於いて軍務は一切持ち込まず、話題にも出さぬこと、というふたつである。

「春美さん、それを…守れますか?」

室内から持ち出してきた小さな卓へ酒肴を揃えていた嵩利は、手を止めて首をかしげながら鷲頭の顔を覗きこんだ。

海軍次官が赤煉瓦に泊まりこむ事態になる、というのは起こらないにしろ、軍務を自邸へ持ち込まずというのを守り通せるかとなると、それはいささか、信頼の置けぬ話になる。

「きみこそ、泊まりこむはめにならぬと、断言できまい」

意地悪く問うてくる。鷲頭の前に置いた猪口へ酒を注ぎながら訊き返すが、それは殆ど確信めいたものを含ませた訊ね方だった。

「そうなる前に、ぼくを海軍省から連れ出してくださいますよね?」

「海軍次官に…そんな振る舞いが許されると思うのか」

目許に僅かな動揺がうまれるのを、嵩利は見逃さない。

「もう…、すぐそうやって固いことを言うんだから、春美さんは…」

そんなことを言い合いながら、酒を酌み交わす。

約束といっても、必ず守れるものでないことは、互いに承知している。かといって他愛のないものというわけでもなく、こうして作り上げてゆく心の支えは、難局へ立ち向かう糧となり得る。

「この約束の発効は、何時からだ?」

何か思い出したらしく、話したそうな顔つきで訊いてくる。嵩利はちょっと唇を尖らせて、猪口の酒を干しながら、ぷいと横を向く。折角ふたりきりの時間なのだから、軍務に関する話など聞きたくなかった。

「先刻から、です」

「…何だ、拗ねているのか」

「別に、拗ねてなんかいません」

「そうは見えんがな」

たん、と卓を叩くようにして猪口を置き、嵩利は自身の酔い加減と、欲求とを測ってみて、それから、ちらりと鷲頭を横目で見やった。眉を寄せ、戸惑いをのせた眼の色が窺えた。すっと身を寄せて、我儘と甘い誘いを笑みに含ませながら、嵩利は間近に鷲頭の顔を覗く。

妖艶なまなざしを向ける嵩利の様子に、鷲頭は僅かに気圧された。

「何故…、ぼくが拗ねていると思ったんです?」

「先任副官、大臣秘書官、その上に軍事参議官副官。これだけで既に…、きみが赤煉瓦で缶詰にされるのは目に見えている。わかるだろう、きみは多くの信頼を得ているのだぞ。私情で勝手に―」

首をかしげつつ、甘い棘を含んだ問いを囁く嵩利。眼に強い光を閃かせたのを認めて、鷲頭はぎくりとする。態と怖い顔つきをして、懇々と説教を始めるも、只の照れ隠しとすぐに見抜かれる。こうなると滅多に脱がない殻を、嵩利に暴かれるのも時間の問題である。

蠱惑的な笑みを浮かべて、淀みなく響く諭す声を聞く。いつまでも聞いていたい声には違いないが、嵩利は、ひとさし指を唇の前に立てて翳した。それだけで、海軍次官鷲頭春美中将は言葉を継ぐ術を奪われる。

「ねえ、春美さん。ぼくを海軍省から連れ出して、ここへ帰って来たくなるようにしてさしあげましょうか…?」

その気になれば嵩利は、鷲頭を存分に酔わせることが出来る。以前それは証明されたわけだが、多分に積極的な態度を見せることは稀で、あの一度があった後、機会はなかった。

鷲頭にとってそれは半ば、禁断の領域になっている。この世にふたつとない妖花の、滴る蜜のなかへとっぷり溺れたいということを、心の奥底で懇望してきた。

言うなれば矜持の強い鷲頭は、なかなかその姿勢―生き様―を崩すということができない。殻を脱ぎ捨てた鷲頭は、ある意味では嵩利以上に純粋であり、剥きだしになったかれを、余すところなく愛する術を、嵩利は持っている。

どぎまぎと狼狽をみせる鷲頭の手を取って席を立ち、嵩利は振り向かずに手を引きながら東屋へ歩みを進めた。その髪や肩に、はらりと桜の花弁が舞い落ちてくるのを、鷲頭はまるで夢のなかにいるような風にして見ていた。
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| 綿津見の波の色は・131―140話 | 19:46 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

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  綿津見の波の色は・第佰参拾参話

東屋へ入ると、嵩利はきびきびと室内を動き回る。海軍士官の身形でなくとも、やはりその匂いは消せないものだな、と鷲頭は妙な感心をしつつ、姿を目で追いながら畳へ腰をおろす。押入から枕をふたつ取ってきて、鷲頭の傍に置いてゆく。

「ふとんを敷きますから、枕をお願いします」

「ん、これか」

近くの棚にある白いさらしの掛け布を取りにゆき、新しいものに換えた枕を両手に抱えていると、それらがさっと取り上げられる。褥に並べられる枕へ何とはなしに眼を向け、それから敷布と上掛けを整えている嵩利を見つめたが、すぐにそこから逸らせる。

「もう、いいですよ」

程なくして支度は済む。どことなく所在なげにしている鷲頭をみあげて、嵩利は首を傾げたが、すぐにくすくすと可笑しそうに声をたてて笑う。流れるような所作で片膝をついていた姿勢から立ち上がるなり、鷲頭の傍へ寄る。

「どうしたんです…、春美さん?」

首へ腕を絡めて引き寄せながら、耳へ囁く。滅多に愛情を”受け取る側”に回らぬ身ながら、こうして髪を梳く指を感じるだけで、心を解き放つ気持ちになれる。逆らわず、愛撫に身を任せて導かれるままに、寝具へ身を横たえる。

横臥して緩く抱き合う間に帯を解いて、黄八丈の素朴な色柄が、ふわりと畳の上へ広がった。惜しげもなく晒される褐色の肌は、日々の鍛錬を欠かさぬことで、逞しさをそなえつつある。ひところに比べると、少年めいた華奢な印象が薄れていることに、気づく。

組み敷く姿勢で鷲頭へ覆いかぶさり、心持ち眼を合わせるのを避けるようにしているのを認め、掌で頬を撫でて包む。目許をほんのりと朱に染めて、鼓動が高鳴っているのを、重ねた肌で直に感じ取る。

厳しく結んだ唇を奪い取り、じっくりと深い口づけを与えた。一度舌を蕩かせてしまえば、嵩利の愛撫に応えて、低く喘ぐ声を引き出すことが容易になる。受身に徹することに鷲頭は大分慣れたと見えて、息を継ぐ間だけ嵩利の唇が僅かに離れるとき、甘さの混じった吐息をつく。からだを弛緩させて、寛いでいるときと何ら変わりがない。

普段は鋭い眼に陶酔の色が浮かぶと、嵩利は愈々、その肌身に唇をつけてゆく。長身の、均整のとれた鷲頭の逞しい肢体は、嵩利にとって密かな羨望の的である。どう足掻いても得られぬと分かっているが、海軍に入ってから華奢なからだを羞じて地道に鍛えることを続けてきて、いまはそれなりに軍人らしい体つきになっている、と思う。

「う…ッ」

舌を這わせていた首すじへ、いきなり歯をたてて咬みつく。深い愛情の中に羨望を滲ませての行為とは知らず、鷲頭は疼痛に顔を顰めて呻いた。胸に遊ばせている指さきで、乳頭を捏ねくっていたが、膨らみをみせたそれを抓みあげてやや乱暴に弄る。

ぴくり、と体が跳ねるのを感じて、嵩利の中に浮かんだくだらぬ嫉妬が溶け消える。雄々しさを表す鷲頭の肉体も、嵩利の愛撫に対しては、意外な敏感さをみせるのだ。富嶽よりたかい矜持と、金剛石にまさると囁かれてきた頑固さを溶かし得て、八年経った今、鷲頭はこのような一面を嵩利に見せている。

「嵩利、そこは…駄目だ…」

「虫がいいですよ、春美さん。昨晩こんなに、ぼくにはつけたくせに」

そう言って抗議の後続を断つ。肌に花弁を刻むに、場所を選ぶなどという真似はしない。たとえ海軍次官で、厳しい執務机につく身でも、今は違う。嵩利にとって鷲頭は骨まで沁みいるほど愛している唯一人の男である。

耳朶のうしろへ吸いついていた唇が離れると、鷲頭は喉の奥で唸るような声をあげて、あからさまに不服そうに眉を顰めた。しかし叱言は漏れない。

「そんな顔をすると、あからさまに分かってしまうところへつけますよ…?」

「…すまん…」

我ながら情けない、といったものを滲ませて、まなざしに謝意をのせるとちいさく呟いた。これで益々、嵩利に主導権を握られたことになる。嵩利の小悪魔のような笑みを見上げながら、鷲頭は内心でこもごもを含めた溜め息を漏らした。

互いに同じだけ熱を持った下半身を意識し始めると、嵩利は手を滑らせ、胸から腹筋を撫でながらおろしてゆく。開かせた脚のあいだに屹立する、雄の象徴を掌中におさめて、雁首へ唇を触れさせ、舌先でちろりと舐めてから口腔へ沈めてゆく。滴るような水音をたててそのものを昂ぶらせながら、内腿から臀を撫で上げた。

「ん…、んッ」

臀の肉をゆっくりと揉みしだくと、鷲頭の唇から篭るような喘ぎが漏れ出る。快楽を感じていることを羞じいるようなそれを耳にして、嵩利の中に欲望が沸き立った。半ばまで追い立てた雄から唇を離すと、鷲頭の顔を覗き見る。頬を上気させて半ば瞼を閉じ、快楽にたゆたっている。艶の浮いた精悍な顔が、ひどく情欲をそそられる。

「春美さん、素敵です…」

その頬や額に唇を降らせながら、もっと見せて、と囁きかける。絡み合うようにして抱きつきながら、嵩利は鷲頭を俯かせた。背筋に沿って撫でおろし、双丘へ辿ると両掌で揉みながら開かせる。

拓いたことのない秘所が、嵩利の前に現れる。枕元に用意しておいた小瓶から掬い取った軟膏を後孔へ塗りつけて、指さきを沈めた。内壁をゆるりと撫でまわして、拡げてゆく動きに、ぎこちなさはない。この身に染みこんでいることを為すのみで、躊躇いもない。

「大丈夫ですよ、いつも、こうして貰っているでしょう、ね…」

感じる場所は心得ている。蕩けた軟膏を纏わせた指で正確にそこを捉えて、擽ってゆく。少し浮かせた腰と寝具の隙へ手を差し入れて、昂ぶったものを握りこむ。鷲頭の雄は旺盛な精力を示す。快楽に応えるたびに、別の生き物のように掌中でびくん、と力強く跳ねる。

「あ、ぁ、嵩利…」

引き締まった腰が幾度も跳ねて、くねる。うつ伏せた恰好で、枕に縋りつくように抱きついている様が、いじらしくて仕方がない。

「もう少し、我慢してくださいね」

昨晩、嵩利を貪り尽くした獰猛なそれを感じさせながらも、鷲頭自身は後孔を拓かれて羞恥と快楽に酔って喘いでいるというのは、奇妙な差異である。見たことも聴いたこともない、鷲頭の媚態に、嵩利の男の性がむくむくと頭を擡げる。

今更、行為に及んでもよいか、などと訊くことはしない。嵩利は熱とともに蕩けてゆく体内を確かめつつ、慎重に拓いた後、顔を半ば埋めている枕を、その腕から引き抜きながら鷲頭を仰向かせた。

上気した頬と艶めいた切れ長の双眸。体の熱と、鼓動のたかさと、甘い吐息。五感を余さず擽る鷲頭の媚態がそこにある。嵩利は思わず息を飲んだ。

絡めた眼差しは、互いに燃えるような情欲と愛情に満ちてい、初めて鷲頭の後孔へ自身の雄を触れさせることに、嵩利は何か背徳的な甘美ささえ感じながら、雁首を拓いたそこへ沈めて、ゆっくりと内壁を抉って貫いてゆく。

「あ、ぁ、ぁ…!」

乗り上げるようにして覆いかぶさった嵩利のしたで、初めて伴侶のものを受け入れた鷲頭はやはり、雄々しさを残した羞じらいを見せたままで、低く艶めいた声をあげた。
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| 綿津見の波の色は・131―140話 | 22:19 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

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  綿津見の波の色は・第佰参拾肆話

何処か捨て切れぬ自制心のなかで、与えられる快感に酔うことは、確かに”発する側”にいるときと違ったし、それは嵩利に於いても同じであった。

涼やかなやさしい声で、鷲頭に囁きかける言葉は愛情に満ちたもので、安堵をおぼえさせるに充分なのに、その臀の奥へ沈めた雄は反して、全く獰猛であった。欲の向くままに、鷲頭のからだを貪り続けて、男の性を剥き出しにしている。

荒くなる吐息はなお妖しさを含み、行為に耽る嵩利の表情は、陶酔するそれに変わってゆく。両手は鷲頭の胸へただ触れているだけでなく、指さきで絶えず、膨らんだ頂を弄っている。

与えられる快楽に翻弄されつつも、鷲頭は相変わらず、耐えるように短く喘ぐ声が漏れるだけであったが、からだが如実に応えている。

鷲頭の体内は、温かくやわらかで、じっとりと濡れている。嵩利の腰のうごきに合わせてぬるりと蠢動し、収縮を起こす。猛った雄を締めつけて吸いついてくるが、包みこもうとする内壁に嵩利は自身のものを委ねることなく、攻めたててゆく。

そうして得る快感は言うまでもなく、それらの触感だけがもたらすものではない。

淫らな、とひと言で括ってしまうには、あまりにも勿体ない、落ち着いた艶を浮かべている表情。それが羞恥と快楽の狭間で苦しげに歪み、歪んだかと思えば、耐え切れずに快楽に酔って低く喘ぐ声が、嵩利の耳朶をうつ。

「く、ぅ…」

「春美さん、顔をよくみせてください…」

胸を弄っていた手を伸ばして、横へ顔を向けてしまった鷲頭の頬に触れ、やさしく撫でながら、囁いて強請る。その仕草、声音ともに普段と何ら変わりはないというのに、嵩利の施す行為は嵐にうねる波の如き激しさで、一向に緩む気配がない。

今、この身を抉るものは、何だ―

熔かされた思考を漂わせて、鷲頭は臀の奥まで衝きこまれた嵩利の雄を感じ取ろうとした。妖花のなかに覗く、芳香をはなつ粉を纏わせた、ねっとりとした花の蕊を思い浮かべる。圧し掛かってくるからだから、男の餓えた欲が滴っているというのに、妖花の色をもそなえているのだから、敵わない。

―いつまで強情を張っている積もりだ。そんなものは手放してしまえ、春美―

そう、心に囁く声を無視できなくなりつつある。他の誰でもない、この世で最も愛している男のものを受け入れているのだ。羞じ、躊躇う必要などないではないか―

「っく…駄目だ…嵩利…、そんな風に見下ろしていないで、抱きしめてくれ…」

一瞬、眉を顰めたあと、初めて鷲頭の唇から懇願が漏れて、嵩利は思わず眸をまるくして、かれを見つめてしまった。嵩利の腕のしたで、心細いような表情が垣間見えている。いつものように、やさしく囁いて、髪を撫でてくれと、まるでこどものような眼を向けてくる。

「春美…さん」

鷲頭の変化が余程嬉しいと見え、嵩利の眸は潤んでいた。忽ち、女神の如き慈母の笑みが零れて、両の腕が背に滑りこむと同時に、あたたかな褐色の肌が、鷲頭のからだに重なった。唇はおろか、頬といわず耳朶といわず、くちづけが降ってくる。

―もうこのまま、全て蕩けさせて、ぼくのなかへあなたを、閉じこめてしまいたいです―

耳へ甘く囁かれたあと、忘れていた衝撃が鷲頭のからだを貫いた。からだが絡み合い、妖しく蠢くたびに、繋がったそこから濡れた水音が響きはじめる。

このまま、溶け合ってひとつになれたなら、何の不安もない穏やかなあたたかい海のようなところへ、ゆけるのだろうか。戯れでしかない考えも、今ならば本当にそこへゆけるような気がしてくる。

「きみ…だけだ、私は―きみになら、飲まれてもいい…嵩利―」

―愛している―

頭をかきいだくようにして、確かにその耳へ囁いた。
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| 綿津見の波の色は・131―140話 | 20:16 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

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  綿津見の波の色は・第佰参拾伍話

軍務局長のときとひとつだけ違うのは、副官の部屋と扉で仕切られていることくらいで、嵩利はその、次官室の隣で机に向かっていた。

始業からずっと、もう昼近いというのに一度も顔をあげていない。大臣から依頼された書類をせっせと拵えているのだろう。扉は開け放してあるが、それは鷲頭がそうしてくれと言ったからで、何も不行儀なわけではない。

次官の椅子に鎮座して、鷲頭は何時にも増して嶮しい表情をしているが、これは軍務に於いて深刻な事態が起きたからとか、そういった理由ではない。

「次官、これで宜しいでしょうか」

明瞭で涼やかな声に続いて、隣室から嵩利が姿をみせる。ほんの僅かに背筋が痒くなって、鷲頭は内心で自身を叱咤しつつも、じろり、と伴侶である副官を睨みつけるようにして見返す。

「幾つか、案件を纏めてみたのですが…」

机の前で暫し逡巡したのち、おずおずと声を掛けてくる嵩利の表情に、昨日の面影は何処にも見当たらない。

―まったく。あれだけのことをしておきながら、今更羞じ入るとはどういうことだ―

八年目にして、初めて及んだ行為なのだから無理もない。と分かっていながら、内心で悪態をつかずにいられない。男らしさを具えた嵩利の変化は喜ばしいが、まだ同居している初心さが疎くもあり、愛しくもあるから非常に困っている。

―私も今回ばかりは、嵩利を責められぬ立場だがな―

と、そこまで独白したところで、再び嵩利の声が届く。

「…あの…」

「書き上げたのなら、置いていきなさい。まだせねばならぬことがあるだろう」

「は、はい」

「昼食の手配は、してくれているのだろうな?」

「それは、朝に済ませてあります」

「ならば宜しい」

行ってよい、と身振りで示すと、嵩利はしおらしく副官の執務室へさがってゆく。


―結局。昨日は昼過ぎから東屋で行為に及んだのち、夕刻にいちど風呂へ入ったほかは、夕食もそこそこに、お互いに昂ぶり、溶け合った心身を離すまい、と鷲頭の寝床へ傾れこんだのである。

深更を過ぎるころまで、嵩利にたっぷりと愛された身を、こうして海軍省へ引きずるようにして持って来ている。それで今、鷲頭は立ち上がっても、ゆっくりと歩むのが関の山という有様なのである。

正確に言えば、端正な姿勢を崩さずにからだを動かせる速さが、その程度なのだ。

空気をも切るような普段の精彩を欠いているが、周囲には泰然と構えて、絶えず眼を光らせているように映るらしい。そんな鷲頭をますます、怖いものでも見るような目でみている。

次官にまでなって、優秀な副官もいるのだから、椅子に鎮座して動かないというのは、ある意味ではおかしい話ではない。しかし、鷲頭はおとなしく椅子に座っていられるような性格ではないし、大臣の成瀬はさっそく海軍内の構造改革に手をつけたがっている。

その支えとならねばならぬ身で、じいっとここへ座らざるを得ない状況をつくりだしてしまったわけで、軍務に厳粛である鷲頭からしてみれば、こうした状態でさえ、”私事”で疎かにした、という認識が生まれてくる。

その認識に反して、実際は軍務には何の滞りもない。成瀬海相から何かせっつかれているわけでもない。

―これは、また、私の要らぬ矜持というやつだな―

これまで何度、嵩利絡みでその信を枉げたか知れないのだ。今日くらいは、このようにして過ごすのも良かろう、と鷲頭は漸く眉間をやわらげた。
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| 綿津見の波の色は・131―140話 | 21:23 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

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