大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第陸拾壱話

 嵩利が横須賀鎮守府を訪れたことなど、露ほども知らず、鷲頭は参謀長執務室に居て、終業の時刻になると城内のもとへ顔を出した。

 「ああ、何だか先刻、きみのご令息がこれを届けに来てくれたようだけど、ぼくたちの所へまでは、挨拶に来てくれなかったようだネ」

 妙なこともあるものだ、と言いたげな顔つきで城内は一冊の封書を掲げてみせる。それは軍務局長からのものであったが、わざわざ先任副官が直に届けにくるような代物では、到底無かったからである。

 今の城内の言葉だけで、鷲頭の胸は激しく躍っていた。それでも、外見だけは冷静に装って、言葉を紡ぐ。

 「他にも、何か命令を帯びていて、そのついでだったのではありませんか」

 「いや、それは無いよ。あれば一寸くらい、きみか、ぼくン所へ顔を出すでしょ。おかしいねえ」

 鷲頭は、いまの嵩利の上官である、有元のことは良く知っていた。何に於いても切れ者であり、明敏、活断の士といった性格で、組織を率いてゆくのに相応しい。

 そんな有元が、ただの使いに先任副官を寄越すはずがない。

 確かにおかしい、と鷲頭も首を捻らずにはいられない。庁舎に連絡を残していないのなら、官邸のほうへ訪ねるか何かしているのではないか。そう考えると、逢いたさ募って確かめずに居れず、直ぐに鎮守府を辞して帰宅の路を急いだ。

 嵩利に逢えるのならば、逢いたいとおもっている。かれの急な異動が決まって―その理由も知っていたが―、三笠からの帰還を出迎えてやれると、密かに喜んでいたのが虚しくなって以降、ひと目も顔を見ていないのだ。

 そして官邸へ帰ってみれば、やはりここへ訪ねてきた旨を、ふたりの婦人から伝えられる。状況を聞いてみれば、嵩利はどうやら休暇であるらしいことがわかり、鷲頭は内心で悔しがった。

 「―鷲頭くん、今から追いかければまだ捕まるンじゃないの?もう、あの件はあらかた片付いたし、書面に纏めるのは、何も今日でなくていいんだからネ」

 と、暫くして城内から電話が掛かってきて、それで今日から明日にかけての用事が立ち消えになる。鷲頭は軍服のまま、すぐに官邸を出て行った。外に出たはいいが、嵩利が何処へ行ったのかなどわからない。この半日と明日しかない休暇なのだし、帝都へ戻っている可能性が高いだろう。

 それでも間に合えばと、駅へ出向く。無駄足になっても、そのあと一通り、海軍士官が訪れそうな場所へも行ってみる。歩き回って、一休みにと水交社を訪れたころには、午後三時をまわっていた。


 ―あの日、海軍の中にある“腐った膿”をひっそりと暴き出して葬る前に、城内は鷲頭にことの事実を語った。もっとも、城内流のやりかたであるから、本当は見るのも聞くのも耐えぬ程の、おぞましいスキャンダルだったわけだが、それを悟られぬよう、巧く伝えたのである。

 とにかく、鷲頭はその事実から、何よりも愛している嵩利が、敵視されていた者たちからつけ狙われていたことを知り、だからいま、余計に逢いたいという気持ちがこみあげているのだ。

 何故こうも、すれ違ってしまうのか―

 浅田や新見、守本たちの手によって嵩利が護られているとわかり、横須賀に居ても安堵はしていたが、やはりこの手で確りと、一度だけでもいいから抱きしめてやりたかった。

 嵩利は勿論、この騒動のことなど一切、何も知らされていない。何か、不穏な気配くらいは感じたかもしれないが、それだけの筈である。

 三笠の艦上で、最後の手紙を落手して以降、鷲頭から音沙汰がないことも、嵩利のことであるから黙って飲み込んで、我慢している。それは、異動になってからも、一切連絡を寄越さないことからもわかる。従容として状況を受け入れ、今日のような日が来るのを、ただ待ち続けながら軍務に励んでいたにちがいない。

 鷲頭はどうしても嵩利の片鱗に触れたくなって、横須賀の街へ戻り、あの小ぢんまりとした洋風の家へ、足を向けた。今まで手許に届いた、かれからの手紙は、あそこへ大事にしまってあるのだ。
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| 綿津見の波の色は・61―70話 | 00:58 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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  綿津見の波の色は・第陸拾弐話

 紫檀の円い洋机には、擦り硝子の笠が鈴蘭のようなかたちをしている、ちいさな照明が据えられ、栞の挟まった本と、その隣には小振りの桐の箱があった。

 そういった部屋の様子から、鷲頭がこの家へかなりの頻度で訪れているのがわかり、やはりあまりに華美なあの官邸では、落ち着いて過ごせていないのだと、思い当たる。

 庭へ目を向ければ、午後の傾いた陽が芝生に降りそそいでいる。鼻をくすぐる草の匂いに、ふと、乾いた草へ足をつけてみたいと思い立ち、テラスで靴を脱ぎ、跣で踏み出してゆっくりと歩んだ。いつか片瀬の丘のうえで、ふたりでこうして土と草の感触を楽しんだことを思い出す。

 幾ら夏の名残があるといっても、やはり秋である。庭の真ん中で腰をおろしてみれば、あちこちに咲く秋桜が微風に揺れていた。淡い花の色と、繊細な茎と葉をもつ姿は儚げで、いまの嵩利の心をいっそう切なくさせた。

 休暇を貰っても、天真爛漫に咲く向日葵はしおたれたままで、いっこうに生き生きとした姿に戻れない。幾らか体の疲れは取れても、こもごもの物を抑えて飲み込んでいる心だけは、最も逢いたい人に癒して貰わねば、完治は難しい。

 ため息と共に仰向けに寝転がれば、風景は一転して、秋を告げる高い雲のたなびく青空が広がって、そこだけ見つめていると、何とはなしに海を連想させてくれる。それが慰めとなって漸く心地よさを感じ、掌で短く剪り揃った草を撫でながら、陽の温もりを感じながら、それらに身を委ねて、瞼を閉じた。

 ―もうすこし陽が翳ったら、中に入ろうかな。

 このまま、ここに居て夜を過ごせば、確かに余計寂しくなるだろうという予感はする。けれども、今日訪ねて会えなかったことを手紙へ書いて、ここへ置いて帰ったとしたらどうだろう。

 幾日も経たずに、鷲頭はきっとそれを読むに違いない。そうすれば今度こそ、必ず逢う時間を作ってくれる。そのことは期待しても、裏切られることはまずない。

 そう考えると急に気持ちが軽くなった。今まで塞ぎ込んでいたのが嘘のようである。ほんの少し口許を笑ませて、風がさやかに吹き渡り、草や樹々をざわめかせる音を聴きながら、心地よいまどろみに落ちる。

 夢の中で、嵩利は片瀬の浜辺にいる。こんもりと緑の繁った江ノ島が、陽炎のようにゆらぐ海の向こうに見えている。すぐ近くで、ちりん、と澄んだ風鈴のような音が時折きこえて、それは何故か耳に鋭く届く。

 「嵩利」

 はっきりと名を呼ばれて、それが為に意識が表層へ浮かぶのを、歯痒くおもう。いまここで振り向けば、逢えるのに、そう都合よくゆかないのが夢の常である。

 掌に触れる草の感触に、肌に感じる陽の温かさ。そうした感覚が体へ戻ったとき、夢のなかで聞いた、ちりん、と澄んだ音が間近で響いて、嵩利は薄く瞼を開いた。

 眼前に揺れる金色の飾り紐に提がる、四つ桜花と二つ錨の意匠が彫られた石筆。それが揺れて触れあい、もう一度澄んだ音をたてるのを、浮かんだばかりの意識のなか、聴き取る。

 ―あァ、なんだ…この音だったのか。

 その権威の象徴は、眩しい白の夏軍服に映えている。未だ夢を見ているのかと、また瞼を閉じて、触れられぬそれに手を伸ばせば、今度は熱い掌に確りと掴み取られる。存在を確かめるように何度も握り直され、包まれた。

 「瞼を開けたら、居なくなったりしませんか?」

 「馬鹿者。それは私が言いたいことだ」

 錆のある深い声が、上から降ってくる。低く叱咤する、囁くような声は確かに震えていた。自然と、堪えきれない涙が溢れて、目尻から零れ落ちる。そう易々と涙を見せる軍人が何処にいるかと、呆れられても、怒られてもいい。

 未だ瞼を閉じたままでいたが、ぐっと腕を引かれて抱き起こされ、次の瞬間には痛いほどの抱擁を受ける。いつか手紙に臆面もなく書かれていたことがあったが、全身全霊を込めた愛を、嵩利へ注がんばかりの強い抱擁であった。

 「心労をかけさせて、済まなかった」

 漸く身を離して言った言葉がそれである。もう何の心配も要らない、不安に怯えることもない、そう言う鷲頭の顔を、嵩利は今度こそまじまじと見つめた。徽章の輝く日覆いの掛かった軍帽のしたには、嶮しい眉間に、切れ長の眼が僅かに揺れている。

 隆い鼻と少し削げた頬、鋭敏さを示す少し先の尖った耳と、薄くたてた鼻下の髭に、への字に結んだ唇。毎夜ねむるまえに思い浮かべていたその貌を、伸ばした指先で順に撫でて、微笑む。そこまではいい。あとは唇が震えて、肝心の言葉が出てこず、瞬くとまた涙が零れた。そんな嵩利をみても、鷲頭は怪しからんとも何とも言わない。

 涙の伝った頬を掌で包み、顔を寄せると唇を攫う。確かめるような柔らかなもので始まり、やがては深く交わる。しかしいつかのように、ただ翻弄するような強引なものではなく、嵩利が継げないでいる言葉を受け取ろうとするかのような、甘くやさしいものだった。
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| 綿津見の波の色は・61―70話 | 20:17 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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  綿津見の波の色は・第陸拾参話

 長いくちづけは、確かに嵩利のからだを疼かせはした。だが徒にその欲を煽るような、そんなものにはならなかった。唇を離したときには、言葉はなくとも、まるで幾千の会話をし尽くしたかのようで、心へ溜まりに溜まった澱が、溶けて消えている。

 ―もう、大丈夫。

 腕にゆるく抱かれながら、いつもの明るい笑みを浮かべてみせるが、鷲頭は何故か眉を顰め、苦い顔をして首を振る。

 「私の前で無理をするな」

 お見通しだと言わんばかりに、乱雑に頭を撫でられ、嵩利は観念して、ふっと肩落とす。麻の白い軍服に包まれた厚い胸へ掌を添えて、そこへ憩うように頭を凭れさせた。

 幾度も頬ずりをして甘えながら、鷲頭の名を呼ぶ。それには、うん、と喉の奥にこもるような低い声で答えただけで、あとは黙って、嵩利を両の腕に閉じ込める。

 そうしながら、幾らか痩せたらしいことを確かめる。立襟に少し隙が空いていて、えりあしから項を、指さきで掻くように擽ってやると、くぐもった声をあげた。

 衝動を堪えつつも、労わるようにして華奢な肩をさする手つきは、しなやかな背筋に沿って腰までを、幾度も撫でるにつれて、僅かずつ変わる。

 その緩慢な愛撫は、嵩利の鋭敏な感覚を刺激するには充分で、腕の中で弛緩しきっていたからだが跳ねて時折くねる。耐えかねてか、身震いをして吐息を漏らし、ただ凭れていただけの胸元を、きつく掴まれた。

 「春美さん、だめ…」

 軍務に就いている姿のままでいる鷲頭に、このような振る舞いは相応しくない。そうおもって、腰をさぐる手を押しとどめながら、からだを離す。

 半年の間、ずっとこのひとの温もりに餓えていたのだと、ささやかな愛撫にすら、反応をみせてしまう自身を羞じる。芝生のうえに立って、一歩そこからさがった。

 「何故、拒む」

 叱咤するような声に振り向けば、鷲頭は姿勢よく佇んでいる。軍帽の庇のしたから、鋭い眼に射抜かれて、どきりとする。後ろめたさから、そのような意図で触れたのではないのだぞ、と憤慨しているように見えた。

 「ぼくに触れるとき、今までそのような身形でいたことはないでしょう。軍務に就かれているときの姿で、こんなことは―」

 「きみは、私の何なのだ。養嗣子ではあるが、私にとっては伴侶に等しい。いわば半身へ触れるのに、それもいまは二人きりで居るというのに、未だそのようなことを気にせねばならんのか」

 「―っ!」

 憚らず睦みあえる間柄になってから、陸と海に別れ、半年以上もひと目も会えずに居て、嵩利を想い焦がれていた身にとって、身形などという観念はとうにない。

 だが、それでまったく分別がなくなったわけではない。厳格極まりないといっても、鷲頭とて箍が緩むときがあるのだ。

 でなければ、半ドンで軍務を切り上げた士官たちが、大勢繰り出す横須賀の街中を、少将参謀長の身形で人目を憚らずにセカセカと歩き詰め、処構わずに愛しい者を探すような真似などしない。

 それを聞いて、嵩利は逆上せたように真っ赤になっている。この場でへたりこむ前に、脱兎の如く、テラスから室内へ駆け込んでしまいたかった。
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| 綿津見の波の色は・61―70話 | 23:59 | comments:1 | trackbacks(-) | TOP↑

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  綿津見の波の色は・第陸拾肆話

 明らかにうろたえて、成す術もないといった様子で立ち尽くしている嵩利を目にし、苛立ちを押し殺すように息を吐き、鷲頭は身を翻した。あとには目もくれずに室内に引っ込んでしまう。

 嵩利はその背を目で追いつつ、今まで遣り取りをしてきた手紙の内容を思い出す。これがあの鷲頭かと目を疑うような、包み隠さぬ愛を示す言葉が詰まっていて、普段は口に出さぬだけで、その内には烈しい想いが在ることを、つくづく感じたものだった。

 そしてこのように、形振り構わぬ振る舞いや物言いを時折するのは、やはり不器用さからであるが、内に溜め込んだ想いの発露であるのはわかる。

 手紙のみならず、こうして臆面もなく真直ぐに告げられれば、正直に言って嬉しい。それなのに嵩利は未だ、それらに込められた想いを、上手く受け止めることができていない。しかも、自身の気持ちを素直にぶつけてよいのだと、わかっていても、肝心なときになるとそれができない。

 暫く、あたまの天辺から湯気を立てて、我に返る。そうして落ち着かぬまま室内へあがれば、鷲頭は敷物のうえに、怖い顔のまま腰をおろしている。

 まだ頬を染めている嵩利へ一瞥をくれ、無言のまま、ここへ来い、と膝を叩く。それに従い、かしこまって鷲頭の傍へ寄り、膝をつくと、即座に腕を掴み取られて、腿へ座らされる。支えるように背に腕をまわしかけただけで、鷲頭は嵩利へそれ以上触れようとしない。

 間近に、鷲頭の横貌がある。棘のある気配も、嶮しい眉間も、只の不機嫌や苛立ちから来ているのではない。無言の訴えが含まれている。それを溶かせるのは唯一、嵩利の言動だけだ。

 手を伸ばして、空いている右腕の袖をつまんで引く。普段ならばそれだけで効く仕草も、今日は通用しない。嵩利は、こくん、と喉を鳴らせて、羞じを飲みこみ、鷲頭の手を握ると自身の胸元まで導いて、高鳴っているそこへ押し当てた。

 「触って」

 擦れるような声で囁くと、鷲頭は置かれた場所へ掌を添える。僅かに、撫でるような手つきをするが、すぐに止む。この程度の強請りかたでは、鷲頭の機嫌は直らないらしい。

 「それだけか?」

 慌てて首を振るが、羞恥に溶けそうな思考のなかで、言葉がまとまらない。鷲頭が生み出すこの空間はどこか残酷で、それでいて限りなく甘い。その気になれば、嵩利を素直にさせるなど、造作もない。そうしないのは素直になれぬ嵩利への訓戒である。

 「釦を…外して」

 言うとおりに、上衣の釦とシャツの釦を片手で外してゆく。その器用にうごく右手の指さきを見つめながら、ひしひしと、艶めく甘い刻を予感する。陽に灼けた素肌が、はだけさせた着衣の隙間に覗いて、呼吸と共に上下している胸の隆起へ、手をとって触れさせる。

 「いつものように、指で…弄って」

 そう強請るなり、するりと掌が肌へ滑りこむ。鷲頭は嵩利の要求のままに、愛撫を施し始めた。腹から胸にかけて、程よく鍛えあがった肉体を確かめるように撫で、指の腹で乳頭を捉えて軽く押し潰したあと、抓まんでゆっくりと転がす。それが形を成し、膨らみを持つと同時に、嵩利の唇からちいさく、鳴く声が漏れる。

 「その次は…?」

 「も…ぅ、ゆるしてください…」

 「許すか許さぬかの問題ではない。今日はきみから強請らぬ限り、ことを進めはしない。そう決めた」

 脇腹へ掌を吸いつかせて、擽るようにしてなぞりつつ、囁きかける。その声音はおそろしい程やさしく、見上げてくる表情は、ふたりきりの時にだけ見せる、多分に艶の浮いたものである。羞恥だけではない、形容し難いものに襲われて、嵩利はからだを震わせた。

 ここは素直に、鷲頭へ甘えればよいだけなのだが、逐一どうして欲しいのか言えというのは、この上もなく羞かしい。これも教育だというのか、それとも気紛れの悪戯なのか。
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| 綿津見の波の色は・61―70話 | 22:41 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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  綿津見の波の色は・第陸拾伍話

 この肌の何処に触れば甘く鳴くか、鷲頭は全て心得ている。また、この身にかれの指と唇とが、触れていないところなど無いに等しいだけに、嵩利は鷲頭が宣言したその方針を拒んだ。

 といっても、腕の檻に囚われてしまっては、いまさら抜け出すことはできない。それでもこのような事態には、我慢ならないわけで、精一杯の抵抗を試み、容易には逆転できぬこの状況を変えようとするも、鷲頭は諾きいれない。あくまでも回りくどいやり方で、羞恥に悶える嵩利のすがたを楽しんでいる。

 それでも、黒目がちの潤んだ瞳に見詰められ、切ない声音で再三懇願されれば、さすがに鷲頭の意思も揺らぐ。それと同時に、何もかもかなぐり捨てて、嵩利を隅から隅までくまなく喰らいたい、という一種獣じみた欲求が衝きあげる。

 「そこまで拒むのなら、しかたがないな」

 拘束していた檻を解き、腕に抱いた嵩利をそっと厚い敷物のうえに寝かせる。半ば眼を閉じ、晒した半裸を隠すように着衣をかきあわせて、悩ましいため息を漏らす。紅潮した頬、しなやかに息づく胸元、纏った純白の軍服のしたに在る、均整のとれた肉体は、もはや想像するまでもない。

 「まさか、このままで済むとおもってはいないだろうな?」

 血が、沸々と煮えるように熱く、心臓へなだれ込み、体を疼かせる。覆い被さるなり組み敷いて、低く囁きかける。鷲頭の餓えた眼の色に、嵩利は思わず身をすくめた。尋常でない欲望を纏っているのを感じて、最後の砦とばかりに、襟元を隠すようにしていた手に、ぐっと力をこめる。見上げた鷲頭の表情は、凶暴な猛禽そのものであった。

 「まだ、怒っているんですか…?」

 たじろぎながら訊いてくるのには答えず、握りしめている手を毟り取るようにして襟元から剥がす。はだけた軍服とシャツを暴き、喉許から胸、腹にかけて噛みつくようにして褐色の肌を貪ってゆく。くまなく、容赦なく濃い紅色の痕を残して、体中に花が咲いたかのような有様になるまで、鷲頭の行為は続き、そのつど嵩利の唇からは、悲鳴めいた喘ぎが漏れ出た。

 ぎりぎりまで肌の隠れる軍服を着込むといっても、それでも隠せぬ場所へも痕はつけられてい、嵩利は恨めしげに鷲頭を見上げて睨みつけた。明後日の朝から、また海軍省へ出仕せねばならぬ身だ。このようなからだを、大勢いる士官たちの誰かしらに、見咎められないとも限らない。

 「酷い、春美さん…ッ」

 そんなことは、鷲頭も百も承知である。それをわかっていて尚、愛した証を刻んだ。眉を吊り上げて怒る嵩利を、凄艶ともいえる目許を細めてみせ、黙らせる。唇を奪い取って、いつかの、“暴君”であったころの強引さを剥き出しにして、捩じ伏せる。

 意思の疎通が浅かったころと違い、鷲頭のこういった強引な振る舞いにも、今は烈しい愛情が渦巻いているのを、嵩利は骨に沁みるほど感じている。すっかり力の抜けきったからだを、鷲頭は軽々と抱き上げて、奥の部屋へ拉し去る。いちどこうして落としてしまえば、あとは寝台へもぐりこんで、この宵中、嵩利を絶え間なく囀らせるだけである。
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| 綿津見の波の色は・61―70話 | 20:55 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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