大日本帝國軍の愛と友情の日々

逓信省の検閲済でありますが、男色趣味満載ですので、苦手な方は華麗なターンでご退却下さい!所謂BL小説サイトです。右側に注意書きがございます。必ずご一読ください

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  綿津見の波の色は・第参拾壱話

 襖も障子もしめきって、いまはただふたりきりで居るこの部屋で、嵩利は鷲頭の膝へあがって、うしろから緩く腕を回されて抱かれながら、ひとつひとつ、書き記した紙片をとりあげてゆく上官の武骨な手を目で追っていた。

 これこれといった症状もあり得るから、もうすこし体を労われとか、酒を飲まぬ日を一日でもいいからつくれとか、面と向かって言えぬ事柄を、几帳面な字で喧しく書きつけてある。

 口許に笑みを湛えながら、鷲頭はあたたかな気持ちを以って一枚一枚、読んでゆく。あとはきれいに畳んで、懐から取り出した手帳にはさむ。それは公務中も肌身離さず、持っているものだった。

 「ようわかった。もう、これからは遠慮せんでええ、我儘でも小言でも、何でも言うてくれ」

 と、あたまを撫でられながら穏やかな声音で言われ、嵩利はだまったまま、こくりと頷いた。からだを横向きにずらして膝立ちになり、ひろい肩へ両腕を投げかけて甘えるように抱きつく。そのそばで、上官が今朝方まで熱を出していた身だということを、思い返す。

 「ああ、いけない。こんなことしてちゃァ、だめだ。また熱が上がったら大変…。艦長、いま床をなおしますから、おやすみになってください」

 離れがたいのをぐっと堪えて、これから夕飯をどこで調達してこようか、などと無理に別のことへ思考を巡らせつつ、嵩利は腕をといて身を離すついでに、鷲頭の額へ己が額をぴたりとくっつけてみる。すこしばかり熱いように感じた。やはり一晩では治るものではないな、と浮かぬ顔をする。

 「まだ、安静になさっていたほうがよさそうです」

 膝をついたまま、上官の顔を覗きこんで言うと、すかさずその手に、そっと頬を包まれる。まっすぐな眼差しでつくづくと見つめられ、嵩利の胸の鼓動が増してゆく。

 「そうか。だが熱があるのは、私ではないかもしれんぞ。赤い顔をしているのは、きみのほうだ」

 「違います、これは、その…」

 「放っておいていいのなら、私は遠慮なく、休ませてもらうが」

 「…っ!」

 すべてお見通しである。羞恥に耐え切れず、さッと下を向いてしまう。こんなとき、接吻のひとつでもいいから、心から溢れそうなほどに詰まった、上官への想いを示したいとおもっても、どうしてもできない。まして強請るなど以ての外である。だが、高ぶる気持ちに、我慢は限界に達していた。

 「嵩利」

 低く甘く、鼓膜にひびくその声は、嵩利の理性を揺さぶる力をもっていた。気持ちが高まり、切なさに涙が滲んでくるに及んで、嵩利はちいさく頭を振った。

 ―嘘だ、接吻だけなんて嫌だ。抱きしめて、もう離れたくないんだ。今じゃなきゃ、嫌―

 愛しい者の名を呼んだあと、鷲頭はじっとかれを見つめていた。

 意を決して面をあげたときの嵩利の表情を、鷲頭は生涯忘れまい、とそうおもった。上気した頬と潤んだ瞳―しかし揺れてはいない―、かたちのよい唇はかるく結ばれて、それは凛々しくさえあった。

 しなやかな手が伸びて、頬を撫でて包む嵩利の指さきが、すこし震えている。熱を帯びた眼差しは伏せがちな瞼に隠れながらも、鷲頭から離れない。唇が、まず頬を啄ばんで、次にやわらかく唇を吸った。かれから施される接吻は、これが二度目である。

 幾度かそうして啄ばまれたあと、ゆっくりと舌を割り入れられ、深いものへと変わる。歯列をなぞり、舌を絡めては撫で、また絡めとる。じっくり口腔を愛撫してゆく。鷲頭は一切を任せて、副官からの深いくちづけにそっと応えてゆく。

 大切に大切に、鷲頭を扱う嵩利。

 逐一丁寧な舌遣いに、鷲頭の身は疼いた。その疼きは快感によるものではない。この心地よさは違う。愛を得た本当の温もりとでも言えばよいのか、これまでは一方的に快楽を与えて、漬け込んで、嵩利の理性を奪い取って、かれが淫れてゆく様を味わって悦に入っていたに過ぎない。

 「嵩…利」

 息を継ぐ合間に、鷲頭は再びかれの名を、満ち足りた吐息とともにくちに乗せた。長い長い接吻を終えて、向き合った。いま初めて見つめ合うかのような気持ちを得て、鷲頭から微笑みかけられ、己の想いがきちんと伝わったのだと、嵩利はそれで知る。

 「あの…」

 「何だ」

 潤んだ眼で鷲頭を見上げたまま、嵩利はそこで言葉につまる。胸に這わせた手をそろりと動かし、袷の襟へ滑りこませた。ネル生地の肌襦袢のうえから、誘うように指を蠢かせて、胸板を擽ってみせる。きゅっ、と切なげに眉を顰めたあと、鷲頭の耳へ唇を寄せ、尖った耳の縁を食むようにしてくちづける。

 「抱いて…ください」

 春美さん、お願い。と消え入りそうな声で囁かれ、鷲頭は疼いている体内で血が滾るのを、もう苦くおもうことはなかった。嵩利を横抱きにして、奥の襖の向こうへ連れてゆく。
→【13話】 →目次へ戻る

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| 綿津見の波の色は・31―40話 | 15:02 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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  綿津見の波の色は・第参拾弐話

 抱いてくれ、と強請った嵩利はしかし、寝具のうえでいつものようにおとなしくしてはいなかった。

 鷲頭に抱きついて離れぬ嵩利を、腰をおとして胡坐をかいた腿へ座らせる。そうしてかれの身から、纏った着物を取り去ってゆく。

 その手を拒みはしなかったけれども、じっと鷲頭の眼を覗き込みながら、胸に指を這わせて纏う羽織の紐まで辿る。指さきに紐を絡めてゆっくりと引いて解き、躊躇のない仕草で腰へ腕を回すと、帯を解いてゆく。

 「今日は…、ぼくからしても、いいでしょう?」

 既に嵩利は、身につけている物をあらかた解かれていたが、着崩れたその姿のまま、蕩けるような声で強請る。だが、返答は待たない。隅々まで鷲頭に触れたい、かれを愛していると行為で告げたい、それが嵩利の望みだった。

 強く襟を掴んで、鷲頭を寝具のうえへ押し倒してしまう。かれの腰へ跨るなり、ぴたりと体を重ねる。乱した襟をはだけながら、胸元へくちづけ、指さきで愛撫を施す。

 叩き込まれた“教育”の成果が、ここで花開いてゆく。

 可憐ともいえる唇が肌に触れるも、その奥で動く舌は裏腹に貪欲であった。嵩利は無心に鷲頭のからだを愛撫し続け、室内には衣擦れの音のほかに、ふたりの吐息と、時折擦れるような声で鷲頭が艶めいた呻きを漏らすようになり、確実に互いの熱が高まる。

 あらゆる手を尽くす嵩利の行為は、“教育”の蓄積によって、鷲頭を煽りたてるに十分なものに変わっていた。

 「春美さん、あぁ…」

 四半刻はその行為が続き、嵩利の引き締まった臀のしたで、熱を持ちはじめた鷲頭の一物が、かたちを成してその存在を訴える。ここまで熱を昂じさせられても、鷲頭は成すがままにされている。着ていたものは全て暴かれ、肌はあまさず指と舌とで煽られて、火照っている。普段は慎ましやかな嵩利の唇が、濡れて妖しい光を帯び、ふたたび胸の隆起をなぞってゆく。

 唇が滴るような音をたてて乳頭を含み、吸い上げる。膨らんだそれを舌と歯とに挟みこんで、やわやわと甘く噛まれれば、快感は否応なしに刺激される。

 「ん…ッ」

 羞恥は如何ともし難い。その瞬間息をとめ、喘ぎを押し殺しても、からだは応える。ぴくん、と胸筋が跳ね、その反応だけで嵩利には充分であった。鷲頭のからだをひとつひとつ、余さず漏らさずに検べ尽くしてゆくつもりでいる。

 指ひとつ触れられていないのに、嵩利のもちものはすっかり勃ちあがっている。鷲頭へ愛撫を施しているあいだ、興奮をおさえきれなかった。自身の下腹部へ突き当たりそうになっているそれを、引き締まった鷲頭の腹筋との間に挟み、二、三度揉みこむ。じわりと先走りが零れて、互いの肌を僅かに濡らす。そうしながら、嵩利は臀が疼くのを感じていた。きゅうっと蕾が収縮し、続いて体内が蠕動する。

 「いつも、して貰っているけど、春美さんのようには、巧くできない…きっと…」

 するりと、嵩利のしなやかな身が滑りおり、解いた六尺を丁寧に外す。くっきりと雁首の際立つ鷲頭のもちものが、かなりの熱と重さを加えてそこに在り、嵩利の両掌に包みこまれる。

 「いや…。私をここまで煽っておいて、それはないな。謙遜が過ぎるのではないか?」

 ほんの少し、からかうようなものを滲ませて、嵩利を見上げる鷲頭の視線は、多分に艶を含んで笑んでいる。

 「もうっ、意地悪…じぶんを棚に上げるなんて。忘れたなんて言わせない。ぼくをこうさせたのは、春美さんです」

 ほんの一瞬、呆れたように見開かれた瞳が、細められて甘く窘めるものに変わる。拗ねたように囁いた唇が、そっと鷲頭の雄へ触れて、まず雁首を食む。その感触に、鷲頭の情欲が擽られる。

 穿つように亀頭の割れ目を舌先でやわらかく抉り、そこから丹念に棹を根元までくちづけて、口腔へ導く。歯をたてぬよう、慣れぬ口淫ながら、焦らずに確実に鷲頭を追いつめてゆく。

 淫欲をかきたてる鈍い水音を嵩利の唇が奏でて、ふたりの耳を聾する。喉奥まで鷲頭の雄を咥えては、舌を遣って愛撫を繰り返す。

 「そろそろ、綻ばせねばならんな」

 鼓膜を震わせるほどの甘い声でそう言って促し、体の位置をずらせて二つ巴の体位に変えさせる。ひたり、と鷲頭の武骨な掌が、嵩利の臀をつつみ、そろりそろりと撫でてゆく。慣れた手つきで後孔へ指をあてがい、そこがひくついているのを確かめる。

 「っ…んぅ…」

 一物を咥えたまま、嵩利は悩ましく喉奥で呻く。ぞくぞくと臀から腰、背筋にまで震えがはしり、わずかにからだをくねらせる。体温でとろみのついた軟膏を纏わせた鷲頭の指が、嵩利の蕾を開いてゆく。

 「は…ッ、あ…、春美さ…ぁん」

 唇の端から、体液とも唾液ともつかぬ雫をしたたらせながら、埋めていた股間から漸く顔をあげる。仰け反らせた喉は汗に濡れて、悩ましく喘ぐたびに艶かしい光を放つ。
→【14話】 →目次へ戻る


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| 綿津見の波の色は・31―40話 | 00:27 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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  綿津見の波の色は・第参拾参話

 己で“教育”を施したにもかかわらず、嵩利の振る舞いは鷲頭が想像した以上のものだった。何か、箍が外れたとでもいうのか、いままで抑え込んできたものが溢れ出したようであった。

 たっぷりと蜜を含んだ蕾から指が離れると、嵩利は快楽に酔って上気した顔に、微かな笑みを湛えながら、体を寝具へ滑らせて横臥する。鷲頭の頬を両手で包み、引き寄せると唇を啄ばんで眼を覗きこむ。

 いつもの鋭い眼であるが、熱っぽい飢えた光を宿して嵩利を射抜く。鷲頭のその眼差しに耐え切れず、嵩利は組み敷かれた腕のしたで、微かにからだを震わせる。

 「ん…っ」

 「随分と翻弄してくれたものだな?」

 粘りつくような手つきで臀を撫で上げたあと、屹立した棹を臀のあいだに押しつけながら低く囁きかける。熱いそれが、ゆっくりと擦りつけられ、蕾が舐められるようにして緩慢に刺激される。嵩利は恨めしげな―艶も含んだ―表情で鷲頭を見上げ、渇きを募らせるその行為に耐える。

 「我儘でも小言でも、遠慮するなって。春美さん、先刻そう言ったべ」

 焦らされながら、もどかしく眉を顰めて、嵩利はなかば羞じいり、拗ねたこどものように呟いて、頬を膨らませた。しかし渇きは増すばかりで、しなやかな脚を鷲頭の腰へまきつけ、挑発するように締め付けた。

 「ぁ…、ああッ!」

 その催促に、腰を据えて、焦らしていた蕾へ亀頭をあてがう。濡れたそこは、吸いつくように鷲頭を捕らえて、体内へ導く。貪欲に蠕動する内壁。なかへ侵入してくる熱いものの感触に、びくん、とからだを跳ねさせて、嬌声をあげる嵩利。根もとまで収まると、うねるような腰遣いをみせて、鷲頭が嵩利を貪りはじめる。

 “血の滾る若者”の如き振る舞いをしながら、灼くような光が浮いた鋭い眼差しで、じっと嵩利を見つめる。嵩利はそれを恍惚とした眼差しで受け止め、熔かされてゆく体内を意識しながら、鷲頭の攻めたてに合わせて腰へ絡めた脚に力を入れる。一層深く抉られ、痺れるようなものが体をはしった。

 「そうだ。それこそ私が求めていたものだ。きみがこうして、曝け出してくれるのを…」

 鷲頭が拓いた嵩利のからだは、一層艶かしく、蕩ける蜜を滴らせた妖花となって、ここに咲いている。そう、ここだけで、鷲頭だけが愛でることをゆるされた花。咲くことを知覚した今、何の躊躇いもなく嵩利はその欲望をあらわしている。

 こうして鷲頭が手塩にかけて育ててきた嵩利だが、ふたりきりのとき、これだけの花を咲かせながら、普段はその片鱗もみせない。堕落した匂いはまったくない。鷲頭の手練手管に、溺れてもおかしくないほどの行為に漬けこまれているにもかかわらず、嵩利は奇跡的なまでの清々しさを保っている。

 三十を過ぎてなお、紅顔の美少年然とした端整な貌。引き締まったしなやかな体躯。それらを兼ね備えた嵩利が、ほんの少しでも妖しき“匂い”を持ったなら、その種の好事家にとっては、垂涎の的であろう。

 権力や金に物を言わせ、恣に欲を貪る好事家連中が、社交界や政界、軍部などにこの当時、紳士の仮面を被りながらも、確かに潜んでいた。このとき鷲頭も嵩利も、そのような下衆中の下衆の存在など、まったく知らずにいた。それどころか、そのような連中にかかわるような羽目に陥るなど、考えたこともなかった。
→【4章・1話】 →目次へ戻る


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| 綿津見の波の色は・31―40話 | 21:27 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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  綿津見の波の色は・第参拾肆話

 春先を待って、盤手が率いる北方警護艦隊は、小倉へ向けて出航した。

 今年は陸海軍合同の大演習があり、大湊から南へゆくにつれ、春の匂いが海風に乗って艦艇へとどく。灰色の海と真っ白な雪に閉ざされた冬の北方にいたころの、ともすればほの暗い、沈んだ艦隊の気分が、すうッと晴れてゆくようでもあった。

 新品少尉たちにとって、鷲頭艦長は厳父のようにありがたい存在であったが、所謂、出世街道からみれば、鷲頭の歩むそれは、みごとにコースを外れている。それにはひとつ原因があった。

 日露戦争後、海軍において、艦隊の性能を質量ともに向上させることに着目し、のちの八八艦隊思想の土台ができあがりつつあった。軍艦は国産化に成功したけれども、建造費はますます日本の財政を圧迫しており、鷲頭はその現状に苦言を呈したことがある。

 その発言に吃驚したのは親しい友人たちで、めったに口を開かぬ鷲頭が、水交社の片隅でぽつりと漏らしたその論は確かに正しく、“軍人政治に関与する勿れ”ということになっていても、国民を押し潰すかのような重税が、海軍の軍事予算となっている事実に対して、“国を守るため”と、開き直って娑婆を闊歩するまねは、鷲頭にはできなかった。

 日英同盟があり、国債を外国に買って貰って、ようやく資金を調達しての、日露戦争辛勝であったことを、海軍の上層部は忘れているような節が、鷲頭には窺えた。日本海海戦の神がかったような大勝が、その原因のひとつにあるのは、否めない。

 事なかれ、長いものに巻かれろ、右へ倣え、といった村社会で成り立ってきた日本民族の慣習は、軍隊という組織においてはその舵取りを、いつか誤らせるときが来るのではないか、と鷲頭は親友たちの前で零した。

 それから、そのはなしが何処で漏れたのか、鷲頭はひと月も経たぬうちに、あの海戦で栄光を浴びた日進の艦長を降ろされる。その後、海軍大学校教官、候補生遠洋航海艦隊、北方警護艦隊、といった道を辿って今に至っている。このような人事のあとに来るのは、待命がほぼその道だが、このまま予備役に入ろうが、鷲頭にとってそんなことはどうでもよかった。

 親友の加藤は、鷲頭の論をかたく支持していたが、独特の情報網から得る、現状の政府軍部のうごきは、“時機不相応な晴着を仕立てる”ことに熱心で、とても苦言を呈せる余地はなかった。加藤はひとまず知らん顔をしながら、鼬のように注意深く、行く先を見つめてゆく道をとった。

 いつも怖い顔をして、艦の真ン中に鎮座している鷲頭だが、その心は常に自分以外の者たちに向けられている。我が物顔をした海軍が、国民からソッポを向かれるような、そんな事態だけは避けたかった。

 ―なあ春美、お前が海軍大臣になるなら、おれが次官になってやるよ―

 次官として海軍省へ異動になりそうになったとき、加藤はのらりくらりとかわして“軍人”の立場に留まったが、鷲頭の前でそう言って、暗に励ました。加藤は相変わらず、陽の当たる表舞台に立つような職に就いて、鷲頭に先んじて、先年の秋に少将へ進級している。次官騒動の際、間にはいった城内長官に引っ張られて、いまは呉鎮守府の参謀長である。


 小倉に、聯合艦隊さながらの百五十隻から成る規模の、帝國海軍艦艇が現れ、その壮観さ観たさに、近隣の県民が見学につめかけた。未だ演習は先だというのに、早くもお祭りのような賑やかさで、街は陸海軍の歓迎に埋め尽くされている。

 盤手をはじめとする北方勤務に就いていたすべての乗組員に、二日間の上陸許可をおろした鷲頭は、そっと安堵のため息をついて、艦長私室へ引っ込んでいった。いまは、副官すら傍にいない。

 嵩利には佐世保、呉、舞鶴鎮守府から小倉へ来る司令長官、及び参謀長を迎えるための接待役を仰せ付けて、艦から放り出してある。別段、嵩利はそのことに対して不審も抱かず、むしろ重要な役柄を任されて、どことなく緊張感を漂わせながら艦を降りていった。

 この当時、佐世保と呉、舞鶴の長官、参謀長は、ふしぎな縁か、互いに信頼しあっている同期か先輩の将官ばかりであった。いわゆる、軍縮賛成派である。特に鷲頭の爆弾発言を、眉ひとつ動かさずに受け止めた、呉鎮守府の城内司令長官は、軍縮を唱える者たちが頼りにしている、地下組織の親玉のような存在になっている。

 無論、嵩利はそんな対立派閥が海軍に於いて水面下でぶつかり合っていることなど、まったく知らない。いつもの、どこか清々しい無邪気なものを漂わせたまま、小倉の街にある海軍官舎へ、巨頭たちを出迎えに足を踏み入れる。
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| 綿津見の波の色は・31―40話 | 19:11 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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  綿津見の波の色は・第参拾伍話

 「おゥ、なんだい。こりゃァ随分と可愛いのが出迎えてくれたもンだな」

 車から降りて官舎の正門前に立った中将は、開口一番伝法な言葉遣いでそう言って、あたまからつま先まで、出迎えを務める嵩利を眺めた。

 佐世保鎮守府司令長官の、那智源吾中将である。

 東京―かれが生まれたころは、まだ江戸と呼ばれていた―は深川のうまれ。理屈に合わないことと、理不尽に物事が停滞することが何より嫌いで、鷲頭と昵懇の仲だけに、なかなか理知的で現実主義者である。その割に洒脱で粋なおとこ振りをみせる、中村座の役者のような貌立ち、容姿と共に絵になる人物である。

 「海軍士官に向かって何です、長官。芸妓相手じゃないんですから。…千早大尉、すまないね、迎えに来させて。本来なら私たちが動くべきなのだが」

 横から呆れたように窘めてから、嵩利の役目をねぎらったのは、参謀長の新見暢生少将である。

 このひとは越前の出身で、影のようにひっそりと立ち回って、その功績をほとんど表に出したことがないという。無欲な廉潔の古武士として海軍内で有名である。

 そんな新見から窘められた那智は、こういうときは可愛げがねェんだから、お前ェさんはよ、と、粋な仕草で振り向いて眉をあげ、新見を見遣ると鼻先で笑い飛ばす。姿勢を正して佇んでいる嵩利の傍へ立つと、遠慮会釈なしに軍帽をとりあげ、指さきでくるくると皿回しのようにしながら、

 「可愛いものァ、可愛いだろうがよ。ま、細けェこたァいいよ。ところで千早大尉、鷲頭はどうした、まだ艦に残って降りて来ねェのかい」

 と、短く剪った嵩利の髪をわしわしと乱暴に撫でながら、訊いてくる。しかし、嵩利の答えを待たず、無造作に、ぽすんと軍帽をあたまに載せたかとおもうと、背後から腰へ腕を回して、軽く抱き寄せる。

 『長官ッ!』

 みごとに声を被らせて言う新見と嵩利。へへへッ、と那智は悪びれもせずに笑って、嵩利から一歩、身を離す。

 「オイオイ、洒落だ洒落。何だよ、黄色い声出しゃァがって面白くねェなあ。鷲頭の嫁に手ェ出すような無粋なまね、おらァしねェよ」

 そう言っていることが本心なのは、その前まで飛ばしていた軽口と、まったく声音が違っていることでわかった。それに、ちらりと新見へ向けた眼差しが、一種の鋭さを持っていて、参謀長はそれでぐっと黙り込んでしまった。

 その微妙な機微のやりとりで、嵩利は敏感に察していた。このふたりが、鷲頭と嵩利の関係と全く同じなのだということに、気づいたのだった。

 「横鎮の煩ェのが来るまえに、いつもの場所にしけこむとするか。おらァ、あんな輩と顔つきあわせてめし食うのは、ごめんだね」

 車に長時間乗っていたからだを解すように、那智はひとつ伸びをしてから、ゆったりとした口調で言った。

 「その前に、面倒なやつを艦から降ろさねェとな。ひとりで仕舞いこんでやがったら、只じゃァおかねえ」

 鷲頭を案じているのが、ありありとわかる。こうして息をまいている那智は、まるで兄か何かのようで、あの鷲頭をグウの音も出ない程、遣りこめてしまいそうな威勢のよさに、嵩利は驚きを隠せない。

 呉鎮守府の城内指令長官と加藤参謀長が、このあと来る筈であるから、千早大尉はここでもう少し待つように、と言い置いて、佐世保鎮守府の重鎮ふたりは揃って車に乗り込み、去ってゆく。それは、まるでちいさな嵐のようで、黒塗りの車が遠ざかるのを、嵩利は目を丸くしながら見送った。
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| 綿津見の波の色は・31―40話 | 23:22 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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