大日本帝國軍の愛と友情の日々

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  綿津見の波の色は・第佰玖拾話

呉鎮守府へ登庁した鷲頭は早速、少なからず関わってきた長門のこれから―竣工後の公試運転や母港となる横須賀への移動など―について、工廠長の落合と執務室で打ち合わせを行った。

「もうすぐ嫁ぐ娘を持った父親のような心持ちになってきましたよ」

あと何か月かで長門のボイラーに火が入り、推進器を回して呉軍港を出入りする姿が見られるだろうことに、落合は改めて想いを籠めた溜め息を吐き、窓の外に視線を向けつつ噛みしめるように呟いた。

呉で生まれた長門も、その初めから聯合艦隊旗艦として就役することが決められているため、横須賀籍となるからである。軍務の都合などで時々は呉へ入港―里帰りするであろうが、起工式ではじめの産声をきく前から携わってきた落合としては感慨もひとしおなのである。

しみじみとした表情で紅茶のカップを取り上げた落合へ、鷲頭はゆっくりと頷き返す。

「あれは今までのフネとは次元がちがう初めての艦だ。工廠長の気持ちも解るぞ。公試の記録もどのような値となるのか、兵科士官としては今から楽しみではあるが・・・」

勿論、兵科士官が最大限に性能を活かした運用をしてくれるだろうことは間違いないと落合は思っている。艦長があの嵩利で、残る第一艦隊司令部の面々も精鋭揃いで既に決定しているのだ。

「もうひと踏ん張り、ですなァ」

六月も早々に、鷲頭は長門に乗艦するようにと、海相の那智から内示めいたものを個人的にだが受けている。秋ごろには正式な辞令が飛んでくるだろう。海軍の通例から言って今度の司令長官着任が、最後の海へ出る任になるだろうことを確信している。

「うむ。こちらも長門に関して山積していた事項が目に見えて片付きつつある。愈々、大詰めだな。だが・・・今朝に顔を合わせてから気になっていたが、工廠長、やはり些か顔色が優れぬようだな」

会合を終えてから漸く、鷲頭はそのことについて言及した。

「なんのこれしき。吉井が休暇から戻りましたら、交替で少し休ませていただくことになっておりますので、心配は要りませんぞ」

すっかり潮焼けして年季の入った落合の精悍な貌は確かに、青ざめた色をしているのだが、それでも何とも言えぬ嬉しげな笑みが広がり、遂には破顔と共に声を上げて笑い出すのを認めて、鷲頭は怪訝そうに眉を寄せた。

「いやいや、申し訳ない。つい思い出してしまいましてな。鷲頭くんの熱心さに吉井くんがとうとう折れて、一緒になって奔走しておるのです。二、三日の上陸休暇も連れだってあちこちに打ち合わせに費やす始末で…、その甲斐あってか遅れも大幅に取り返せたわけですが」

やっと軍務から引き剥がし、二人ともしっかりと休暇を取るようにと厳命して長門から放り出すことに成功したのだという落合の言葉を受け、鷲頭は昨夕からの嵩利の振る舞いを思い返す。疲れを滲ませた様子など露ほども感じられなかったが、大事を控えているのだから、ここはゆっくりと静養させなければならんな、と思いを巡らせた。

「まったく…、困ったやつだ」

鷲頭自身が同じ大佐だった頃と重ねてみれば、いまの嵩利の振る舞いなど可愛いものなのだが、それをすっかり棚に上げている。

「少しは休めと言ったら、図面だのを挟んだ書類綴りを脇に抱えたままでも、メイやロックやらに行ってふたりで酒を傾けながらのんびりしてきました、と返されましてな。実際に確かめましたが、レスには行っておったので今回は目を瞑ってやってください」

瞼を閉じて重々しく呟いた鷲頭をまあまあと宥めながらも、指先で揉み解している眉間にいつもの厳しさがないことに気がつく。鷲頭が実は、嵩利の言動に対して然程の苛立ちや不満を覚えていないのだということに微笑ましい気分になった落合は、鎮守府を辞して工廠へ戻っていった。


一方の入船山では、殆ど何も持たずに身一つで艦を降りた嵩利が暇を持て余していた。軽い昼食ののちに長官公邸の周辺を散策したものの、深い緑のほかには見るべきものもなく早々に和館へ帰ってきている。

鷲頭が登庁してから直ぐ、ほんの一刻ほど眠って目が覚めてしまって以降、一向に眠気が戻ってこないのだ。睡眠不足ほど後々身体に堪えることはないとわかっているのだが、どうしようもない。街へ出てみようかとも考えたが、自然と軍港へ足が向いてしまうのは目に見えていたし、工廠長の厚意を無下にしてしまうことにもなりかねない。

悩んだものの結局は鷲頭が書斎として使っている部屋に入って、書籍を読み漁って抜き書きなどをしているうちに陽の傾いた夕刻に差し掛かり、鷲頭が定刻より少し早く鎮守府を退いて公邸へ帰ってきた。

自室で眠っているのかと足音を忍ばせて窺ってみるも、居なかった。一応、睡眠はとったのであろう寝具は綺麗に畳まれている。洋館の方は扉に鍵が掛けてあるので居る筈もないのだし、後に思い当たるのは書斎くらいで、直ぐにそこへ向かう。

襖をスッと開けてみれば、座卓に向かって書籍を広げている嵩利の姿が視界に飛び込んでくる。嵩利は驚いたのだろう、顔をあげると僅かに眼を瞠りながら鷲頭を見上げたが、直ぐに笑みを浮かべて帰宅の挨拶を寄越す。

「おかえりなさい、今日はお早いのですね」

普段通りの態度でいるのは間違いないのだが、何とも言えぬ凄味があることに気が付く。今朝に会った落合にも似たような気配があったことを思い返して、俄かに不安が過ぎる。

「嵩利…、休暇なのだから何もせずに居てよいのだぞ」

「今日は殆ど何も為していませんが…?」

「そうではない、兎に角、頭を休めろと言っているのだ。鬼気迫るとまでは言わぬが、まったく酷い貌をしている。…やはり眠れなかったのだな」

「…はい。一刻ばかりで、あとは頭が冴えてどうにも無理でした」

読み耽っていた書を閉じながら、嵩利は観念したように言ってゆっくりと立ち上がり、幾冊か選ったものを腕に抱えて壁際に設えられた棚に並べてゆく。その姿を鷲頭は黙って見詰めている。

そうして廊下に佇んだままでいる鷲頭へと、存外しっかりした足取りで歩み寄るのを認めて安堵したとき、ふと距離を詰めた嵩利が耳へ唇を寄せて囁いた。

「眠れなかったのには、別の理由もあります」

涼やかな声音に潜んでいるものに鷲頭が気づかぬ筈もなく、たじろいだ刹那。窘めるべく開きかけた唇を、僅かな逡巡のあいだに嵩利に浚われた。熱く柔らかな感触に幾度も啄まれたのちに深く重ねられれば、昨晩の甘すぎる刻がよみがえる。

頬を撫でる手つき、背に回された腕と掌から伝わる熱、何よりも嵩利自身から匂いたつ蜜の香に、舌を蕩けさせる絡みつくような深いくちづけ。何も考えず、鷲頭はこのまま溺れてしまいたかったが、息を継ぐその瞬間に静かに一歩さがって身を引いた。

「いかん。今宵はいかんぞ」

顔を伏せながら横を向き、咄嗟に軍帽の庇で甘さに揺らぐ視線を隠しながら言い放つ鷲頭は、不満そうに眉を顰めて尚も詰め寄ろうとする嵩利の両肩を確りと掴んで拒みはしたが、それで突き放すように押し遣ることはせず、包み込むが如き抱擁を以って伴侶をとどめた。

「…わかるな…?」

鷲頭のそれは、嵩利の攻勢を抑え込もうと拘束するような乱暴なものではなかった。やさしく労わるだけでいながら、全身から伝わってくる鷲頭の熱と鼓動の高さが全てを訴えてかけている。肩先に頭をつけているから表情は判らないけれども、嵩利にはそれだけで充分であった。

「春美さんのことで頭が一杯ですから、また眠れないでしょうね」

悪戯っぽく笑声でそう言うと、撫でられていた後ろあたまを小突かれる。

「兎に角だ、夕食までまだ時間がある。眠れなくともせめて横になってい給え」

暫くそうしていると、段々と互いの鼓動が静まってくるのがわかる。珍しく鷲頭が大きく肩で息を吐くような溜め息を漏らし、漸く抱擁を解いて身をはなしたかと思えば、直ぐに踵を返して嵩利へ背を向けるなり、廊下をきびきびとした歩みで去ってゆく。

それで隠しおおせたと思っているのだろうか。嵩利はその後ろ姿を見送りながら微笑みを禁じえなかった。白い夏軍装と日覆いのかかった軍帽のせいで、鷲頭の項と少し先の尖った耳までもが、まだ赤く染まったままであるのを際立たせているというのに、当の本人は気づいているのか、いないのか。

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  綿津見の波の色は・第佰玖拾壱話

耳を擽るような蝉の声と雀の囀りをきいて、いまが夜明けであるのに気がつく。夕食後早々に居間から追い出され渋々自室へ戻ったものの、やはり限界に到っていたのだろう。床を延べて横になってからすぐに意識が途切れたように眠りに落ちたようだ。心身ともに疲労感が抜けてい、絶えずピンと張っていたものがゆるりと撓んでいるのを感じ取りながら、嵩利は床を抜け出す。

裏手に回って井戸端で顔を洗うついでに水を浴びるのも良いかと思案したが、存外ひやりとした山風に肌を撫でられて揺らぎ、結局は風呂の罐に火をいれることにした。もう暫くすれば鷲頭も起き出してくるのだし、丁度良いと踏んだからだ。確か今日は公休日の筈であるからして、目覚めの床に忍び入っても構わぬだろうと、罐の火加減を確かめながらほくそ笑む。


湯をつかい、寝衣から白い麻の絽に着替えて、猫のように足音をたてぬよう鷲頭の居室へ向かう。襖を引くとそこは、障子が外のあかるさを透かしてぼんやりと光が入っていたが、続きの寝室は欄間と小さな明り取りの丸窓があるばかりで、まだ夜の帳に閉ざされている。

枕元へ膝をついて、相変わらず寝相の良い伴侶の顔を覗きこみ、唇を軽く吸った。嶮しさのない安らかな寝顔をいつまでも眺めていたかったが、嵩利の気配を感じたのか、鷲頭は僅かに身じろぎをすると薄く瞼を開いてこちらへ頭を傾けてみせる。

「…二度も寝込みを襲う積もりか」

「いけませんか…?」

囁くように訊くも鷲頭の返答は待たず、ふわりと薄い上掛けを取り去りつつ隣へ身を滑り込ませてぴたりと寄り添うのにも躊躇いはない。頬へ唇を寄せてくる嵩利の髪を撫でてやると、仄かに湯の香が漂う。

「ひとつ言っておくが…、今日は登庁日だぞ」

襟のあわせへ手を差し入れ、その肌へ触れたとき。浅い溜め息のあとに言った鷲頭の声色には、安堵とも惜しむともとれぬものが含まれていて、嵩利は脳裏で素早く計算をし直してみた。

「若し、そうだとしても…、まだ充分に時はありますよ」

肌へ触れさせた手がそろりと動いて、甘く誘う。すぐ傍に添う嵩利の囁く言葉に抗えず、揺れる自身を認めぬわけにはいかなかった。

「随分と大胆になったものだな」

「春美さんがそうさせているんですよ、あなたが…あんな風にぼくを受け入れてくれたから、もう、一昨日からずっと中てられ通しだっていうのに」

寝衣の帯を解き、裾や襟を搔き分け乱して現れる肌に唇をつけてゆきながら、嵩利が熱のこもった吐息混じりに言ってのける。鷲頭は一辺に耳まで熱くなるのを感じて、狼狽える。

「あ、あの時は…だな…」

口篭ったものの、うまい言い訳が咄嗟にできるような性格ではないし、そもそも言い逃れなければならぬ理由などないのだ。気羞ずかしいというだけで厭うているわけではないことを、鷲頭はほかに示す術がなかった。

「ふふ、わかっていますよ」

何もかも心得ている嵩利にとって、それ以上の言葉は要らない。やさしく囁く声に反して施す愛撫は益々その欲を増し、鷲頭のからだを弛緩させてゆくのに余念がない。

「う…あッ、…んッ」

未だ群青の闇に沈んでいる閨に鷲頭の低く艶めいた喘ぎ声が融けるのを、嵩利はやはりうっとりと半ば陶酔するような心持ちで聴きながら、鷲頭のからだを拓いてゆく。

「た、嵩利…、そこは、ァあ、あぁ…」

後孔に塗りこめた軟膏を絡めたふたつの指先で内壁の一点を押し上げると、びくりと腰を跳ねさせて応える。ゆるゆると舐めるように弧を描かせながら焦らすも、切なく求める眼差しを寄越す上気した鷲頭の貌を認めて、嵩利は情欲を抑えきれなくなり、指の動きをを止める。

「ぼくが欲しいですか…?」

真っ赤になった鷲頭の耳へ唇を触れさせ、妖花の蜜を含ませた声音で囁きかけながら、奮い立つ雄を曝け出してそこへあてがう。濡れた菊座を舐めるように棹を擦りつけると、鷲頭が喉の奥でくぐもったように呻いた。すぐにも、蕩ける裡に奥深くまで沈めて鷲頭の媚態を堪能したくて堪らなかったが、ひとこと、欲しいとその唇で紡ぐまでは焦らす積もりで。

「あぁ…、欲しい。午になろうとも、宵になろうとも、きみと離れたくない」

頭をかき抱くようにして艶を帯びた低い声で耳へ囁き返してくるのを、天にも昇るような心持ちで聴き、嵩利は腰を進めて鷲頭の裡へ雄を沈めてゆきながら、少し声を低くして訊くのを忘れなかった。

「ほんとうに一日、こうしていて良いのですか?登庁日では…?」

「…いいや、…公休日だ。実はきみの計算が正しい」

「もう、素直じゃないなァ」

「す、済まない」

「謝っても、駄目ですッ!今日は罰として一日中、離しませんからね」

そんな他愛のない遣り取りが交わされる閨の明り取りの窓には、濃い紫に変わりつつある空と、まだくっきりと明けの明星が覗いている。

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